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【中編】怪奇現象の正体

 私は震えながらただひたすら泣いていた、去る事のない悪夢に屈しながらも。涙と言う感情で抵抗するように。

 しかし目の前の足音の主から聞こえてきたのは意外な声だった。


玲奈(れな)?大丈夫か?」


 私は頭を上げる。暗闇の中そこにいたのは兄だった。恐怖で流れていた涙が安堵に変わる。


「お兄……ちゃん……」


「おう、兄ちゃんだぞ。なんか叫び声が聞こえたから来たんだが、どうした?というか杖は?」


 杖?いやそんなことよりこんな暗闇の中じゃ上手く意思疎通出来ない。


「どうしようお兄ちゃん、早くここから抜け出さないと!」


「は?ここって……家の中だぞ?」


 え?家の……中?

 違う、確かに最初は家の中にいたけど今は暗闇の中だよ。


「な、何言ってるの。ほら、雨だって降ってるし」


「お前こそ何言ってるんだ、雨なんて降ってないぞ?こんな蒸し暑くてひぐらしだって鳴いてるじゃないか」


 兄の真剣な言葉に私は手先が震えた。そう、おかしいのは私だけだった。怪奇現象は私だけに襲い掛かっていたのだ。

 思考回路の行き場が無くなってしまった私はとにかく目の前の兄に助けを求めた。


「た、助けて!私怪奇現象に……」


 だが私の言葉は兄を困惑させるだけだった、突然妹から怪奇現象に苛まれていると言われても困るのは当然だ。でも正気が保てない今の私にはただただ助けてと言う事しかできなかった。

 兄は私が異様に怯えていることを察し背中を揺する。


「怖い夢でも見たんだろう、大丈夫。今はゆっくり寝て体調を整えるんだ、な?」


「学校は……」


「何言ってるんだ、もう夕暮れだぞ。それに今日は休日だ、学校はないぞ」


 夕……暮れ……?

 私が起きた時間は確かに夜中だった、そして朝までゲームで時間を潰して……学校に……。


「……玲奈?」


 私は理解の追いつけない状況に唸り頭を掻きむしる。……今にも狂いそうだった。

 それを見かねた兄が私の手を引き部屋まで送ってもらった。

 ──でも私は部屋に入るまの道中ずっと暗闇の中を歩いていた。いや、今も……。

 怖い、終わってくれない恐怖に、ただひたすらに視界を閉じた。


 部屋についたらしい、私は一人ベッドに項垂れると涙を流しながらうつ伏せてた。

 誰にも信じて貰えない、私だって信じたくはない。でも怪奇現象は私だけに降り注ぐ、正体すらもわからない謎の現象は私の傷を抉り取るように恐怖を与えてくる。


 そう、最初からおかしかった。


 夜中に起きた時スマホの時間が<13:32>になっていたこと。

 パソコンが勝手についたこと。

 朝なのにお父さんがいなかったこと。

 ドアノブに手がすり抜けたこと。

 部屋が消えて周りが暗闇になったこと。

 快晴なのに雨の音と落雷の音が聞こえ始めたこと。

 時間がいつの間にか朝から夕方になっていたこと。


 時間が経つにつれどんどん酷くなっていく。このまま時間が過ぎていくとどうなるのか、怖くて考えたくもなかった。

 気づけば私は眠りに落ちていた。きっと泣いて精神的に疲れていたのだろう、だからこの夢は疲れから来る悪夢なんだ。


 冷たい雫が頭上に落ちる。その雫はやがて眩い閃光を放ち轟く。

 轟音が過ぎ、私は隣にいたはずの人が視界からいなくなっているのがわかった。

 視線は下へ、下へと。さっきまでずっと私の隣で歩いていた男性に目を向ける。


「あ……あ……!?」


 そこに倒れていた死体は父親の姿だった。


「あああああああああ''あ''あ''あ''あ''あ''あ''!?」


 私は悲鳴をあげながら起床した。


「ゆ……夢……?」


 酷い夢だった。よりにもよって父親の死体を見る事になるなんて。


「ここは……私の部屋……そっか、私寝ちゃったんだ」


 部屋の中がわかる、ぼんやりしてるけど暗闇の中じゃない。

 また夜中に起きてしまったけど例の怪奇現象は収まったみたいだった。

 私はいつも通りスマホを手探りで探す。


「あった」


 掴んだスマホの電源を入れ時間を確認する、ぼんやりと表示される時間は


──<13:32>


「……なん……で……」


 明らかに夜中の時間帯じゃなかった、怪奇現象はまだ続いていたのだ。

 ──嫌な予感がした。

 私はスマホを握りしめると急いで部屋から出て兄のところへ向かった。


「お兄ちゃん!お兄ちゃんいる!?」


 場所がわからないため叫ぶように名前を呼んだ。


「なんだ、どうした?」


 昨晩の事もあってか、兄は私の焦りに対して落ち着いた声で返事をする兄。


「ね、ねぇ。お父さんってどこにいるの?」


 そう、私は今朝、いや夕暮れの時間に父親を見ておらず、今もいる様子が無かった。

 だからあの夢が、怪奇現象が嘘だと思うための唯一の手掛かりだった。

 もしこれ以上怪奇現象が酷くなるならお父さんに言って病院とか厄払いとかに連れて行ってもらおう。

 そう思っていた。

 ──そう思っていたのだ。


「何言ってるんだ、親父なら雷に打たれて死んだだろ」


 悪夢は覚めていなかった。無情にも兄は私の予想する、いや予想したくもない最悪の答えを言い放った。

 怪奇現象はついに夢の中で父親まで殺したというのか。


「嘘……嘘だよね?冗談だよね?何かの悪い冗談なんでしょう?ねぇ!?」


「ちょ、ちょっと落ち着けよ。お前昨日から変だぞ、どうしたんだよ一体」


「なんで、なんでそんなに平然としていられるの!お父さんが死んだんだよ!?お兄ちゃんどうかしてるよっ!」


 私は大声を張り上げ暴れる。

 突き詰めたくない現実に私は兄を批判して自分を正当化する事しかできなかった。


「どうかしてるのはお前だ玲奈!一旦落ち着け!」


 兄に無理矢理押さえつけられ落ち着くよう促されるが恐怖と混乱で興奮している私には届かず数分間泣きながら暴れてしまった。


「……落ち着いたか?」


「……」


 正直落ち着いていられるわけがない、でも話を聞かないと先に進まないから恐怖を抑え黙ることに徹した。


「まず、お前の父親は死んでいる。一年前に、落雷でだ。覚えてないのか?」


「……さっき夢の中でお父さんが死ぬところをみた。多分雷だったと思う……だから、悪い夢だったと、そう思っていたのに……」


「まて、話が合ってない」


 私は首を傾げる。


「まず聞きたいのは、去年のこの時期の事を思い出せるか?」


「去年……?うん……うん?あ、あれ……去年の夏って……あれ、なんで……?お、思い出せない」


「……マジかよ」


 そう、私は去年のこの時期、つまり夏の記憶が抜けているのだ。


「そういえば昨日からなんか悲鳴上げたり怯えてたりしていたよな?あれの詳細が聞きたい」


 そう言われ私は昨日起きた状況、信じられない怪奇現象についても全部話した。当然信じて貰えるとは思っていなかったが兄は真剣に長考していた。

 しばらくすると私の両肩を掴み話し始める。この時の兄はかなり青ざめていたらしい。


「……なぁ、お前……杖、松葉杖は?」


 昨日も言ってた、松葉杖?何を言っているのかわからなかった。


「松葉杖って、何?」


 兄は質問に質問で返した私の答えに対して深いため息をついた後こう話した。


「お前の怪奇現象の正体、わかったぞ」


 それは救いの言葉だった、兄が私の怪奇現象について理解するどころか正体すらわかってしまうなんて。私はその言葉を聞いただけで体の震えが止まった。

 ──だが、次に話す言葉を受け止める勇気が、この時は無かった。


「まず1つ、お前は記憶を無くしてる。恐らく去年の段階までの記憶しか持ってない、そして──」


 記憶がない、それだけでもショックだった。だけど次の言葉は、私の怪奇現象を解くには最も適切で、最悪な言葉だった。


「これは当時から俺も知っていることだが、お前は''目''が見えない。」


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