映画の約束
中3に入って、僕は彼女と同じクラスになった。そして、僕は彼女に恋をした。席が隣だったこともあるが、彼女は誰にでも明るく、少し内弁慶な僕にも積極的に話しかけてくれたからだ。彼女は、誰とでも分け隔てなく会話が出来るから、クラスでも人気者だ。まあ、僕にも友達はいるがいつも決まった相手でどちらかというと、日陰者だ。
彼女とは、釣り合わない。そう思った。
いつしか、他の子と話す彼女が笑うその笑顔に夢中になり、その視線がこちらに気が付いた時に、自然に目をそらすなんて芸当も身につけた。僕は、告白出来なくても、彼女を見るだけで幸せだった。何より、この状況が居心地良いと思っていた。だから、彼女のことを思っていることは、男友達の間にも知られないようにしていた。
そんなある日、たまたまお互いが好きな俳優が出ている映画の話で盛り上がったとき、彼女の方から
「今度、一緒に今やってる最新作、二人で見に行かない?」
って聞かれたときには、
「えっ?いいけど――」
「じゃあ、次の日曜日に、あそこのコンビニ前、分かる?」
って、僕が-僕なんかで大丈夫-って聞く前に進んだことに驚きつつも、飛び上がりたいほどに嬉しかった。その日から、約束の日まで勉強も手に付かないほどだったが、彼女の前や学校では普段通り過ごした。
その間に、僕の妄想は膨らんだ。もしかしたら、脈があるかもしれないって・・・・・・。だって、そうだろ日陰者の僕と、二人で映画を観に行くんだからさ。当日は、少し早めに起きて、約束の場所に予定より1時間も早くに到着したのも、仕方がないことだと思う。僕にはそんなデートの経験なんてないんだから。
彼女は、約束時間の10分ほど前にやって来た。なんか、気合い入った服装だった。元々ショートボブな感じの髪型は、サイドテールでおしゃれにアレンジされていたし、服装も制服よりジャージっていうぐらいの彼女が、ふりふり(フレア)スカートを履いてくるなんて思わなかった。
「ごめん待った?」
って定番の言葉に、僕は
「・・・・・・、あっ、僕も、今来たところ。」
って見とれて詰まってしまったのは、仕方がないと思う。
「まだ、時間あるから、ちょっとあそこのカフェに寄っていかない?」
っていう彼女の声は、いつもより心なしか弾んでいた。そして僕は、ちょっと彼女と目を合わせる、照れくささもあって
「何かあったの?」
って目を合わせないように聞いたんだ。
「やっぱり、分かった。」
「う、うん、なんとなくだけど。」
「その話もしたくてさぁ。あ、今日は私が奢っても良いよ。」
「いいよ。そのぐらい。」
むしろ、僕が奢ってあげたいぐらいだ。ということで、映画の前にカフェで休憩して、彼女の話を聞いたんだ。だけど、映画の前に、聞くんじゃなかったと思った。
僕は、映画の内容もあまり覚えていない。ただ、映画館のあるショッピングセンターの出口に向かって歩く彼女が、
「やっぱり、最高だったよね。主人公がヒロインを庇って倒れた時は、私、泣いちゃった。学校のみんなには言わないでね。」
とか、
「でも、あそこは笑えたよね。」
って、言っている彼女の笑顔をみると邪険にも出来ない。差し障りのない言葉と、いつも通り
自分は一体今まで何したんだろうって思った。今からでも告白すべきなのかもしれない。でも、
「丸君っって、いろいろ気が付いてくれるし、私に良いアドバイスしてくれるし、優しいじゃん。だから、結果を話しときたかったんだ。」
って、言われた後じゃ、もう遅かった。こんなことなら、告白して失恋した方が良かったのかも知れない。
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