第三話 frustrate
ダンジョン第十層。突如として現れたランク〈A〉モンスター、レッドサイクロプス。
俺は、死にかけていた。
振り下ろされるこん棒に、震える足が逃げることも許さず・・・
しかしそのこん棒は目の前で止まった。
「なっ・・・」
その衝撃からこぼれ落ちた言葉には三つの意味が込められていた。
一つ、死んだと確信に近かったのに助かっていた。
周りに人がいなかったから、助けも呼べないはずなのに・・・
二つ、前に人が一人いた。
その人は巨木のこん棒を白銀の片手剣の細い刀身だけで競り合っていた。
正直、今はこの人のほうが怖かった。レッドサイクロプスの単純な力はランク〈S⁻〉・・・木の家を握りつぶせるほどに到達しうるほどらしい。
そのモンスターと互角にやりあうなんて・・・信じることが難しかった。
三つ、その人が女性であったこと。
まだ筋肉ごつごつの男ならわかる。
彼女は、細く白い腕を見せている。
どこからそんな力が湧いてくるのだろう?
不思議だった。
「大丈夫?」
声を掛けられたからびっくりした。目を丸くしたが、気を取り直して、
「は、はい・・・」
「私もあまりこれには耐えられないわ。早く遠くに逃げなさい」
「はっ、すみませ~ん!!」
サイクロプスのこん棒からかばってもらっていることを忘れていた。
彼女の口調と裏腹に重い一言で、俺は少し遠くの岩山に隠れた。
次の瞬間、競り合いが解け、吹っ飛ばされた。
サイクロプスの方が
「・・・!!」
さらに彼女は目にもとまらぬ速さで追撃を食らわせる。
「・・・・・」
俺はあっけにとられていた。人外のスピードである。
相手に一度も攻撃させぬまま戦況は続いている。
正直言って、彼女の姿は見えずただヒュンヒュンと風を切る音が聞こえてくるだけだ。
そして、ついに彼女が動きを止めた。と思うと、目を閉じた。
「煢然として酸楚に満ちた紅の戦場、尽きることのない戦火の残滓よ、燃やし尽くせ、その遺憾を以てすべてを燃やし尽くせ!
〈失望の爆炎〉フラストレイト・ブレイズ!!」
目の前が炎に包まれた。
否、目の前に炎の柱が現れた。
そして、その中心にはあのレッドサイクロプスが飲み込まれている。
体内にある魔力回廊と空気中にある魔力成分をそれぞれ使って、詠唱を唱えることで発動する“呪文〟
詳しいことは良く分からないが、確かそういうことだったはず。
彼女が唱えた呪文は、こんな俺でも聞いたことのある呪文だった。
・・・ランク<S>呪文フラストレイトブレイズ・・・
俺の身体は震えていた。
その震えは何を表していたのか、俺には分からなかった。
・・・すでに、レッドサイクロプスの姿はなく、さらには、先程の女性も見当たらなかった。
先の呪文のまばゆい明りに乗じて姿をくらましたのだろう。
何もなかったように、沈黙があたりを包む。
俺は、深層域に進む道に振り向き、
「助けていただき、ありがとうございました。」
深々と一礼する。
その時握られた拳は
助けてくれたことえの感謝と、
自分の弱さへのくやしさをにじませていた・・・
仄かな灯りが夜空を照らしている。
カナタリアの住宅街から少し離れたとある丘の上の中心に立つ青々と茂った木の下。
「・・・・・」
俺は何もしゃべらずその木の下に座って、ぼーっと夜空を眺めていた。
雲一つないその夜空の星々はひときわ増して輝いているように感じた。
ここは俺とライリが初めて会った場所だった。
二年前、祖母の家から出て、この街に来たばかりの頃、
街を散策していた時に、この丘を見つけた。
誰もいなくて静かな上、夕方には夕日に照らされる街が一望できて、
ほぼ毎日訪れていたほどだった。
ある日の夕方、いつものようにその丘は向かうと、一人の人影が見えた。
今まで独り占めしていた気分だった俺は少し残念だった。
俺は恐る恐る近づいた。
「・・・!!」
人影は俺に気付き、振り向くと目が合った。
・・・可愛らしい女性だった。
驚いた俺と彼女との沈黙はすぐに破られた。
「・・・ふふっ・・あははっ」
「?」
「あははっ・・ごめんなさいっ・・・初めて会ったのに笑ってしまって・・ふふっ」
「えっ・・・は・・・はぁ・・・」
彼女は不思議な人だ・・・というのが率直な感想だ。
「この丘みたいなところはさ、この町ができたころぐらいからずーっとずーっとあるっておばあちゃんから聞いたんだ・・・
それからよく来るようになって・・・いつも誰もいなくなって、この場所は私の独り占めだ~なんて思ってたんだけどな~」
彼女はもう一度夕日を見つめ、微笑を浮かべてつぶやくように言った。
「・・・・・」
俺は静かに下がろうとしたが、
「・・・別にいていいよ。
独り占めしてたのはうれしかったけど・・・」
「・・・けど?」
「・・・ううん何でもない」
振り向いた彼女の微笑はいつの間にか笑顔になっていた。
「君、見たところ、コーレジウスでしょ?そしたらいっしょにダンジョン攻略しに行かない?
私メイジだから、戦士系の・・・私を守ってくれる人を探していたの!」
俺の瞼はいつの間にか閉じていた。
木の枝から小鳥のさえずりが聞こえ、緋色に輝く朝日が見える。
「・・・よく寝れたな?・・・」
起きて最初の一言は疑問であった。
確かに、普通ならこんな木の根でごつごつしたところで寝れるわけがない。
昨日は死にかける思いをして大変だったのもあるかもしれないが、眠気に負けたことはない。
だったらなんで・・・?
一つだけ思い当たる節があった。
他人の干渉
その答えにたどり着いた瞬間・・・
「っっ・・・・・!!」
頭の中にほとばしる電撃のような速さで、何かに圧縮されるような激痛が襲い掛かる。
「君はまた逃げるのかい?」
恐ろしい激痛がやむと同時に青年のような若々しい声が聞こえる。
「本当にばかばかしい・・・同じ過ちを幾度なく繰り返し続けるとは・・・また現実から目をそらすのかい?」
俺の目の前にはその声の持ち主であろう青年がたっていた。
しかし、先の頭痛で頭をかかえたまま動けないため、革の靴がどうにか見える程度だ。
「 わかっている・・・!わかっている・・・!・・・でまた逃げる。
自分の非力さを嘆き、どこかでそれを宥恕している。
許し続けて、逃げ続ける。果てしなくどこまでも・・・
君の逃げ続ける道になにかあるのかい?
そして再び問おう
君はまた逃げるのかい? 」
あまり正論に黙然としてしまった。
おまえは誰だ、お前は何をどこまで知っている、
聞きたい疑問は山ほどあったが、何一つ聞くことができなかった。
「僕には時間がないのでね、もう、お暇させてもらおう。
残念だが君に僕の正体を教えることは今はできない。
だが、君の事はすべて知っている。
わかっているのだろう?いつか君が・・・ということを。だから、」
青年は姿を消した。。一際強い声で一言残して・・・
――逃げるなよ
その言葉は呪いのように、俺の脳裏に刻まれた。
いつも読んでいただきありがとうございます。grfです。
いちどここらで話が区切られます。いわゆるながーいプロローグが終わったようなものです。
ということで・・・・・次話ちょっと待って(;・∀・)
実は僕受験生でそろそろ勉強本腰入れないとまずいんすよはい。
次話・・・2~3月になると思います。申し訳ありません。
それではまた!
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