第五章 一
第五章 再びクロワルッス
一 ジャンヌ人形
最後に三人を見送ったジャンヌは、すっかり狼狽していた。クレモンたちが夜の八時になっても帰ってこないからだ。七時ごろからそわそわし出していたが、八時五分前になった時、いてもたってもいられなくなり、アパートを飛び出した。旧市街を探し回り、開いている店やレストランに入っては三人組の男の子を見なかったか、と尋ね回った。店を閉めようとした古本屋のおじさんが、ものすごい形相で店の前を走り抜ける痩せこけた女性を目にしたのは、まだ明るい夜の八時過ぎだった。この古本屋は旧市街サンジャン地区にある。十五世紀の重厚な装飾が施され、旧市街の中でもひときわいかめしい住居の中にあるのだが、パリのクリュニー美術館にある有名なタペストリー「一角獣と貴婦人」を注文したル・ヴィスト家という名家の傍流が持ち主だった立派な建物だ。
店主が店のシャッターを下ろして中に入ろうとしたとき、本屋の奥の部屋にある机の下から何かが飛び出しているのが目に入った。近づいてみたら、六本の足じゃないか!驚いた店主が六本の足を全部引きずり出してみたら、中学生くらいの少年達が出てきた。眠っているのか、気絶しているのか、足を引っ張られたぐらいではピクリともしなかった。どこからやってきたのか、すすだらけの服装だったのだが、不思議なことに、リヨンのサッカーチームのユニフォームを着ていたアレックスの肩の部分、ライオンの透かし模様のあるところだけ、漂白したかのように真っ白につやが出ている。ただライオンの肩のあたりには黄色いシミがついていて、それがいかにもライオンの翼のようにも見えた。
驚いたおじさんは、死んでいないかどうか、胸に手を当てて確認した。心臓の音がする。一先ず安心して冷静になると、すぐにピンと来た。あのガリガリの走るおばさんだ!走り方があまりにも独特で、リヨンの操り人形ギニョールを見ているかのような不自然な走り方だった。おばさんのあの異常な様は、きっと差し迫った理由があるに違いないと感じたのだ。店を出て、おばさんの走った方向へ向かった。
ジャンヌは一旦サンジャン大聖堂に向かい、聖堂前の広場で手当たり次第にクレモンたちを見た人がいないか探し回っていた。
本屋のおじさんは、サンジャン首座司教聖堂前の通り、サンジャン通りにあるアイリッシュバーの客に手当たり次第に声をかけていたガリガリのおばさんの姿を見けかた。ジャンヌだ。あまりにも動揺しすぎているのか、ロボットのように右、左と体の方向を変えるだけの単調な動作しかできなくなっている。まるでギニョールのようだ。
「ちょっとあなた!男の子三人見なかった?見たわよね、見たでしょ!」
なかば脅迫しているかのような口ぶりで、聞かれた人は困惑どころか、迷惑している。ジャンヌは携帯電話が何度も鳴り響いてるのにも気付かないほど、目の前のことしか見えなくなっていた。
「マダム!マダム!あなたの探す男の子たちは私の古本屋にいますよ!」
腰が砕けるとはまさにこのことだ。その言葉を聞いたとたん、ジャンヌは操り人形が人形師の手から離れたかのようにガクガクと崩れ去った。




