月夜の晩にご用心
遅くなりました。すみません。
ギギギギギ、、、
重たい音が教会の地下室に響く。
その音の正体は十字架をつけた棺桶だった。
しかしこの棺桶、なかなか不思議である。
何しろ、この棺桶の蓋は重さが50キロはあろうという代物だ。
そんな棺桶を中から寝た体制で持ち上げるなど、人間には到底真似はできないだろう。
しかし、、、人間では無かったら、、、?
ネ「あ”〜〜〜づ〜〜〜〜い”〜〜〜。づぢの”ご〜〜グ〜〜ら”〜〜。」
ツ「そんなもの無いッ!ほら、立って立って!掃除の邪魔!」
ブオーンと音を立てて床のゴミを吸い込んで行く掃除機。しかしそれから出される温風はさらに部屋を暑くした。
ジリジリと部屋が熱せられている。耳をすませば本当にジリジリと音がしそうなほどだ。もはや畳は汗を吸って、一部分だけ変色してしまっている。
モ「、、、こっちはどうだ?日陰で涼しいぞ、、。」
ネ「おお、、、ナイスだ。」
押入れの中から顔を出しネッシーを呼ぶモスマン。普段はこの押入れを生活スペースにしているようだ。
でも、この暑さのせいか彼の目にはクマができている。都会にやや近いこのアパートは、夜でもだるくなるほど暑いのだ。
そして、日陰の押入れに入る2人のUMA。だが、2人入ればそのぶんスペースはなくなり、よりぴったりとくっついてしまうことになる。
ネ「暑いよ、モスマン、、、。もっと離れてよ。」
モ「無理だよ。そっちが離れてよ。」
狭い押入れの中で口論を始める2人。だが、なかなかヒートアップしないのはきっとこの暑さのせいだろう。
そしてしばらくすると、ネッシーは重たい体をズルズルと動かして押入れから出た。
ネ「そうだ!シャワーを浴びれば涼しくなるかも!」
そう思うが早いか、すぐさま風呂場に行き服を脱いでシャワーの栓をひねる。
だが、、、
ネ「あり?出ない、、、。」
ツ「シャワーなら出ないよ。今ここで水道管の工事やってから、夜まで水は使えません。」
ネ「ガーーーン!」
あまりのショックに、ガクリとその場にへたれこむ。
もはや彼女の顔は汗びっしょりで、涙の区別すらつかない。
確かに耳をすませば、近くでガガガという工事の音がする。
しかし突然、そうだ!と立ち上がると玄関に向かい外にかけて行った。
ネ「ゾンビならきっと、いい方法で涼んでるに違いない!」
そして彼女がいる庭に着く。普段は庭の土の中に埋まっていて、夜になると出てくるのだ。出てくるときは完全にホラー映画のようだ。
早速聞こうと土を掘ろうとするネッシー。だが、土は作りたてのコロッケのように熱かった。
ネ「どわっちっちっち!あっつ!」
手をブンブン振り、必死に冷ましていると
ゾ「どしたの?なんか用?」
ボコ!と音を立てて彼女の頭が土の中から出現した。
ネ「おお、ゾンビ!よくこんな熱い土の中にいられるね。」
ゾ「ああ、その件なら大丈夫。だって私もう死んでるから、暑さとか冷たさとか感じないんだよね。」
ネ「えっ、、、。」
ゾ「それで?ご用件は?」
ネ「いや、もういいです、、、。」
まさかのダブルショック。フラフラと部屋に戻り、バタッ!とその場に倒れこむ。あまりのショックに精神が参ってしまったのだ。
ツチノコはまだ掃除をしている。
ネッシーは、二度と涼しさを手にすることは無かった。
生物と無機物の中間の生命体となり、永遠にその場に倒れこむのだ。
そして涼しくなりたいと思ってもなれないので、そのうち彼女は、
考えるのをやめた。
ネ「そんなわけあるかー!」
ウガー!と雄叫びを上げるように天の声に突っ込むネッシー。
そして気がつけば、日は傾き始め、空は藍色と山吹色に染まっていた。
空の8割があ藍色に染まったころ、コウモリの群れが闇に紛れて飛んでいた。
ゾ「ん〜〜よく寝た。そろそろ夕食かな?」
映画のように庭から這い出るゾンビ。きっとこの場に人がいたら全員凍りついてしまうだろう。
軽くストレッチをして、固まった体をほぐす。全身パキパキと音がなるのが、死んだ体にこだました。
そのとき
バサバサ!
ゾ「!?」
ガブッ!
ゾ「ウッ!、、、?」
飛んできた何者かに首を噛まれた。
???「あ、、、あれ?吸えない、、、」
彼女の首をしっかりと捉えチュウチュウと音を立てて吸う。だが、死んだ体に新鮮な血など流れていない。あたりまえだ。
ゾンビなんだから。
数分間の間、ゾンビは状況が飲み込めず、硬直状態にあり、突然襲ってきた生物は必死に首を吸っていた。
ゾ「そろそろ離してくれない?流石に鬱陶しい。」
???「あ、すみません。」
グウ〜〜
???「、、、!」
何者かは、突然腹の虫が鳴いたことにひどく赤面した。慌ててお腹を抑えるが、さらにグウグウと腹の虫は音を出した。
ゾ「君、お腹空いてるの?ちょっと待ってて。」
そういうと、自分たちが住んでいる部屋に戻った。
数分後、お盆の上にご飯と味噌汁を乗せて帰ってきた。
ゾ「私の晩ご飯、よかったらどうぞ。」
???「えっ!?でも、、、申し訳ないで、、、」
ゾ「大丈夫大丈夫!だって私死んでるから。ご飯なんて食べなくても、数日は平気、、、」
グウ〜〜
???「、、、?」
ゾ「あはは、、、ごめん。やっぱ私もお腹空いちゃった。一緒に食べよ。」
???「、、、うん!」
死んだ体でも、魂は死んでいない。
彼女の優しさは場を和ませ、笑顔を生んだ。
ゾ「そういえば、まだ名前聞いてなかったね。なんていうの?ちなみに私は、ゾンビの永郷 フジ子。」
???「私は、、、その、、、ドラキュラです。名前はまだ、、、ない」
ガラッ!
ツ「何やってんだお前?って、、、誰やねん!」
この後アパートに1人、住人が増えたことは、もはや言うまでもない。
ツ「どうしてこうなった?」
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