最終回
9/4 決め台詞を脱字していた 修正
2016/10/9 修正版をアップしました。
今日は色々あって疲れたな、ゼリー状の食事を食べて時計を見ると、二十時になったところだ。とりあえずハジメは大丈夫だったしログインしてみるか。
放置露店の兎串は売れていた、まあ一本だしな。しかし私の周りに多くの人が見える。この人たちはイベントに参加していないのだろうか?スクリーンショットを取っている音が多数聞こえる。
「お帰りなさい。感動しました!!」
「推薦出来ない詐欺だ、いくない!!」
「防衛ありがとうございました」
意味不明な発言もあったが、とりあえずハンガクにささやきをしてみる。
「えーす知り合いは大丈夫だったのですか?ああー良かったです。今はリンスドルフの北二km地点で待機しています。敵は来ていません」
死に戻りも含めて、数万のプレイヤーで最後の防衛をしているらしい。
バザー中にMPも回復出来ていたので北門側の冒険者ギルドのLVUP窓口に行く。LVUP後スキルを見てなかった。
お、あらたなスキルが候補に出ているぞ。
スキル名:必要経験値『スキルタイプ』スキルの内容
パッシブ 持っているだけで有効
アクティブ スキルを発動すると有効
[調合二と兎のふん二は変わらずなので省略する]
兎の餌三 :十万『パッシブ』
LV十以下の敵が寄ってくる、LVに関係なく敵が逃げなくなる
脱兎三 :十万『アクティブ』
PTメンバー全員用の脱兎、効果時間四秒、使用MP六
脱兎三は凄いな、きっと役立つだろうスキルを覚える。残り経験値二十三万強。とりあえず皆のところに戻ろう、脱兎二と脱兎で戻る。チョコは安全な時間に小走りで移動したようだ。
兎組のところに着くと、みんな一斉に挨拶をしてくる。
「「「おかええりなささい、かびっ信んおうくりどうしじらんどましたしれまん食べせましたいた」」」
うーんちょい惜しいな、もう少し練習が必要だね。状況を確認すると、最前線右側はボスとの戦闘に入り、左側はボスまで後二百mというところまで来ている。
そこまで行ったなら勝てるんじゃないのかと思っていたが、ボスの周辺や後ろにも多数の敵が居て、ダメージを与えてもヒールで回復されるし、ウォターベールでダメージは軽減されているし、HPもやたら多いらしい。
うーん、ここまで来たらボスも倒して勝ちたいな。漠然とだが勝つための算段は頭にある。前線組に教えても良いが私じゃないと出来ないだろうしそれに兎組の面々で倒したいな。
「ボスの攻略の方法は頭の中にある、今ならPTメンバーも私と同じ速度で移動する事が出来る。どうするやるか?」
「「「うぉおおーーーやりましょう!!」」」
あっ揃った練習していないのにな。装備を若干整えて、私、ハンガク、前田、謙信、パート、チョコでPTを組む。残りの面々はここで防衛にあたる。
脱兎三で移動するとハンガクや前田は悲鳴をあげていた。謙信は最初から楽しそうに笑っていて、パートは落ち着いている、チョコは慣れたようです。
MP消費が激しいので途中MP回復休憩をする。パートが焚き火セットと大きなフライパンで料理を始めた。倒す方法は頭にあるが、どのようにして有効的に活用するか、使ったことがない装備の利用方法を皆で考える。
最前線の状況は死に戻り者が掲示板に書いているが、一番の問題は味方が後ろから数多く押し出してくるため、逃げ場が無くて倒される事が多いらしい。
もう少し前線を下げた方が良いが、後ろのメンバーは敵を倒したいのでどうしても前を押し出してしまう。ボスの後ろにも多くの敵がいてボスを支援するので、そいつらも倒さないとボスを攻略するのは難しそうだ。
また戦場で大声で話しかけても集中してもらえず、一部の人が後退しても他の人が前に行ってしまう有様だとか。
しかし、全く倒せない敵を運営が用意するだろうか?別働隊とかずるい事もするけど、不親切ながらも攻略の方法やヒントを用意してくれている気がする。
「そういえばグリフォンから出たアイテムって攻略に関係しませんか?」
ハンガクに言われて、アイテムを出して眺める。
知識の書[八個]・・・経験値一万を入手
金塊[四十六個]・・・金の塊
鋭い鈎爪[五十個]・・・爪で捕獲するのに便利
うーん、知識の書は凄いレアだが今はいらない。金塊と鋭い鉤爪は加工出来るかもしれないと言って、ハンガクが何やらトンカチで叩き始めた。
「どうぞ。先ほどの休憩時間で分かった新レシピ料理ですよ」
パートが美味しそうな料理を出してきた。猪肉とニンニクとはなせ草で作ったスタミナ焼肉だ。
スタミナ焼肉・・・食べるとMPが二十回復する
すっすごいよパートさん!美味しくいただくが三人前食べたところで急に食べれなくなった。あれ?どうやら隠しパラメータで満腹度ってものがあるらしい。なんじゃそれ。余ったスタミナ焼肉をポシェットにしまう。
「ご馳走様。パートは良いお嫁さんになりそうですね」
と私が言ったら、前田、謙信、チョコが急に黙り込み下を向いたりあらぬ方向を見ていたり、いきなりシーンとしてしまった。なんだ?言ってはいけない一言だったのか?ゲームと思って油断していた。
静かになったため、ハンガクのトンカチの叩く音だけが心なしか大きめに響く。女性に対して軽はずみな発言だったのかもしれない。会社では常に気を張って迂闊な発言をしないようにしていたのに。
しかしどの当たりが問題だったのだろうか、実はリアルが男なのに女性をしているキャラだとか、女性は家に入って家事をやってろ的に考えられてしまったとか、うむむむ。
「良いかどうかはわかりませんが、お嫁さんになった事はありますよ」
パートが発言してくれたお陰で若干空気が和んだ。ハンガクのトンカチの速度が上がった気がする。しかし意味深な言い回しだな。結婚しているなら「お嫁さんです」とか「結婚してます」だと思うんだけど、「事はあります」って過去形だよね。
離婚歴があるという事かな?あんまりリアルを詮索するのはよそう。でもバツ一、二なんて当たり前だから気にしなくても良いと思うんだけどね、私だってバツ一だしな。
「できましたー」
ハンガクが更に空気を変える一言を言ってくれた。で出来たものは、
金の矢/投擲槍・・・刺さると炎症し、数分間継続的なダメージを与える
投擲槍+鈎爪+鎖・・・相手に一度刺さると抜けにくい、刺さると継続的なダメージを与える
金の矢と金の投擲槍は十本ずつ、投擲槍+鈎爪+鎖は二本作成したら、MPも回復したので移動を再開する。まだどれだけの効果があるか不明なので量産はせず、戦場に着いてから後のことを考えよう。
もう少しで日本時間二十一時、ゲーム時間十八時になる、最前線についた。
目の前には数え切れない程、多分十万人に近いプレイヤーがいる。一部はボスと戦っているが、倒すことは出来ていないようだ。ボスは身長十m位ありそうなオーガ?でドンクルハイトという名前がついている。
このゲームの普通のオーガは三mくらいなので相当な規格外だ。
矢や槍、その他武器が多数刺さっており人型ヤマアラシだと言われても納得するような有様だ。ちなみに、アイコンの横に大きくBOSSって書いてある。
しかし戦いたくても味方が多すぎて前線に出れない。打ち合わせ内容のひとつ、ヘルゲのローブの使い方をマスターするために使ってみる。その前に、
「アースワーク」「アースウォール」
アースウォールは高さが三mくらいになる。いきなりではとても登れないので、アースワークに登って、そこから更にチョコの肩にのってから登る。ここからだと敵がよく見える、よし。
「クライネサイレス」を唱えようとすると、対象を確認するウインドウが表示された。
“範囲”と“個別”があるので“範囲”を選択。通常対象を選択する時に表示される[]マークが、視界に入る敵に対して凄い速度で表示されていく、画面の上に数字らしきものが表示され、あっという間に六桁になり、数字がグルグルと回転している。
数字が止まった五十八万八千四百三十六と表示され、私の体から凄い数の光が敵に向かって飛び続ける。その光を見て戦闘をしていない多くのプレイヤーが何事かと振り返ると、高い壁の上から数多くの光を出し続けている私に目が止まる。
敵にクライネサイレスが掛かり、敵に状態異常を示すアイコン、白いマスクに赤い×印が付いている。敵の魔法や雄叫びが聞こえなくなり戦場には、最前線プレイヤー達の戦闘音のみが聞こえる。
ハンガクがささやきがきた「今がチャンスです」そして私が大声で叫ぶ。
「皆さん!数百mほど後退して下さい。ボスと戦っている人達が避ける隙間がなく、死に戻りが多数出ています。敵の取り巻きが多くこのままでは勝てません。
それと、今なら大半の敵は魔法が使えません。回復や補助、攻撃などが滞るハズです。この間に体勢を整えましょう」
「「「「うぉーーーー!!!」」」」
大歓声が味方から上がり、最前線のプレイヤーは敵に対して攻勢に出る。そして、第二線、三線以降のプレイヤーは数百m程後退を始めた。ボスとの戦闘がしやすくなったように見える。
「ボスと戦っているプレイヤーは、ボスを前に釣り出して下さい」
しかし、このままで取り巻きが多すぎて回復されてしまう。そこで次の作戦に映る。えーと、
「左側の背の高い人、獣人キリンさんかな?そうそうあなた、左側でキリンさんの近くの人たちー、わざと前線に緩みを持たせて、一、~二万人くらい突破させてください」
左側の第二線~四線くらいのところもあえて隙間を開けることで、敵がそこを突破して南下していく。十分間程度たって、多分一万人くらいは突破したと思うので一旦穴を閉じる。
「アースウォール」そろそろ二十分立つので隣の壁に乗り移る。ハンガクも壁に乗ってきた。どうやら作戦があるようなので、ハンガクに任せてみた
「注目!敵の数を効率良く減らします!先ほどのキリンさんの後ろに間隔を五m程開けて二列作ってください!そこに敵を通しますので横から倒してください。
ただし!決して前を塞がないでください。前を塞ぐと敵が詰まって左右の列をはみ出してしまう可能性があります。最悪倒せなくても良いので移動は絶対に止めさせないこと」
ハンガクの指示により、キリンの後ろに長さ一kmくらいの人垣が出来た。そして最前線のキリン付近のメンバーがあえて穴を開けると、そこを敵が飛び出していく。先頭の敵が八百mくらい進んだところで、
「はい。今です!攻撃を開始して下さい。繰り返します正面には絶対に出ないで横からの攻撃だけにしてください」
敵が左右のプレイヤーによって倒されていく。倒された敵は直ぐに消えるので敵の移動の邪魔にはなっていない。中には数匹ずつくらい突破するものがいるが、あの程度なら防衛も容易だろう。
「やったー五百匹倒せたぞー!」
「私たちも達成できたー!」
「俺なんて一人で三百達成したぞー!」
左側の前線はだいぶ盛り上がっている。そこでハンガクが追加の指示を出す。
「注目!中央のひとー、左と同じ事をします。えーと、そこの獣人サイっぽい人、そうあなた!あの人の後ろに二列、五mくらい幅を開けて並んで下さい」
中央でも同様に敵を倒すための列が出来る。敵はこちらの前線を突破するつもりで進むが、移動の途中で殆どの敵が倒されていく。
多分このイベント中の最高の殲滅速度だと思われる。
他にも二本程、もう少し細くて人数が少ない列を作ったが、そこも効率敵に倒せているようだ。
日本時間二十一時半、ゲーム時間十九時、効率的に敵を倒せてはいるがそれでも化物は数が多い。敵の魔法も復活してボスにはダメージが蓄積出来ないようだ。
更なる一押しが必要だ。座ってスタミナ焼肉を食べながら、今後の方針を検討する。ハンガクの計算では、ざっくり一時間で約十万は減っていると推測した。
うーんそれだと、イベントは後三時間しか残っていないので二十八万匹くらい残る可能性がある。それに魔法の対象になってなかった敵だっているかも知れないので、もっと敵が残ってしまう可能性がある。おっ謙信が何か思いついたようだ。
「残り一時間になったら前線を穴だらけにしてしまえば、村まで届かないのでは?」
確かに徒歩の敵だけならそれで問題無いだろうが、ゴブリンやオークを乗せたライダーも相手の中に確認出来るので、ライダーなら三十分掛からずに村に到着する可能性がある。
私と一緒に槍で脱兎をする手は、皆のAIが飛び避けモードにしているので出来ないし出来てもMPの消費が大き過ぎる。となると、
私一人で倒してくるのが効率が良さそうだな。
しかし二十~三十万の敵なんて倒せるのかな?ちょとどう考えても無理な気がする。しかし悩んでいる時間が勿体無いな。よし、
「私が一人で後ろの敵に攻撃を仕掛ける。ラスト二十分になったら前線に大穴をあけて敵を突破させよう、そしてローブの力で魔法を封じ込める、その間に皆は何とかボス戦を開始してくれ」
皆から必要な物資を預かり、脱兎で左側の林に突っ込みそのまま林の中も突破して、左側の最前線より少し前に出たところで一旦止まり。魔法を掛ける。
「ウォーターベール」ダメージを軽減する薄い膜が貼られた
「ファイヤーエンチャント」武器に火属性が付き、攻撃力が一割増しになった
「クライネウォーク」足の早さが一割増す。これで時速約四百kmになるはずだ。
林から抜け出すと敵がこちらに気が付く。右手に槍を持ち左手には燃える水を持つ。そして脱兎をしながら燃える水をばら撒くが何かおかしい。
脱兎の速度が想像以上に早いしもっと距離が進んでいるような気がする。普段四秒で四百mなら、一割増しなら四秒で四百四十mじゃないのか?
何だろう五百m近く進んだ気がするし、敵のオークやゴブリンなどの低レベル帯の敵だと一撃で死んでいる気がする。効果が良い事を考えても仕方ないので敵を倒しまくる。
脱兎をしながら進むその光景は、雪国の除雪車やラッセル車のような感じで敵の群れの中を突き進む。飛ばされる敵は高いもので十mくらいまでの高さまで飛んでいるようだ。
だいたい一回の脱兎で六百~千未満の敵が吹っ飛んでいるように思える。四回程北に脱兎したら敵の群れを抜けた。
「クライネファイヤー」ばら撒いた油に火がつき、火力は強くないが火が脱兎で通ってきたところに線となって連なっていく。効果はイマイチそうだった。
よし、皆から見てもう少し右側、振り返った私から見て左側の敵に対して脱兎で突撃を掛ける。今度は敵が後ろ向いているので、ダメージがより多く入っている気がする。
脱兎を五回ほど繰り返したら味方の前線部隊の手前まできてしまった。前線の人たちがびっくりしていたようなので、軽く手を振ってから再度敵の中に突っ込む。
遠くからでも敵が空に舞い上がっているのが見えるようで、
「ターマーヤー」「カーギーヤー」って声が聞こえる。
脱兎四回でまた最北に到着した。ふむ、それじゃあ・・・
「クライネファイヤー」で燃える水が掛かった敵に火が付いていく、慌ててバタバタ消すくらいのダメージしか入っていないが、そこを脱兎で後ろからぶっ飛ばしていくと、夜空に明るいものが多数打ち上がる。
脱兎三回目で、また歓声が聞こえる。
「ううおーー!!」「ターマーヤー」「カーギーヤー」
楽しんでもらえているようで良かった。そろそろ在庫も無くなったしもっと真面目に敵を倒すかな。
往復二十五回くらいだろうか。MPが切れてきたので、最北についたタイミングで一旦座ってスタミナ焼肉を食べる。イベントのウインドウを見ると私の倒した数が六万を超えていた。
まだエンチャントが残っているので、ここでMP回復を長くするのは勿体無い。スタミナ焼肉を二個食べた所で脱兎を繰り返す。追加で五往復したところで再度最北で休憩する。
MP回復のネックレスも有るが、あれはここぞという時のために必要だろう。だらけていると、ハンガクからささやきが来て、ボス戦を開始して作戦を始めるそうだ。どれどれ。
ライブビューイングの画面を切り替えているとボス戦が映った。大きな棍棒を振り回して牽制しているが、素早く近づいて切られたり、遠くから矢や槍が刺さってダメージを受けているようだ。
しかし取り巻きからヒールや補助魔法がかけられて、有効な攻撃になっていない。そこに前田、謙信、チョコが敵の足元に行き、敵に何かをして離れていった。
上手くいっているようで良かった。早く敵を殲滅したいが今はMP回復優先だ。ゴローンと戦場で寝転がってみる、これも大事なんだぞ。ちなみにフィールドで寝転んでも座っているのと変わりません。
そういえば、転職してからMPの回復速度が上がった気がする。転職すると回復ボーナスでもあるのかも知れないな。
MPも回復してきたので再び 「ウォーターベール」「ファイヤーエンチャント」「クライネウォーク」を掛ける。そして背後から敵に対して脱兎で蹴散らしていく。
敵の数が減ってきたのか四回だと敵を抜けて随分と走るようになってきた。敵を抜けきらないように三回目で方向転換する方法に切り替える。
三十往復くらいだろうか、MPが減ってきたので最北でMP休憩を取る。日本時間二十二時、ゲーム時間二十時だ。残りゲーム内で後二時間でイベントが終わる。倒した数は十五万を超えた一時間でこれっておかしくない?
段々と手負いの敵が増えてたし、敵の中だけで折り返すようにしたから無駄が大分減ったようだ。スタミナ焼肉を食べながら座っていると、ハンガクからささやきがきた。
「作戦は順調ですが、敵のヒールがある限り殲滅できないと思われます」
うーん、あと二回しか範囲を使えないので出来ればラスト四十分くらいに使いたい。後一時間頑張れば三十万倒せているかも知れないし、ボスだけになれば倒せるはずだ。
補助魔法を掛けて再び敵に突っ込む、今度からは脱兎は二回で方向転換だ。そして最前線の少し手前あたりでは横方向に脱兎を繰り出す。これなら手負いの敵が前に進むので、殲滅速度があがるはずだ。
ボス以外と戦っている前線の横幅は左端から中央の三キロくらいのはずなので、七回だとちょっとはみ出しそうだな、六回でいいはずだ。実際に六回目の終わりで敵を抜けそうになった。
今度は北に一回脱兎してから左横に脱兎する、端まで来たら南に脱兎してまた右横に脱兎する、十三往復したところで再度北に脱兎して少し離れた場所で休憩を行う。
殲滅ペースが更に上がった気がする、これならMP回復のネックレスを使って回復してでも、敵を殲滅出来るんじゃないか?
最後のスタミナ焼肉を食べてから、敵の中を縦横無尽に脱兎する。MPが一桁になったところで、ネックレスを左手て包みMP回復を願うと、ネックレスから光が空に向けて飛び、直ぐに空から光が戻ってきた。私が光に包まれるとMPが完全に回復している。
「うぉーーーーー」
気持ちが乗ってきたのでつい声に出ちゃいました。そしてエンチャントをかけ直して再度脱兎を繰り返す。
日本時間二十二時半、ゲーム時間二十一時だ。イベント終了まで後一時間。ボスの取り巻きは殆どいなくってきた。もう脱兎をするほどの集団で敵は残っていない。
これなら残りの敵を開放しても大丈夫だろう。ハンガクにささやきをして意見を確認し、同意が得られたので前線の開放を指示するために、誰かが作ったと思われるアースワークの上に乗る。
「クライネサイレス」を唱えようとすると、対象を確認するウインドウが表示された。“範囲”を選択、[]マークが、視界に入る敵に対して凄い速度で表示されていく、画面の上に数字らしきものが表示され、数字がグルグルと回転している。
数字が止まった五万千百二と表示され、私の体から凄い数の光が敵に向かって飛び続け、その光で再度私に注目が集まる。
「ゲーム時間残り一時間です。敵の数は五万千匹まで減りました。前線を開放して敵を全て通過させてください。通常の敵ならリンスドルフまで辿りつけません。またライダー系であっても、残っている数は多くない筈です。
リンスドルフの防衛には数万の守備隊がいるのでその方達を信じましょう。今、敵の殆どは魔法が使えない筈です、雑魚は全て無視してボスを集中して攻撃してください。さあ終わらせよう!」
「「「「「「「うぉおおおーーー!!」」」」」」」
大歓声のあと前線のいたるところで穴があく。五万の敵が南に向かって行くのは凄い迫力があるな。アースワークの効果が切れたため、土壁が崩れて地面に転がり落ちる。
目の前を見ると敵の槍が自分の体に刺さるところだった。南に向かって突進してきた敵の部隊の前に転がり落ちてしまったようだ。槍は抜けたが、多くの敵に踏みつけら、蹴っ飛ばされながら、なすすべなく倒された。
「最寄りの村に戻りますか? はい いいえ ※注意:LV十までは死んでもデメリットはありません」
久しぶりにこの画面を見たな、いつぶりだろうか。ちょっと調子に乗っていたかな、ゲームは下手なのに脱兎が使えるから良い気になり過ぎていたかも知れないな。周りから驚愕の声が聞こえる
「えええー、ここで、このタイミングで死んじゃうの?」
「サイレス切れたら、また回復されちゃうかも」
「ちょっ、おっま」
自分でも情けないです。今駐屯地に死に戻ってもMPはほぼないし、MP回復アイテムもない。ここに戻ってきても脱兎を使う相手も居ないし、「クライネサイレス」を唱えるくらいしか役に立ちそうもないが居ないよりマシかな、はあぁ~気力が持ちません。
最寄り村に戻るため“はい”を選択する。すると何故かクローネシュタット北門だった。あれ?何で駐屯地じゃないんだ?ここだと更に離れるから移動のMPだけでも五十は必要になる。
ああ~↓やる気が更に減ってきた。ウインドウが表示されて倒した敵が表示がされている、イベントのウインドウを見ると、倒したイベント敵は二十九万七千三十一匹となっている。
三十万弱の討伐履歴なんて読みたくないので、討伐履歴ウインドは読まずに閉じる。もう気力が持たないかも知れない。下手なりに頑張ったんじゃないかな?
多分トップだと思うし、がんばったな、うんがんばった。サイレスだってかかっているし、作戦だって有効に機能しているし、もうイベントは終わりだな終わり。落ち込んでいるとハンガクからささやきがきた。
「えーす、取り巻きが減ったためか、ボスがスキルを発動しました。自身に刺さっている矢や武器が全部体から外れる、いや射出されてかなりの味方が死に戻りました。
まだボスの取り巻きが若干残っています。サイレスが切れたら、また回復される恐れがあります。いつ戻ってこれますか?」
大変そうだけど、何時って言われてもなあ、もうMPもないし、気力がなあ。はあぁ。グズっていると知らない人からささやきが来た。
「爺さん、この前は済まなかった。爺さんがゲームするとか思わなかったし、余りにも下手な人間なんで凄く見下してしまった。
アンタの采配や他の人を支援する姿を見て自分が恥ずかしくなったよ。いま最前線で戦っているから早く戻って来いよ。一緒にボスを倒そう」
って、あんた誰?え、ああ私が馬鹿にされる原因を作った君か。そうか、随分前の事なのに、人に謝るって大変な気力だと思うんだけど良く謝れたな。
まあ君のお陰で、なにくそって気持ちにもなった部分があるし、結果的に今は充実しているからもう気にしていないよ。
しかし若い連中が私に期待しているのにここで腐っている訳にはいかないな。よし。
北門側のギルドのLVUP窓口に行く。LVを十一に上げる。経験値が四万五千掛かった。残り経験値が九百九十万強!?なんじゃこりゃー。そう言えば一人で敵を三十万弱狩ってたね。
あんまり上げすぎるとPTプレイ出来なくなるから、とりあえずこれでいいか。
「クライネウォーク」だけかけて、脱兎二で街を出て、直ぐに脱兎でリンスドルフの北にいる兎組の所に向かう。兎組に挨拶をして、守備のお願いと最前線に戻る旨を伝える。
移動していたら敵の大群が見えたので、エンチャントをかけ直し脱兎で蹴散らす。相手も走ってくるから一度吹っ飛ばしている敵の数も先ほどより多い気がする。
そして最前線、味方のプレイヤーがボスと戦っている。しかしタフだなこのボスは。プレイヤが多くボスの周りを囲んで戦っているので入る隙がない。
そうするとチョコが集団から離れて手を振っている。私が手を振り返すと、ポシェットから何やら大きな木材を担ぎ地面に斜めに刺して肩に担いだ。
「お爺ちゃんコッチコッチ!」
なるほどそういうコトね。やれるか分からないがやってみよう。
今の状況は、プレイヤー、敵取り巻き+ボス、プレイヤー、チョコ、私のような並びになっている。
脱兎で近づきチョコが持っている四角切り出した木材の上を走りに抜ける。チョコが潰されたような感触があるが、せっかくの好意だから気にせず飛び抜く。プレイヤーの上をジャンプで渡る。
ボスがちょうど武器を振り回している最中で、背中に十文字槍+兎の涙大粒が深々と刺さり倒れてヒクヒクしている。ハンガクが声を掛ける。
「えーす!!」
「またせたな、ヒヨっ子ども!」
「リアイスロック」十文字槍を敵の背中に固定させる。
「今ならボスは、魔法四倍、物理二倍のダメージを与えられるぞ」
そして、持っている呪いの武器を敵に突き刺す。
赤錆びた鉄の斧・・・この武器を持つものは動きが遅くなる
黒錆びた鉄の大鉈・・・この武器を持つものは火耐性が低くなる
緑青錆びた銅のナイフ・・・この武器を持つものは防御力が下がる
刺した場所に「リアイスロック」を掛ける。
「更に動きが遅くなり、火耐性が低なって、防御力が下がっている。氷が掛かっていないところを中心に攻撃してくれ」
投擲槍+鈎爪+鎖を近距離から投げて刺し、倒れているボスをグルグル巻にする。
PTメンバーにファイヤーエンチャントをかけて、私もモルルンに掛ける。
ハンガクが金の矢を打ち込み、前田と謙信も金の投擲槍を投げる。手持ちがなくなったので、通常の武器で攻撃を始める。
パートはMPが切れたのか、ボスの目の前でスタミナ焼肉を焼いている。うーん後退するのも大変だろうから仕方ないか。
私も魔法を連続で使用する。
「クライネファイヤーアロー」六本の火の矢が飛んでいき、ボスに刺さって燃える。そろそろクライネサイレスが切れる頃なので、範囲でかけ直しておく。
MPが無くなったので、モルルンで殴りまくる。
そしてウインドウが表示される。
「BOSSドンクルハイトを倒しました」
「「「「「「「うぉーーーー勝ったぞー!!!」」」」」」」
ハンガクが抱きついてきた。おっおおう!前田も謙信も抱きついてきた。おおっおう。パートも全員を包み込む形で抱きついて来て、おおおお!!!!!フライパンが熱いのでちょっと離れて欲しいです。
皆凄い喜んでお祭り騒ぎになっている、チョコを探すと地面に半分以上埋まって泣いていた。ああ・・・ごめんよ、今度呪われた武器をあげるから許してくれ。
イベント時間が過ぎて勝利が確定した。報酬は後日集計してから送られる、まあうちのPTが一番だろうな桁が違うと思うし。
イベントは終わったから日常に戻るんだろうけど、暫くは初心者支援をやめて普通の冒険をしたいな。PTに話しかける。
「しばらくは初心者支援をやめてPTメンバーで狩りでもいかないか?ブラウメーアにダンジョンがあるらしいから、そこに行ってみないか?」
「「「「「はい」」」」」
綺麗に揃って良かった。
「ダンジョンはアンデットやスケルトンが一杯出るから、呪われた武器があったら頂戴ね!」
まあ仕方ないか。
「えーす。次のアップデートでギルド機能が開放される予定なのでそしたらギルドを作りませんか?」
ギルド?冒険者ギルドを個人で作るのか?確かに相手は一社みたいだから、別のギルドがあっても商売として・・・え?違うの?プレイヤー同士で作る寄り合いみたいなもの?
まあ良くわからないけど良いよ。何でもやりたい事をやればいいさ。
「お爺ちゃん、そういえば上半身で避ける動作ってどうやってるの?私もやりたい!!」
うーんそれは難しいんだよ。まずチョコの家にあるVR機で対応させるのには、AIのカスタマイズを大幅にしないと効率良く発動できないんだ。だから直ぐにはちょっと・・・ん?
「かくかくしかじかな理由があるので、家のVR機なら可能だよ。二人で出来るから、いつでも遊びにくるといいよ」
「分かった、じゃあ来週末は遊びに行くね!ただ、かくかくしかじかってのは何の事かよくわからなかった」
ご都合主義で伝わると思ったけどダメだったか、でもこれで週末は孫娘が遊びに来るようになるし、私もそれなりに皆に受け入れられたようだし、トムやハジメが来ても余裕でフォロー出来そうだな。
まだ暇になって一ヶ月だ。余暇を楽しむための時間は十分にあるし、美食ゲームもやりたいし、楽しいことが沢山あるな。早めに引退してよかった。
「えーす。早く戻りましょ!」
ハンガクが私の手を引っ張る。よし、じゃあ、リンスドルフの皆のところに戻って打ち上げだ!!
終わり
ありがとうございました




