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翌朝、日本時間九時、ゲーム時間十八時、ログインするとパート、前田、謙信がPT割を始めていた。今のところ兎組以外の有志の数は少ないようで、人数集中のよる混乱はなかった。既に罠を設置し始めた者もいるようだ。
日本時間十時、ゲーム時間二十時、イベントが開始された。最前線は右側が押し込みが進んで、クローネシュタットから十八km、左側は十六kmとなっているので最短でボスまで二kmか。
ゲーム内掲示板によると、前線の方は昨日と様子が異なるようで、アースワークを多用されて味方と分断されたり、遠距離からの弓や魔法の攻撃が増して簡単に前に進めないらしい。大変そうだな。
一方、兎組の基本方針は時間稼ぎだ。敵が来た時に一気に抜けられるのを防ぎ、少しでも時間を稼ぎ味方が来てくれるのを待つ。兎組だけ数が少なすぎて勝てないからだ。
罠を設置する最北端の場所に大勢で横長の穴を掘る。掘った土を他に持っていく余裕がないから穴の周囲に盛って軽い丘のようにする。一応草を利用して偽装工作をする。
警戒して動きが鈍くなれば良いし一気に渡たろうとして落ちても良い。猟師が獣用の罠を設置する。漁師が網を地面に固定する。他にも単純にロープを地面に固定したり、小さな落とし穴を掘っている人もいる。そして罠の最南端あたりでは農夫が土を耕している。
罠がある、それに気が付くだけでも十分な牽制になると信じるしかない。まだ罠の準備が整っていないのでまだこちらには来ないで欲しい。
結局敵が来ないまま最初のイベント時間が終了した。左側の林にも斥候組が出ているが今のところ敵の気配は無いとのこと。まあ同じ手は使わないかな。
ハンガクも合流し情報共有を行う。防衛有志が若干増えて、兎組の面々から説明を受けている。生産組からは槍や投擲槍などの配布が行われており、今のところ在庫は潤沢のようだ。
日本時間十五時、ゲーム時間六時、イベントが再開された。朝になり空が明るくなってくる。北の方を見ると鳥のような物が沢山飛んでいるのが見える。
しばらく見ているとこちらに向かってきているようだ。段々と大きくなり見たことがあるよう・・・グリフォンだ。グリフォンが二~三百程度空を飛んで、一直線にこちらに向かってきている。
罠は地上向けなので、空を飛んでいる敵には何の役にも立たない。ハンガクに確認するが高すぎて狙えないとのこと。悩んでいると敵が私たちの上を通過してリンスドルフに向かう。
リンスドルフに向かうべきかそれともこの場で留まるべきか、別働隊が来ても徒歩の敵なら戻って来れるしリンスドルフで防衛していれば最悪迎え撃てるかもしれない。
それにリンスドルフを攻撃するなら降りてくるハズだし、そしたら弓でも槍でも攻撃出来るはずだ。
とりあえず、この場には留守番を数人残して南下を始めたところで、グリフォンがリンスドルフドルフを通過していったのが見える。どこに行ったのだろうか?
この先は・・・クローネシュタット!直接城を狙うつもりだ!
「奴らは直接城を狙っていると思う。このままだと城が落とされてハイコ様が倒される可能性がある。救援に向かうべきではないか?」
私の意見に、ハンガクが手を挙げて発言する。
「奴らが陽動だった場合、リンスドルフの守りが手薄になります。それにここから街まで八.五km。城まで十一km以上あると思います。走ったところで一時間以上掛かります」
前田が更に情報を加える。
「クローネシュタットへの街道に、グリフォンが数匹単位のグループに分かれて多数降り立ったそうです。どうやら南下する人達を邪魔する為ではないかと掲示板に書かれています」
皆が頭を抱えている。簡単に移動も出来ないし、街に残っているのは放置露店やイベントに参加していないようなプレイヤーで、戦力はあまり期待出来ない。多数のプレイヤーの死に戻り先にもなっていない。
こことの防衛と城の防衛を両立するのが難しい。皆の悩んでいる顔見て決心する。
「城の防衛には私が行こう、後一人誰か連れて行く。私なら移動だけなら約三分、レベルアップや魔法の習得、装備の変更含めて、三十分位で城まで着けると思う」
辺りが騒然とする「何を言ってるんだ?」「無理だろう」という言葉が聞こえる中ハンガクや前田が立候補する。指揮の中核メンバーであるため連れていけない。
「おじいちゃん私が行くよ!これでも強いんだから!」
チョコが力こぶを見せつけながら立候補[脅迫]したのでPTを組み、皆に声を掛けた。
「ここの守りは皆に任せた。頼りにしているぞ」
「「「は了任いい解しましたせててらくださいっっしゃい」」」
皆が一度に喋ると何を言っているのか分からない。ここは全員で同じセリフを言うところだと思うんだよね。今度練習しておいてもらおう。
「ハンガク。指揮を頼むぞ」
コクっと頷いた。チョコを何とかオンブして、
「脱兎」----「脱兎」----「脱兎」----・・・
擬音にしたら、バビョーンとでも言うようなスピードで走る。
「ぐぎゃゅああーーーア゛ア゛ア゛ア゛ア゛~」
チョコが泣きながら叫んでるが急いでいるので仕方ない。若いのにだらしがないな。私が若い時にはリニアに箱乗りとかしたもんだよ。[大嘘ですので良い子は真似しないようにお願いします]
グリフォンがいてもその横を猛スピードで通過する。走っていると知らない人からささやきが来た。
「こんにちは尻尻尻です。はんがくごぜんさんから指示を受けました。クローネシュタットに居たので街の状況をお伝えします」
「しりしりしりさんかな?何でも良いから状況を教えてくれ。ちょっと返信する余裕がないかも知れないから情報を垂れ流すだけでいい」
「分かりました。ちなみに読み方は、しりみっつれつです。既に街は安全地帯では無くなっています。死戻った人は駐屯地に移動するみたいです」
しりの名前の件は無視し、街が近づいたので「脱兎二」に切り替えながら街中も走り抜ける。
「NPCの住人も戦闘に参加しています。掃除のおばちゃんが箒で叩いていますがダメージは無さそうです」
何でもと言ったが、何でも良すぎるだろ・・・
「金持ちと思われるおじさんが襲われています。カバンから宝石を投げつけていますがダメージは無さそうです。後で拾おうと思います。
ああ!ネックレスを咥えて逃げました。この泥棒ネコ!いやグリフィン!!」
・・・、グリフィン?グリフォンじゃないのか?まあ、しりの地元の方言なのかも知れないな。
放心状態のチョコを揺さぶって、何か準備が必要か聞くと特に無いとの事だったので、北門側ギルド前で待っていて貰う。
商会に行き念のため三千五百万マールを預ける。百二十万強あれば足りるだろう、死んで所持金無くなったら勿体無いからね。
「串焼き屋のオヤジが串を投げましたが、バラバラになって全然届きません」
ヘルゲのローブとバムハーゼィッグを装備する。
「肉が着いた串焼きはグリフォンに当たりましたが、ダメージありません」
アルミラージの角を三個出し、北門側ギルドに向かう。
「ああー!グリフォンが串焼きを食べましたが、熱かったようでホフホフしてます」
LVUP窓口でLV九に上げる必要経験値は三万、残り六十四万九千強。
「ああああ!串が喉に突き刺さったのか、ッア゛ッア゛ってしてます」
LV十に上げる必要経験値は三万五千、残り六十一万四千強。デメリットの無い十まで上げる。ダメだったらまた考えよう。しかしうるさいよしり、もういい加減にしてくれ・・・ん?
「城の状況は分かるかな?私も向かうから先に様子を見てきてくれ」
報告窓口で“宮廷魔術師”の称号をセットする。するとウインドウにメッセージが表示される。
「無属性攻撃魔法ストーンショットガンを習得しました」
「土属性補助魔法アースウォールを習得しました」
「水属性攻撃魔法クライネアイスロックを習得しました」
「風属性攻撃魔法リウインドを習得しました」
「火属性攻撃魔法リファイヤを習得しました」
「聖属性癒し魔法クライネキュアを習得しました」
「無属性攻撃魔法ロックショットを習得しました」
「土属性攻撃魔法アースクエイクを習得しました」
「水属性攻撃魔法リアイスロックを習得しました」
「風属性補助魔法クライネウォークを習得しました」
「火属性攻撃魔法クライネファイヤアローを習得しました」
「聖属性癒し魔法リヒールを習得しました」
残り経験値四十万弱。フロアNPCに神殿の場所を確認し、チョコをオンブし脱兎二で神殿に向かう。
「掲示板情報ですが、最前線左側の一部が一時的に突破されて数えられない程の敵が小走りで南下しているようです。駐屯地にいる人たちはリンスドルフに向かっています」
しりから珍しく有用なささやきが来た。しかし数えられない程の敵を兎組だけでは対応出来ないはずだ。心配になったので、
「ハンガク私だ。今レベルを上げて魔法を覚えたところだ。これから転職して城に向かう。敵の大部隊がそちらに迫っているが把握しているか?」
「え!転職?あっはい、これから罠の拡張をするところです。NPCの方にも協力してもらっています。牛で耕す範囲を拡大しています」
「時間も材料も無いだろうから、面ではなく線で仕掛けろ。その後ろにアースワークを立てれば時間が稼げるはずだ。こちらは任せろ。以上だ」
あとはハンガクに任せて良いだろう。ちょっと口調が強めになってしまった。テンションが高くなっているんだろう、まるで物語の主人公みたいな気分だな。ふふふ。
神殿につき、神官と思われる方に転職ヒーラーを希望する。
「ゾンネの祝福が有らんことを、そして汝の未来に幸あらんことを」
と言ってから、神官がパイプオルガンの前にタッタッタと走って移動して曲を弾き始める。
私の上には三角錐のようなスポットライトが当たり、段々とそれが収束されて一筋の光になり消えて、パッと円柱のスポットライトが点いた。白い羽がどこからか沢山落ちてきた。
「ヒーラに転職しました。聖属性補助魔法クライネサイレスを習得しました」
神官は移動しないで他に弾いてれる人を用意しておけば効率的なんじゃないかと思ったら、怪我人の治療のため人手が不足しているらしい。すみませんお忙しいところに事情も知らなくて、続いてバッファーを希望する。
「バッファーに転職しました。火属性補助魔法ファイヤーエンチャントを習得しました」
ゾンネの下りと演出は邪魔なので省略してもらった。ウィザードを希望する。
「ウィザードに転職しました。風属性攻撃魔法クライネトルネードを習得しました」
経験値残り三十二万四千。色々魔法を覚えたが正直よく分からないな。チョコは分かるかな?
「魔法のメニューを呼び出して魔法を選べば、それぞれ解説が出るよ」
どうも。速攻で魔法の内容を覚える・・・よし、覚えきれない。まあ何度か読み返すしかないな。
チョコをオンブして知っている串焼き屋を全部廻って買い占める。屋台のおじさんはブレないな、この状況でも焼き続けるとは漢だ。
「城の前まで来ましたが城の中に入れません。プレイヤーが大勢来ていますがNPCに阻止されています」
「ああ今、直ぐ後ろで見えてるから分かるよ」
しりが驚いていた。NPC兵士の前に出る。
「ここに居る者達は全て私の護衛だ。ハイコ様の安全確保が最優先だ、責任は全て持つので全員入れてもらうぞ!」
「「「ハッ、どうぞ」」」
道を開けて片膝をついて返事をする。そうだよねセリフは合わせないとね。プレイヤー達と一緒に城内に入ると、城のあちこちでグリフォンと戦闘になっている。
城の上の方でもグリフォンが多く見える。だいたい偉い人は上にいるだろうから城の上を目指す。城の横に高い塔があり、これならグリフォンが多数いるところまで登れそうだ。チョコをオンブしたまま脱兎二で登る。
バルコニーに五匹のグリフォンが居て、城内への扉を破ろうと蹴ったり嘴で啄いたりしている。私とチョコに補助魔法を掛ける。
「ウォーターベール」水の膜を貼りダメージを軽減させる。
「ファイヤーエンチャント」武器に炎属性を持たせ、攻撃力も一割上げる。
脱兎をすると落っこちてしまいそうなので、チョコと一緒に普通に走る。こちらに気が付いた一匹がそのまま駆けて突進してくる。チョコが前に出て攻撃を盾で防ぎ突進を止める。そして
「シールドバッシュ」「スイッチ」「パワーワーク」
スキルを連続使用する。シールドバッシュで敵を押し返し、よろけた所で持っている剣で直ぐに攻撃し、更に強力な一撃を加える。ヒクヒクしたところを私も十文字槍で突く。
チョコのMP消費が多い気もするが、実力が分からない相手ならまずは全力で戦う方が正解なのかも知れない。
他のグリフォンも気がつき、二匹が空にあがり、二匹は扉の破壊を継続している。空に上がった二匹が向かってくる。
「クライネトルネード」前方のグリフォンに向かって半径五m、高さ五m小型の竜巻が飛んで行く、巻き込まれた二匹が落下してヒクヒクしている。チョコが駆け寄りながら、
「スラッシュ」「スラッシュ」少し離れた所から、剣の斬撃が飛んで行き敵に当たり敵が出血する。その後は剣で切りつけ続け、私も槍で攻撃する。
まだ扉を攻撃しているグリフォンのお尻に向けて槍を突き刺す。ああー凄く痛そうだ、倫理規定に反しそうなので割愛する。倒した。
チョコがもう一匹の羽を攻撃して、飛び上がれなくしたようだ。
私も支援してこちらも倒した。
まだ空には十匹位のグリフォンが飛んでいるのが見える。こいつらも倒すためには、ポシェットから串焼きを取り出し、近くを飛んでいるグリフォンに投げつけると、器用にそれをキャッチして食べている。
他のグリフォンの近くにも串焼きを投げつけると、それもグリフォンが器用にキャッチして食べている。空中に串焼きを投げまくるとグリフォンが集まってきた。
バルコニーの上に串焼きをばら撒く。グリフォンが降りてきて串焼きを啄んでいる。八匹ほど集まったところで、
「クライネトルネード」竜巻がグリフォンたちに当たり、皆ヒクヒクしている。クライネトルネードの副次効果はヒクヒクなので、かなり便利だ。
左から私が右からチョコが近づき、滅多切り滅多刺ししていると、チョコの後ろに急降下してくるグリフォンが見える。咄嗟に今持っている十文字槍を投げつけグリフォンに刺さった。
グリフォンの軌道が少しずれたがチョコに激突、チョコがバルコニーから落ちそうになる。気を取られていると私にもグリフォンが急降下して来たので上半身をひねって避ける。そして相手の背中に向けて、
「クライネファイヤー」相手の羽に当たり、バルコニーに降りて羽をバタバタさせている。
チョコの方を見ると、先ほどのグリフォンがチョコを落とそうと突進し始めた。
「クライネファイヤー」咄嗟のことで使い慣れている魔法を使ってしまった。グリフォンの顔に当たり、爆発するくらいの炎を上げて悶えている。
「リファイヤー」バスケットボールより二周り位大きなボールがグリフォンに向かって飛んで行き大爆発した。ヒクヒクしている。
チョコが体勢を立て直して、他のグリフォンに攻撃を仕掛けている。私もモルルンで、先ほどのグリフォンの頭を潰す。倒れた感じがしたのでチョコの支援に向かう。
グリフォンがネコ?パンチをしてくるが体を捻って避ける。パンチする手に鋭い鈎爪が見える、多分あれで殴られたら痛いではな済まないだろう、多分凄く痛いと思う。
メッセージウインドが出たので近くのグリフォンは全て倒せたと考えて良さそうだ。入手した経験値からアルミラージより少しだけ格下みたいだ。
十文字槍が刺さった敵には魔法が強めに発動した気がする。同じクライネファイヤーなのに・・・。考え事をしているとグリフォンが急降下してくるのが見えた。
「クライネアイスロック」グリフォンの羽が凍りつき、バルコニーに落下する。剣とモルルンでボコボコにした。ウインドウが表示されたので、今度こそ周辺には敵が居なくなったのだろう。
何故かグリフォンは消えなかったので剥ぎ取りをする。グリフォン十六匹から合計、知識の書二冊と金塊十六個、鋭い鈎爪十六個が出た。どれもスタック出来るのでポシェット枠が圧迫しないよう金塊以外は私が預かった。
下を覗くと下の方でも十数匹倒せているようだ。周囲を見渡すと、まだ街の上空に数匹のグリフォンが飛んでいるのが見える。後どれくらい残っているのだろうか?
放置した数が多いまま皆の所に戻ったら、また厄介なことになるな。
「しりみっつれつさん。あとどれ位グリフォンがいるかご存知ですか?」
ささやきでしりに確認してみる。
「掲示板情報では街の中に数十匹目撃がありますが、よくわかりません。書かれた場所に行っても既に居なくなっている事もあって、対応が追いつきません」
とりあえず一旦座って、チョコと一緒に串焼きを食べながら対策を考える。チョコは先ほどの金塊を眺めたり頬ずりしている。しかし今まで必ず金目の物を出す敵っていなかったな。兎の涙だってランダムだし・・・。
「しりみっつれつさん。先ほどグリフォンが持っていったネックレスってどんなのでした?」
「え?拾った宝石ならあげませんよ!ちがう?ああ、金ピカでしたよ。あの泥棒グリフィンめ」
お前もな。チョコから金塊をひとつ貰い、持っていた普通の槍と金塊をセットで地面において、
「クライネアイスロック」凍らせて槍に固定した。槍を空に掲げ、振り回してみる。日の光を浴びて金と氷がピカピカと反射する。
その光を見て飛んでいたグリフォンが数匹集まってきた。バルコニに槍をなげるとグリフォンが槍から金を取ろうと氷を突っつき始めた。取り合いを始めたところで、
「クライネトルネード」所詮畜生だな人間の知恵には勝てん。残念なのは最初の金塊と槍がどこかに飛んでいってしまった。まあこいつらからはぎ取れるから良いけど。
チョコに掲示板への書き込みを任せて、また金と槍で誘き寄せる餌を作って同じことを繰り返す。飛んでいるグリフォンは見当たら無いので少し座ってMPを回復する。
ライブビューイングの画面を見るとハンガクの顔がアップで映っていた。他の画面も兎組や、待ち伏せている他のプレイヤーを中心とした映像になっている。
南から俯瞰した映像には、兎組や他プレイヤーが数万人並んでおり、正面からも数万は居そうな数の敵が小走りで近づいている。大スペクタクル映画のようだ。
再びハンガクの顔がアップになり何やら話し声が聞こえる。
「今城ではえーす達が戦っています。こちらは任せろと宣言してくれました。そしてここは私たちが任されたのです。えーすが我々を育てくれました。今こそ恩義を返す時では無いでしょうか。
死んでも守るよ。皆の力を貸してください!!」
「「「「うおおーーハィーー」」」」
やめてくれーー!!何を言ってるんですかあなたは!あれかな気分が乗っちゃったのかな、私もさっき変な事言ってしまったし、テンションがおかしくなってるんだなきっと。
というかこれVRMMORPGゲームなんだよね?ゲームの主旨変わってるんじゃないか?これが終わったらしばらくは普通のPTプレイをしよう・・・。もう初心者支援中止!
チョコがブラウメーアの北にダンジョンがあるって言ってたからそこに遊びに行こう。ああはずかしい・・・。
ハンガク達が設置した罠の最北から数百m北に、敵が罠に向かうよう、魔法使い達が斜めにアースワークを多数設置し始めた。死ぬのが前提の神風ブロック?だ。
敵の大多数が罠の方に向かい落とし穴に落ちまくる。止まりたくても後ろから押されてドンドン落ちていく。中にある武器に刺されて多数死んでは直ぐに消える。しかし即死しなかった敵を更に別の敵が乗り越えていく。
他の罠にも行動を阻害されながらも敵が迫ってくる。罠にかかる敵が多数いるが、罠にかかった敵を踏みつけながらどんどんと近づいてくる。
ハンガク達が待ち構えている二百m先に、長さ数キロにもなるアースワークの壁が凄い勢いで出来た。敵がその辺りに近づくと足が地面に取られて少し遅くなり始めた。
エールラーケで買ったアスファルトを耕した土と混ぜたため、そこに近づくと敵が足を取られて思うように前に進めない。それでも敵が壁に接近してくる。
ハンガク達が火矢を放つ。火がものすごい勢いで壁の北側で燃える。藁とエールラーケで買った燃える水と薪を混ぜて置いてある。火によるダメージは大したことがないが、一瞬で藁が燃えて大きな火の壁が出来た。
遠くからでも見える火の壁により相手の足が止まった。既に火は弱火になっているが、他のプレイヤー達はアースワークの横から前に出て少しずつ敵と戦い始めた。
あっちは大丈夫そうだな。エールラーケで燃える水こと蒸留した液体石油やアスファルトを買っておいて良かった。藁はリンスドルフには沢山あったので手配には苦労しなかった。
少し見とれてしまったが街の中のグリフォンを片付けるべきだろう。ここの守備は他のプレイヤーに任せて、私が走り回って敵を片付ける方が効率が良さそうだな。
下に降りたところでNPCの兵士に話しかけられた。
「えーす様。ハイコ様は多数の騎士が護衛しておりますので、ご安心ください」
とりあえず無事なようだ。ここにプレイヤーが残る旨の許可を頂いたのでしりに後を託した。
ちなみに尻尻尻は、獣人フタコブ駱駝の男魔法使いで漁師だ。おかしなところだらけだが気にしないことにしよう。
掲示板の目撃情報を頼りに、チョコをオンブしながら街中を脱兎二で走り回る。飛び回る敵には金や串焼きを使って地面に降ろして倒しまくる。
休憩と戦闘を繰り返し何とか倒し終わったところで、クローネシュタットが安全地帯に戻り、しばらくして二日目第二回のイベント時間が終わった。リンスドルフも無事に防衛できたし流石に疲れた。
ハンガクと少しだけささやきで会話した後、目の前が中央公園だったので、兎の串焼きを一個だけ売りに出してログアウトした。
トイレに行き、水分を補給しながらスマホをみる、見たことがない番号の着信が複数あり、CONNECTを見るとトムから書き込みがある。
「鈴木さん。ハジメがフットサルの帰りに車で事故を起こして、病院に運ばれたようです。具体的な状況はこれから確認します。分かり次第連絡します」
うわわわわ。これはゲームをしている場合ではない、孫娘に電話で事情を話し、ゲーム内の皆にログイン出来ない事を伝えるようにお願いした。
トムに電話をすると車の中だった。安心して下さいハンズフリーですよ。
「外出中のハジメの上司から連絡があって、私の家の近所の病院に運ばれたので、先行して確認しに行くところです」
その病院なら家からも近いな、バイクなら十数分てところだ。EVバイクで私も病院に向かう。
「トムさん。さん鈴木。すみませんご心配をおかけしてしまって」
無事なのは良かったが、今は冗談を言うべき場合じゃないだろう。いや心配をさせない為に無理して言ったのかも知れないな。
どうやら多忙で徹夜したのに無理してフットサルに行き、皆でお昼を食べた後、どうしても眠たくなったので駐停車禁止の場所に車を止めた。その際少しガードレールを擦ったそうだ。
窓が開いており警官が揺すったが全然起きなかったので、救急車を呼ばれて騒ぎが大きくなってしまった。実に紛らわしい。
しかし何でそんなに忙しいかをハジメに確認したら、各社との調整や進捗確認、メールを読み返事を書くだけでも一苦労なんだと。
「トム、うちには時間が倍速で流れるVRコンテンツは無いのか?それとハジメ、さんは鈴木の後だ、鈴木さんだ」
実装されている新技術は同業他社でも実験段階に入っている事が多い。今まので業務上の経験、そして昔読んだ信頼出来る本に書いてあったから間違いない。
「はい。現実一時間、仮想空間上で二時間になる二倍速技術は完成しています。この後実用テストになりますが、ただしそれ用のコンテンツは、会話、メール、チャットくらいしかありませんよ」
ハジメや関係会社の面々にその中の働いて貰えば、遠隔地でも顔を合わせて会議出来るし、メールを読んだり書いたりだって楽じゃないのか?
動く椅子もセットで利用すれば、二倍速も椅子も実用テストが出来るし、二百周年記念事業の準備も進むだろう。
「いくつか問題が、まず労働基準法との兼ね合いと、あの!労働組合との調整が必要です、はあ~」
法律は私も懸念していたが、三ヶ月弱の間のVR技術テストという事でなんとかならないだろうか。仮想時間の労働時間も特別手当で支給するとか、終わったら特別休暇を与えるとか、しかし、
「トム、どうしたんだ珍しいな。出来ない理由を言うのではなくて出来るためにどうすれば良いか考えるべきだろう」
労働組合との調整に労力が掛かるのは分かるが、だからやらないというのは理由にならない。拒絶されて、初めて理由となるのだから。
「トムさん、鈴木さんだ、本当に今日は申し訳ございませんでした」
まあこうなると分かっていて言ったんだけどね。こいつはブレないな。とりあえず直ぐに退院するそうなのであとはトムに任せた、車だしね。
次回最終回です




