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レイの場合.2

家についたのが午後7時前。

「晩飯、どうする?」

「急いで作るから、ちょっと待ってて。あり合わせになるけど」

駐車場に、車を入れながらの会話。

「どっかで食べてきちゃってもよかったな」

「この雪の中?もっと降ったら、それこそ帰れなくなっちゃうよ」

「そか、それもそうか」

この会話ができるようになるまでの、車の中の空気の重かったこと重かったこと。

一体全体、何がどうしてどうなって、あの店にいたのかってところまで聞き出せたのがついさっき。

その原因になるような、片思い勘違い破局目前ブルーな状態も何とか聞き出して。

あぁ、こないだ会った子が原因なんだな、と。

原因というよりも、それをちゃんと伝えるとか、言葉にするとか、そんな部分はまだまだ先の話なんだな。

「初恋なんて、そんなもんか」

「え?何?」

やばい、つい声に。

「なんでもない。てか、むしろ風呂が先か?コーヒー臭いだろ」

そう言うと、思い出したという様に髪や服を確認して。

「んー。髪の毛にかかってはいないんだけど。気分的にはお風呂かな」

一応、綺麗にしてもらったとはいえ、気になる所は気になるんだな。

「なら、先に風呂沸かしちゃうからさ」

「そう?なら、そうする。ご飯は大丈夫?」

「1時間も2時間もかからないだろう?待ってるよ」

にこやかに、笑って見せて。

ま、風呂に入れば、もう少しすっきりして。

元気が出るか、気にならなくなるか。

「一緒に入る?」

『んな訳ないでしょ。キモイ事、言わないでよ」

ですよね。



ゆっくりと、シャワーの音を聞きながら。

「キモイ事なんて言われちゃ、それなりにショックだな」

冷蔵庫から取り出したビールを一人で傾けながら、そんな事を、部屋の隅に向かって話しかけてみる。

「ま、今までのこともあるしな。そうそう、仲良くなんていく訳にはいかないか。なぁ」

部屋の隅には、物言わない写真立て。

「俺に、どうしろって言う意味で、こんな生活させてんだかな。何かが起きてからでも、知らないよ」

少し、色あせた写真は。

そこだけ、思い出を切り取ったような笑顔がはめ込まれていて。

「なぁ。なんで、ここに居ないかなぁ」

そう言えば、昔一人で飲んでいた時も、こんな天気だったな。

「なんか、しんみりしちゃっていけないな」

成長を見るっていうことは、しんみりすることと同義なのかな。

なんて。

「はぁ、さっぱりした。お待たせ、急いで晩御飯にするから、って」

洗いたての髪を拭きながら、バスルームから出てきたその視線が、テーブルの上のビールでびたっと。

「また飲んでる。たまには控えたら?ビール代だってバカにならないんだから」

そんな、大きいため息。

「いいじゃない、ささやかな楽しみだよ」

そう言って、一人乾杯のしぐさ。

「そういうのって、よくわからない」

表情はますますあきれ顔。

「酔わなきゃ、言えないことだってあるからさ。酔いたくなる気分もあるんだよ」

「いつもじゃない。いつも酔って、わけわかんないこと言って」

そうかな。

「例えばどんなこと?好きだよ、とか、愛してるよ、とか?」

「はいはい、この酔っ払い。ちょっと待っててね、すぐに作るから」

そう言って、キッチンへと消えていった。

「軽く、流されたな。意外と、真面目に言ったんだけどな」

酔っぱらいのいう事だから、話半分以下なのかな。

「ま。真剣に取られるよりは、まだいいか」



「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」

そんな、食後のやり取り。

「洗い物はやっとくからいいよ。今日は疲れただろうから、先に休みなさい」

2本目の缶ビールを開けながら。

「え、ほんと?じゃ、お言葉に甘えて。明日の予習もしなきゃならないから。もう部屋に行くね」

車の中よりは、元気になった表情で。

よかった。

「ん。おやすみ」

「おやすみなさい」

ドアを抜けていくスリッパの音に。

「明日は、きっといいことあるよ」

なんて、言葉をかけて。

「さて、どうするかな。撮り溜めたドラマでも消化するかな」

TVのリモコンに手を伸ばそうとした時。

ピリリ、ピリリ。

『ん?こんな時間に電話?誰だ」

画面に出たのは、マシロの名前。

そうだ、少し、いたずらをしよう。

『あ、もしもし』

「只今、電話に出ることができません。ピー、という発信音の後に……」

うん。

我ながら、これは上出来。

「もしもしレイさん、電話口で、そういう冗談やめてもらっていいですか』

「え、何だ、ばれた?はいはい、何でしょうマシロん」

反応が、とてつもなく冷静で面白くない。

『今日、うちの店に来たじゃない?あの、連れていった子』

「あぁ、ありがとね。助かったよ。聞いたら、空き缶蹴っ飛ばして中身を被ったんだってさ。何やってんだって言ってやったよ」

話ながら、そう、うんうん頷いて。

『そうじゃなくて。どういう関係?』

やっぱり、聞いてきたか。

「ん?どういう関係って?」

『だから、何で、あの子を、レイが、迎えに来たの?って聞いてるの』

「あぁ、その事ね。実はね」

『実は?』

「内緒」

よし、今度こそ。

『電話、切っていい?もう、連絡も取れなくしていい?』

何か、お気に召さなかったらしく。

「やだなぁ、そんな怒らないでよマシロん」

『怒らせてるのはそっちでしょ?何、内緒って。内緒の相手ってこと?バレなきゃいいってこと』

どうやら、相当にご機嫌斜めな予感。

「誰にバレるのさ。そんなこと言うなら、マシロんとの関係だって、バレちゃまずい関係なんじゃない?」

『何、そのバレちゃまずい関係って。何か、やましい事あるんでしょ、絶対、あるんでしょ』

「ないよ無いよ。今、一緒に住んでる子だってこと。前に話したじゃない?二人で住んでるって」

『それって、オフィシャルな関係?何か、口にできない関係にしか思えない。年齢的にも』

オフィシャルじゃない関係って、なんだ?フィジカルか?ロジカルか?

「年齢的にも、はひどいなぁ。保護者だよ、保護者」

『保護者って言うには、最近随分と若作りだよね。頑張って併せてるんだ。ふーん』

若作りとは、また厳しいお言葉。

『どうぞどうぞご自由に。好きにやったらいいじゃない。そう、好きにやったらいいじゃない、昼も、夜も。四六時中、同じ家にいるんでしょ?好きにやったらいいじゃないのさ』

「何訳の分からないこと言ってるんだよ。保護者は手、出さないよ。でを出すのは、マシロんだけさ』

じゃなきゃ、こんな時間の電話になんか、出ないよ。

『は?何言って』

「だから、手を出すのはマシロんだけだよ?って、言ってるんだよ』

『よくもまぁ、そんな恥ずかしいことが言えるね。どんな顔して言っているのか、見てみたい』

「んー、わかった。今度会った時に、見つめながら言ってあげる」

これで、今度会う時の楽しみができたな。

『ピンポン、ピンポン』

なんだ、この音。

あぁ、今、電車待ちで暇だったのか。

「電車が来るね?じゃぁ、また今度だね。大好きだよ、マシロ」

『わかったわかった。もういいよ、それじゃぁ、また、今度ね』

「ん。じゃ、またね」

そう言って、電話を切る。

「不思議な関係、か。そりゃ、そうだよな。二回りまではいかないけど、年が離れているわけだしな」

ただ、理由をいちいち説明するのも、面倒くさいな。

「そうさな。今は今。目の前にいる相手。それで、いいじゃないか」

たまに、眠れない時にはベッドにもぐりこんでくるぐらいも、大目に見てあげようじゃないか。

「なぁ」

そう言って、もう一度話しかけた写真立ては、なんだか怒っているようだった。

ありがとうございました。

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