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アキラの場合.2

授業も終わり、もう放課後なのに帰ろうというそぶりすら見せず。

「アキラ、ついに告白されたのに、その場でそっこーで振ったんだって?」

仲のいい奴らが、そんな冷やかしを言ってくる。

「ちげーよ、そんなんじゃねーよ」

まったく。

色恋沙汰にしか興味のない連中のすることがわからない。

教室の中では。

「ねぇ、ついに告白したんでしょ?」

「朝からなんて、大胆だよね」

窓際の席で、そんなやり取りにもまれている風景。

「なんでさ」

叫ぶような声。

「みんな、ほっといてよ」

カバンを握り締めて、椅子を蹴り。

「あ、ちょっと……」

教室の引き戸から、走り抜けるように昇降口へと逃げていく。

逃げていく?

そっか。

逃げたんだ。



「あれ、今日は一緒じゃないんだ」

部活に顔を出すと、大体そろっているのはいつもの面々。

「んー、今日は調子が悪いんだってさ。だから、俺一人」

そう言って、奥の席へと座る。

「そか。ま、そんな日もあるよね」

そう言って、各々自分のやっていることに戻っていく。

ここは、教室と違ってまだ居心地がいい。

変なことを詮索されたりしないし。

余計な会話とか、無いし。

「さて、と。こないだの続きでも書くかな」

そう言って、ノートを取り出した。

先日のプロット以降。

書き進んでいないノート。

「どうにも、行き詰ってきたな」

話の流れを大まかに書いてみては、どうもこれでは進まないという気しかしてこない。

「なぁ、これ……」

そう言いかけて。

あ、そっか。

今日は、俺一人なんだ。

そんな事を、思い知った。

「……なんか、調子でないな」

思いつかないわけじゃない。

ただ、まとまってこない。

「んー」

どうするかな。

「わり、ちょっと散歩してくる」

「はいよー」

ドアを抜け、さて、どこに行こうか。

屋上は、どっちみち上がれないし。

「でも、とりあえず、上の階か」

気分転換だからな、高い所だよな。

「なんて、意味もなく高い所に行きたくなるのは、俺もバカだからかな」

階段へ行き、昇っていく。

日中は二階までしか使われていない校舎の三階へ。

電気のついていない教室の先。

三階の更に上、屋上に出る扉の前まで登ると、高台にある校舎の向こう側、窓から駅までの街が一望できた。

「あ、雪、降ってきたんだ」

ちらちらと。

この季節になってもまだ、雪が降ってきて。

「道理で、今日は寒いと思った」

そのまま、空からのプレゼントを窓越しに眺めて。

「触れないのかな」

窓の鍵はロックされていて、もちろん開けるのは簡単だけど。

なぜか、開ける気にはならなかった。

「雪が降ってきたなんて知ったら、真っ先に外に出てってはしゃぐのにな」

ふと、そんなことを考えた。

誰が、真っ先に出ていくって?

そんなの、決まってるじゃないか。

「おい、アキラ。そんなところで何してる』

そう、階段の下から声が聞こえる。

「散歩っす、散歩」

降りていくと、部活の担任が見上げていた。

「雪が本降りになってきたから、部活は中止。早く帰れ」

窓をカンカンと叩く。

「ういーっす」

そう言って、すれ違う。

キンコンと、チャイムが鳴る。

時刻は、午後5時。

「どうしたかな。無事、電車に乗れたかな」

走って帰ってっただろうか。

少し、心配になった。



駅向こうのバス停まで、だらだらと電車組の奴らと帰る。

「寒いねー」

「電車動いてんのかな」

「今夜のドラマさ」

そんなやり取りが周りで続いても、参加する気にならなくて。

「アキラ、今日はいつもよりも静かだね」

「んー、そうか?」

別に、必要がなければ、話しなくたっていいじゃないか。

「あぁ、さみーな」

ぼそっと。

さみーな。

真っ直ぐな道を抜けて、南口を流れる川の堤防上へ。

「うへ、なんだこれ」

先を行く奴の声に、見に行くと、うっすらと雪の積もった土手に茶色い染みが点々と。

「誰か、空き缶でも蹴ったんじゃない」

そうかもしれない。

「こんな入ってたんじゃ、ひっかぶったんじゃないかな」

そんな、バカな事する奴いるかな。

大して引っかかりもせず、そのまま南口へ。

電車の往来を示す電光板には、遅延の情報はまだ出ていなかった。

「よかった。普段通りだね」

「じゃ、また明日ねー」

そうやって、いなくなる電車組。

一人、いつものように改札の前に取り残される俺。

「さて、バスは動いてっかな」

改札の先の階段から、北口のロータリーへ。

時刻は丁度バスの時間。

手前の自販機でホットのミルクティーを買っていると、丁度バスが入ってきて。

タイミング良く、乗ることができた。

「ふぅ」

窓際の席を確保し、動き始めるまで道行く車を眺める。

まだ、雪の積もっている車は少ない。

きっと今晩が本降りで。

明日の朝には銀世界だろう。

明日が、休校になったらどんなにか嬉しいかな。

手の間に缶を持って、冷えた指先を温める。

手が冷たい人は心が温かいなんて話があったな。

フフッと、笑える。

「ねぇねぇ、さっきの子、可愛そうだったね」

「あぁ、あのコーヒーの子?コートも被ってたね、何したんだろうね」

「顔なんかもう涙ボロボロでね」

後ろの方の会話。

あぁ、さっきの土手のコーヒーの事か。

やっぱり、ひっかぶった奴いたんだな。

あいつは、そんな馬鹿なことしないよな。

何だよ、また、あいつの事ばっかり。

「バカバカしい」

「発車します。閉まるドアにご注意ください」

ブザーと、ドアの閉まる音。

ゆっくりと、ロータリーから走り出すバス。

「毎度ご乗車ありがとうございます。このバスは……」

運転手のいつものアナウンス。

二つ目の信号が赤、ちょうどバイト先の前。

「お、客かな、店の前に車留めて」

そんな急いで来るなんて。

よっぽど大急ぎで飲みたかったのかな。

単に、トイレを借りただけか。

なんて、店を眺めていると。

「あれ」

なんで、あいつが店の中から出てくるんだ。

それに、この間の奴も一緒に。

そのまま、車に乗り込んで。

「あいつ、どこ行くんだよ」

ハザードをあげていた車は、車道側へウインカーを出して。

車の中は、少し曇っていて。

どんな表情をしているか見ることはできずに。

そのまま、走り去っていった2シーターのスポーツタイプ。

リトラのヘッドライトなんて、今時ほとんど見ない。

「どんなパトロンだよ」

畜生。

なんか。

すげー、もやもやする。

なんだよ、あいつの今朝の表情なんて、なんか言い訳したがってたみたいなのに。

「かんけーねーじゃん。結局、誰か、一緒にいるんじゃん」

少しでも、気にした俺がバカだった。

なんで俺は。

こんなに腹が立ってるんだ。

明日、何か言ってきても。

「聞いてやるもんか」

明日。

「会いたくねーな」

ありがとうございました。

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