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レイの場合.1

窓の向こうにはカラフルなネオンの看板。

「ねぇ、レイ」

ステアリングを握っているのは、さっきまでニコニコで水槽を覗いていた顔。

「ん?」

道を外れていく加速度を椅子の上で感じながら。

「この後、用事、ある?」

ドリンクホルダーの飲み物を取ろうとした手が掴まって。

「用事、無いけど」

何が、起きるのかな。

期待と、不安?

不安?

どんな。

「もう一軒、我儘に付き合って」

そうか。

断る気もないけど。



ヘッドライトに照らされた、白い家の壁を眺めている。

「今日も、終わりか」

時計の時刻は午後11時。

エンジンを切って、リトラをしまう。

1機に、辺りが暗くなる。

カバンを置いている椅子の上には、微かな温もり。

車の中に漂う、甘い香り。

『ねぇ、良かった?』

なんて。

首筋に手を回しながら、思い出す。

「……普通、良かった?なんて、聞かねーよ」

何がだ。

バッティングセンターがか?

別の事か。

「はぁ」

あの後なんて、全てにおいて乱れっ放しだったな。

車を降りて、キーをロック。

タイヤをキック。

吐く息は、とても白く。

「うぅ、さむっ」

キンキンと鳴るマフラーの音が、寒さをより一層際立たせている。

2台分の駐車スペースは、いつも1台分しか埋まらない。

「早く、寝よ」

家の中、リビングの明かりはまだついていて、誰かが待っているのか、つけっぱなしか。

「何だよ、寝る時ぐらいは電気消せよ」

ガチャッとドアを開けて、そのまま真っ直ぐ利リビングへ。

「お」

はたして、リビングには人影があった。

「あ、お帰り」

洗い上げの髪を乾かさずに。

「まだ起きてたのか。明日は日曜だからって、珍しい」

リビングでぬいぐるみをだっこしている姿を見ながらの言葉。

「そう言うレイこそ、今日は随分と遅くって」

ムスッとした表情を隠しもせず。

「何だ、早く帰ってきてほしかった?」

イスの上にカバンを放り投げて。

ついでに、自分の体も放り投げて。

「そういうわけじゃないけど。この家二人っきりなんだから。夜は広すぎて」

潰されまいと、慌てて立ち上がっても。

ムスッとしていても。

何だ、寂しがり屋。

「寂しかったのか。悪かった悪かった。ほれ、お土産」

そう言って、買ってきたぬいぐるみを一つ。

「わ。ありがとう」

袋から取り出して、まじまじと眺めて。

「うん、可愛い。ベッドに飾っとく」

そう言うと、にっこりと笑った。

可愛いやつ。

「コーヒー、飲む?インスタントだけど」

どうやら、俺を待っていてくれたらしいとわかって。

「何だ、可愛いなぁ、待っててくれたのか」

つい、声に出てしまった。

「やめてよ、気持ち悪い」

ブラックがなみなみのマグカップ。

「ミルクは?」

「自分でいれて」

「はいはい」

そこは、やさしくないんだな。

「どこ行ってきたの?」

新たなぬいぐるみをだっこに加えて。

「んー、この間、連れていってあげた水族館」

イスから起き上がって、マグカップを手に取る。

「あぁ、あそこ。誰と」

「誰だっていいだろう」

「また、新しい人見つけたんだ」

「なんだその言い方、人聞きの悪い」

「だって、この間行ったのは、連れてってあげるって気持ちじゃなくて、下見だったんだって思うと、何か、ねぇ」

そう言うと、またつまらなそうな顔をする。

「なんか、なんだよ」

「代理かよ、とか、思うじゃない」

「あぁ、そういうこと。だいりじゃないぞ、いつだって、誰だって俺は真面目に相手するよ」

そう言って、頬に手を伸ばす。

「首筋に赤い斑点つけながら、格好つかないよ」

なんだ、見るとこ見られてるのか。

バツが悪くなり、ふと、テーブルの上に目をやると、そこにはLEDの灯った携帯が投げっぱなしにされている。

「メール、来てるんじゃないのか」

そう言うと、喜ぶのかと思ったらそうでもなく。

「ん。もう、いいの」

そう言いながら、テーブルまで行き、携帯を手早く隠す。

「なんだ、こないだ言ってた子じゃないのか、メールの相手は」

一緒につるんでいる子がいるって、話をしていたっけと思いだす。

「そうなんだけど、なんか合わなくて」

窓の外を見るように、視線を動かす、というか、泳いでいる。

「なんか合わなくて、ときたか」

なんか合わなくて、ときたか。

思わず、笑ってしまった。

「何だ、初恋か。ついにようやくようやっとか。気になったか。目覚めたか。初々しいなぁ、いいぞいいぞ?」

そう言って、頭をわしわしと撫でてやった。

「もう、何で笑うのさ。やめてよ。レイなんか知らない。レイなんか、レイなんか。バーカ」

そう言うと手をはねのけて、手近にあったクッションを投げつけ、2階にパタパタと昇っていってしまった。

「わっ、あぶねーな。コーヒーこぼれるじゃないか」

閉まったドアに、声を投げる。

「バーカ、ね。青春だな」

そんな、悩んだ時期もあったな。

最近は、悩まなくなったな。

年かな。

即物的になったのかな。



『おはようございます、今日は日中は曇り時々雨でしょう』

リビングにTVの音声が響く。

コンロでシュンシュンとヤカン。

そんな音が、枕を通して聞こえてくる。

「うー、昨日は飲み過ぎた……」

どうも、あの後寝付けなくて。

いつの間にか開けたビールの缶は何本だったか。

思い出せない。

「朝だよ、起きろ」

そんな頭を気にすることなく、また、無遠慮にドアの向こうで声がかかる。

「もう少し寝かせてくれよ」

「何言ってるのさ、買い物あるんだから、付き合ってよ」

ガチャッとドアを開けて、パタパタとスリッパの音。

「ほら、起きてったら」

フトンをはがそうとする手。

「もう少しだから」

そう言って、抵抗する手が、その手を摑まえて。

「え」

「あ」

そのまま、ベッドの上に引っ張って。

抱きとめる形になった。

「おはよう」

「おはよう」

そんな言葉をお互いに発する。

「うわ、酒臭い」

そう言いながら、腕の中で深呼吸をしている。

俺も、そのまま頭をなでなでする。

何分か、時計の針が進んでいって。

「もう、いい?」

しぜんと、離れていった。

「朝ご飯、用意したから。食べたら買い物、だからね」

来た時と同じように、スリッパが離れていく。

「なんで、家族なのかな」

そんな、しょうもないことを考えた。



「今日は、何をお求めで」

朝食をとりながら。

「そんな酒臭い状態で、運転できるの?そこの方が心配なんだけど」

朝刊を突き通すが如きジト目の視線が突き刺さる。

「いろいろあるよ。食料もだし、洗剤の買い置きもないし。あぁ、お米買わなきゃ。せっかくだから、運んでほしいんだ」

「りょーかいりょーかい。昨日の分は、お付き合いいたしましょう」

「お付き合いしてください。でも、デートはしないからね」

読み終わった朝刊と、チラシを丁寧に畳みながらも言葉はきつい。

「デートなんて、してほしいの?」

「ほしくない」

「じゃぁ言わない」

「はーい」

今朝のことはすっかり忘れたように。

「10時くらいでいいか、出かけるの」

「いいけど」

「じゃぁ、シャワー浴びていい?眠気覚ましに」

「酔い覚ましでしょ、お好きにどうぞ」

なんだ、つまらないな。

「一緒に入るか?」

そう声をかけると、顔を真っ赤にして。

「な、何年前の話?は・い・ら・ない」

はいはい。

からかうのは、やっぱり楽しい。

お互いに、意識しないでこんな会話をよくもまぁ、できるようになったものだと思う。

最初に、この家に二人っきりで済むことになった時には、それはまぁ大もめにもめたのだけれど。

それも、ずいぶんと落ち着いてきた。

シャワーを浴びながら、その頃を思い出す。

もう、2年になるかな。

もう少し、経つかな。

年の離れた家族ができたのも。

その家族を置いて、保護者がいなくなったのも。

その頃からかな。

言われたように、次から次へと、新しい関係を求めるようになったのも。

「これじゃ、まずいのかな」

そんな事を呟きながら浴びるシャワーの向こう側。

鏡に映る体は首以外にも赤い斑点がそこかしこについていて。

石鹸の流れる背中は、やにしみる感じがした。



「次は、洗濯洗剤で」

メモを片手に歩く姿を追いかけながら、俺はカート押し係。

「ねぇ、このチョコ入れていい?」

「自分で払うならどうぞ」

「じゃぁこのビールは?」

「今以上にお酒臭くなるから却下」

そんなやり取りを延々と続ける。

「後は、と、あ……」

声が止まったので顔をあげると、通路の向こうに、こちらを見つめる人がいる。

「アキラ……」

あぁ、この子が、話をしていた子か。

「んだ……じゃん……」

じっと見つめた後。

よく聞き取れない言葉を残して、その子は通路の奥へと消えていった。

「あ……」

一瞬。

追いかけようとして。

一歩が踏み出せず、顔を伏せて。

目をぬぐって。

「さ、次は、牛乳を買って……」

なんか、重傷だな。

「どうしたよ、何したんだよ」

そう言って、肩を叩く。

「なんでもない。ちょっと、うまく言えないだけ」

もう一度、目をぬぐって。

ちょっと。

周りの家族連れの視線が痛い。

こうなると、俺にはお手上げだ。

ありがとうございました。

次回、二巡目に入ります。

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