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マシロの場合.1

「アキラ、苦いのカッコつけて飲むなんて、まだまだお子様だね」

年下の子をからかうのって、本当に面白い。

「俺、そんなにかっこ悪いかな」

うん、ムスッとした表情で、すねたように言うのも可愛いな。

「ん?何?」

つい、いたずら心が芽生えてしまって。

どうしたの?みたいに、見つめ返したくなってしまう。

「マシロさん、俺、そんなにかっこ悪いですか、だって、俺、マシロさんのこと」

お、食いついてきた、食いついてきた。

「マシロちゃん、オーダー、いい?」

あぁ、もう、いい所で。

うちのマスター、本当に空気読まないな。

「あ、はーい。じゃ、アキラ、気をつけてね」

そう言って、ギャルソンエプロンをひらひらさせながら、オーダーを取りにカウンターへ。

オーダーをレジに打ち込みながら、ドアを出ていく落胆した背中を目で追いかける。

今日は、帰っちゃうのかな。

あ、そうだ、忘れてた。

「あ、アキラ、言い忘れてた」

その声に、何かを期待したような複雑な表情。

「ほら、アキラといつも一緒にいる子。今日、電車に乗るときに泣いてたよ?何かしたの?」

うん、今日一番の動揺を誘う一言。

「泣いてたって、どういうことっすか?」

不安げな表情。

「んー、何か、そう見えただけかも。なんでもない。気をつけてね」

気にしないで、というジェスチャーを送りながら。

でもきっと、アキラは、気にしちゃうんでしょ。

なんか、焼けちゃうなぁ。



「ありがとうございました」

時間は午後11時。

夜はバーをやっているこのお店も、昼間はカフェということもあって閉店は意外と早い。

最後のお客さんを送り出して、店の後片付けをして。

「マシロちゃん、今日もお疲れ」

そう言うと、マスターがコーヒーを淹れてくれた。

「ありがと、マスター」

言って受け取る。

「今日のアレ、意地悪だったんじゃないの?」

自分の分も、カップに注ぎながらマスターが言う。

「あれって、何の事ですか?」

一応、とぼけてみる。

「しらばっくれんじゃないよ、アキラにだよ。いろいろ言ってたじゃないか。からかっているって言うより、もてあそんでいる感じ。知ってるんだろう?アキラの気持ち」

なんだ、ばれてたか。

「知ってますよ、アキラの気持ちは。だって、ここに通い始めて、話をして。そしたら、働きたい、なんて言いだして。でも、それを知ってて、バイト?いいよ、なんて言うマスターだって、意地悪じゃないですか」

そう言って、コーヒーを一口。

「意地悪じゃないよ、場所ときっかけを提供してあげたんだよ」

それを、意地悪って言うんじゃないのか、と。

猛烈に突っ込みたい。

「あの位の年の子ってさ。何だろうね、背伸びなのかな。応援したくならない?」

そう、遠い目で。

「応援するなら、被害のない所でやってくださいよ」

こちらはジト目で。

「被害はないよ、うん、僕には」

そう言ってにっこり笑うマスター。

この人、食えない。

「まぁさ。いいと思うんだ。二人とも若いんだから。失敗も経験のうちさ」

そう言うと、飲みきったカップを食洗器に入れて。

「そうだ、今度、二人のシフトの休み、合わせておいたから。どっか行って来たら?」

どこまでも、意地悪な笑み。

「マスター、それは部分的にパワハラ」



「うぅ、さむっ」

店を出て。

駅までの道を一人歩く。

この時間なら、ぎりぎり終電には間に合うかな。

「うちに帰ったら、お風呂入って、洗濯して……」

なんてことをぶつぶつ呟いていると、不意にポケットが震えた。

「んー、誰だろ、こんな時間に」

携帯のディスプレイには、見慣れたレイくんの名前。

「もしもーし」

『やっほ、僕だよ』

「知ってるよ、名前出るから。こんな時間に何?寝なよ」

『寝なよ、なんて、冷たいなぁマシロんは。これから暇?』

「暇じゃないよ。上がりでこれから帰ってお風呂。忙しいんだから。切るよ?」

『あぁ、切らないで切らないで。明日さぁ、土曜だから、デート行かない?』

「はぁ?いつも突然だね。いいけど。迎えに来てくれるの?」

『もちろん、玄関先までお迎えに』

「わかったわかった。明日何時?」

『朝九時に』

「りょーかい。起きてなかったら起こして。合鍵あるでしょ」

『お、家の中入っていいの?やった。楽しみ』

「ばーか。きるよ」

『おやすみー』

耳から携帯を離して、ため息で通話終了のボタンを押す。

なんだ。

いつも唐突。

なのに。

久しぶりに、うきうきする。

「今日は、きれいに磨いちゃおうかな」

でも、夜更かしはしないようにしなきゃな。

終電のホームまで。

気分は、スキップ。



ぴんぽーん、ぴんぽーん。

あぁ、何か、聞こえるなぁ。

ぴんぽーん、ぴんぽーん。

うるさいなぁ。

「はー、今日はお休みでーす」

休みの日くらい、ゆっくりと寝かしてよ。

ぴんぽーん。

ガチャッ。

「おっはよー、マっシローん、お迎えにきったよー。って、寝てるんじゃん」

どったどったどった。

「えーい」

どすっと。

「ぐえっ」

何かが乗っかってきた。

「マシロん、起きなよ。デートだよ?」

「うん、わかった、わかったから。起きるから、レイ、どいて」

目が覚めたから。わかったから。

「起きたくないなら、寝ててもいいよ?」

「耳元で言わない。起きるから」

ぞわぞわするから、止めてよ、ほんと。

「今何時?」

「今?8時半」

「は?約束は9時じゃん。何そんなに早く来てんの」

まだもう少し寝れたじゃないか。

「水族館、行きたくってさ」

いや、説明になってないし。

「わかったよ、準備するから。待ってて」

そう言って、ベッドからのそのそと這い出して。

「シャワー、浴びてもいい?」

「どうぞ、お気になさらず」

既にテレビをつけて待ちの体制になったレイは、かなりの余裕モード。

「適当に何か飲んでて」

「はいよー」

そう言って、洗濯機の上からタオルを取って、バスルームへ。

「覗かないでよ」

「覗かないよ」

ほんとかなぁ。

油断も隙もありゃしない。

一応、ドアのカギをかけて。

シャワーを強めに出して、お湯の温度も熱めで。

「緊張してきた」

これは独り言。

「今日は、何かあるのかな。何もないよね」

目が覚めてくると、この後の予定がだんだん不安になってくる。

「デートだけだよね。水族館だけだよね」

何か、期待してもらっても困るし。

自分で期待しちゃっても、ねぇ。

「マシロん、まだー?」

そんな、のんびりしたレイの声。

「今出るー」

シャワーを止めて。

タオルで体を噴きながらドアを開けると。

「あ」

「あ」

目の前に。

「こんの、覗き魔ぁ」

平手打ちだ。



「機嫌なおしてよ、出来心だったんだよ」

頬に真っ赤なモミジを付けたまま、車を運転するレイ。

「出来心の塊が、何今更言い訳してんの」

一方、こちらは怒りの落としどころが見当たらない。

「悪かったって。お詫びに昼飯おごるからさ」

「そんなもんで、つられませんよー、だ」

でも、必死に謝っている、ふりかもしれないけど、そんなレイも、ちょっと可愛いな。

「ところで、どこの水族館?てっきり近場だと思ったんだけど」

近場の水族館なら、下道で行けるはずなのに。

ついさっきまで高速道路を走っていて、ようやく一般道に出て、今は海岸線を走っている。

海岸線って言うよりも、どこかのターミナルの中かな。

道がひたすらにでっかくて、どこまでも真っ直ぐだ。

「せっかくだからさ、隣の県の水族館でも行ってみないかな、と思って。行ったこと、無いでしょ」

「うん、ないない。どんなところ?」

「イルカショーとかはないけど、イワシの巨大水槽とかあって、これはこれで見ものだよ」

「イワシ?それって、面白いの?」

「間近で見ることとか、大量に見ることとかないでしょ。水族館の新しいアプローチだよ」

ふぅん。

なんか、そういうとこ、真面目だな、レイって。

「ほら、見えてきた」

指さされた方に見えたのは、ガラス張りの建物。

「あれ、水族館?」

「水族館とか、展望タワーとか」

へぇ、ちょっと、いいかも。

駐車場に停めた車から降りて。

「結構、家族連れが多いね」

「土曜日だからね」

「したら、うちらどう見えるのかな」

「?普通のカップルでしょ」

「そか。そうだね」

そう言うと、フフッと笑うレイ。

何、この幸せそうな顔。

「さ、行こうよ。中、案内してあげるよ」



「はー、楽しかった」

帰り道。

ワガママを言って、美味しいものをごちそうになって。

ぬいぐるみも買ってもらって。

「満足したうえに、何で運転したがるかなぁ」

助手席のレイは、苦笑いだ。

「だって、この車楽しそうなんだもん。レイが好きで買った車でしょ?」

「そりゃね。だけど、急に運転したいなんて言い出すんだから」

「レイにハンドル握らせてたら、その後どこに連れていかれるか、わかったもんじゃないじゃない」

「そんなセキュリティ対策的な?」

かなり、ショックを受けたような表情。

車は走り続けて、もう最寄りのインターチェンジ。

窓の外は、夕暮れ時。

ガラスに時々反射しては通り過ぎる、ネオン。

あぁ、何か、ぞくぞくしちゃう。

「ねぇ、レイ」

「ん?」

「この後、用事、ある?」

そう言って、レイの手を握る。

「用事、無いけど」

少し、緊張した声。

そっか。

「もう一軒、我儘に付き合って」

インターを出た後。

そう言って、ハンドルを切った。

ありがとうございました。

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