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マシロの場合.4

「今日、これから会えない?」

なんか今日は、傍にいたい気分。。

『残念。会いたいけど、今日はこの雪じゃお休みだ。また今度』

「なんだ」

でも、レイならきっとそういうと思ってた。

『今度会った時、今日の分もね』

またそんなこと言う。

何にもできないくせに。

「わかった。約束だよ」

絶対だから。

『オーケー。じゃ』

ブツッ、ツー、ツー、ツー。

「恥ずかしがって、手だって外だつなげないくせに」

なのに、今度会った時、なんて。

「レイこそ。今度、どこで何をする気なの」

今度会ったら、はっきり聞いてみよう。

何考えてたの、って。



ようやっと、フトンから起き出したのが午前10時。

カーテンを開けると、外はまだ絶賛雪の中。

隣の部屋の人は、車で出かけたみたいだけど、この雪じゃ、帰ってこないだろうな。

だって、車のわだちが隠れるくらいに雪が降り積もってる。

「こんな中、外に出るのなんて、バカバカしいな」

カーテンを閉めて。

「なんか、喉いたい。乾いたかな」

キッチンまで、少しの距離。

床の冷たさが、足の裏を通してじんわりと伝わってきて、この部屋って、こんなに冷たかったんだな、って。

少し、寒い。

「おかしいな。暖房、あれ、つけっぱなしな筈なのに」

エアコンは元気に風を吐き出して、今も動いてますよ、って自己主張してる。

床の冷たさが、かえって心地いいくらいに体を冷やしてくるのがわかって。

あれ。

「少し、ふらふらするかも」

蛇口から、コップに水を一杯汲んで、飲み込むのも一苦労。

なんか、少し熱っぽいかな。

昨日、雪の中歩いたからかな。

帰ってきてすぐに、お風呂に入ったのにな。

すぐでもないか。

「体、冷えたかな」

おフトン、戻ろうかな。

おフトン、遠いな。

「床、気持ちいいな」

このままじゃ、ダメかな。

「なんか、眠くなってきちゃった」

少し、ここで寝ようかな。



壁にもたれてうとうとしていたら、時間が経つのが早くて。

今、もう午後1時。

「そろそろ、準備しなきゃ、いけないんだけど」

午前中よりも体がぐったりしてしまって、言うことを聞いてくれない。

「なんか、まずいなぁ」

こんな時、誰もいないって、やだな。

一人で、倒れてたりしたら、誰も見つけてくれないのかな。

「レイの声、聞きたいな」

電話。

しちゃおうかな。

壁に背中を預けたまま。

電話を手に取って。

プルル、プルル、プルル……

電話、出ないな。

プルル、プルル、プルル……

『もしもし』

「もしもし、レイ……」

えへへ。

電話、出てくれた。

「なんか、風邪ひいちゃって」

でも、レイの声聞けたから。

『それは、お見舞い要請?』

心配してるより、あきれてる感じ。

「この雪だから、そうじゃないんだけど。声、聞きたかっただけ」

だって、来て?なんて言ったら、レイ、来ちゃうし。

来たらきっと、帰れないから。

そうしたら、二人っきりになれて、いいな。

『雪かき終わって、出られるようになったら向かうから。だけど、何時になっても文句言うなよ』

そういうとレイは、ブツッと電話を切って。

「レイ?そういうことじゃ、ないんだよ」

なんて。

切れた電話に行ってもね。

来てくれるのはうれしいな。

でも、寒いな。

「もう一回、お風呂、入ろうかな」

手を伸ばしたら、ちょうど壁のパネル。

ピッと、スイッチを入れて。

何分くらいかな。

10分あれば、お風呂湧くかな。

10分なら、少し眠れるかな。

フトン、戻ろうかな。

ごそごそと、這うようにして。

とりあえず、フトンに戻って。

「はぁ」

寒い。

頭痛い。

風邪かなぁ。

眠れば、治るよね。

あ、でも、やっぱりお風呂入りたい。



うつらうつら。

夢を見ていた。

ガチャッと、ドアが開いて。

誰かが入ってきて。

何か、話をされた気がしたけど。

よく覚えてない。

その後。

電話で話をした気がする。

何か、悲しい話だった気がする。

叱った気もする。

電話が切れた後は。

少しだけ、笑った気がした。



目を覚ましたのは、夜。

「あれ、今、何時」

カーテンの向こうはもう暗くなって。

枕元の時計は、午後8時。

「いけない、仕事……」

「仕事なら、休みの電話、入れた」

ベッドサイドで。

「あれ、レイ。何でいるの?」

「なんで、じゃない。まったく。熱出過ぎ」

そう言って、おでこを叩かれた。

ふにっとした感触。

「あれ。どうしたんだろ」

冷えピタ?

貼った覚え、無いな。

「どうしたんだろ、じゃないよ。風呂の中で行き倒れてて。電話しても出ないし。インターホン押しても何も言わないし。合鍵、持っててよかったって思ったことは、今日ほど無いよ」

そう言って、ポケットから鍵を出してくるくる回す。

え、お風呂?じゃぁ。

「風呂の中から抱えだして、ベッドまで運んで。服も着せて。重かった」

確かに、今日の昼間とは違う服。

「重かった、なんて、失礼」

「普段は。しがみついてくれるから重くないんだよ。しがみついてくれなきゃ、運べないんだから」

しがみついて、なんて。

ばかレイ。

「じゃぁ。お風呂に入ったってことは」

そしたら、服を着てなかったってことだから。

「そこは、緊急事態だってことで、気にしない。その辺は、元気になった時にまた今度、続きで」

なんだ。

なんだじゃないな。

「そか。レイ、ありがと」

何か、モヤモヤするけど。

「いいえ。マシロが風邪ひいたから休むって言ったら、マスターもよろしくって言ってたよ」

は?

「マスターも、よろしくって、あぁ、そうか。レイが、電話してくれたんだ」

今日仕事だって、レイに言ってたっけかな。

でも、なんでレイが電話して、それでO.K.なんだろう。

「あのマスター、話分かるじゃないか?」

違うと思う。

きっと、面白がってるだけだと思う。

「さて。ところで、今日はこのまま泊まっていってもいいかな」

そういうと、レイもおもむろに服を脱ぎだして。

「ちょ、レイ、何してんの」

「何って。風呂ぐらい貸してよ」

あぁ、そうか。

そうかじゃない。

「寝てなよ。とりあえず。何か食べたかったら、あーんしてあげるからさ」

ばか。

「じゃ、ゼリー食べたい」

「知ってる。買ってきてあるよ」

「あーんしてくれる?」

「この格好で?」

「お風呂、上がってからでいいよ」

「ん。じゃ、ちょっと待ってて」

そう言って、バスルームに消えていくレイ。

流れる水の音。

まだぼーっとするけど、さっきよりはましになった頭。

どうしようかな。

ベッドから起き上がって。

おもむろに、服を脱いで。

ドアを開けて。

「ねぇ、レイ」

来てくれたのが、とてもうれしいから。

「ん」

少しでも、一緒にいたいから。

「一緒に、入っていい」

少しでも、触れていたいから。

ありがとうございました。

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