マシロの場合.4
「今日、これから会えない?」
なんか今日は、傍にいたい気分。。
『残念。会いたいけど、今日はこの雪じゃお休みだ。また今度』
「なんだ」
でも、レイならきっとそういうと思ってた。
『今度会った時、今日の分もね』
またそんなこと言う。
何にもできないくせに。
「わかった。約束だよ」
絶対だから。
『オーケー。じゃ』
ブツッ、ツー、ツー、ツー。
「恥ずかしがって、手だって外だつなげないくせに」
なのに、今度会った時、なんて。
「レイこそ。今度、どこで何をする気なの」
今度会ったら、はっきり聞いてみよう。
何考えてたの、って。
☆
ようやっと、フトンから起き出したのが午前10時。
カーテンを開けると、外はまだ絶賛雪の中。
隣の部屋の人は、車で出かけたみたいだけど、この雪じゃ、帰ってこないだろうな。
だって、車のわだちが隠れるくらいに雪が降り積もってる。
「こんな中、外に出るのなんて、バカバカしいな」
カーテンを閉めて。
「なんか、喉いたい。乾いたかな」
キッチンまで、少しの距離。
床の冷たさが、足の裏を通してじんわりと伝わってきて、この部屋って、こんなに冷たかったんだな、って。
少し、寒い。
「おかしいな。暖房、あれ、つけっぱなしな筈なのに」
エアコンは元気に風を吐き出して、今も動いてますよ、って自己主張してる。
床の冷たさが、かえって心地いいくらいに体を冷やしてくるのがわかって。
あれ。
「少し、ふらふらするかも」
蛇口から、コップに水を一杯汲んで、飲み込むのも一苦労。
なんか、少し熱っぽいかな。
昨日、雪の中歩いたからかな。
帰ってきてすぐに、お風呂に入ったのにな。
すぐでもないか。
「体、冷えたかな」
おフトン、戻ろうかな。
おフトン、遠いな。
「床、気持ちいいな」
このままじゃ、ダメかな。
「なんか、眠くなってきちゃった」
少し、ここで寝ようかな。
☆
壁にもたれてうとうとしていたら、時間が経つのが早くて。
今、もう午後1時。
「そろそろ、準備しなきゃ、いけないんだけど」
午前中よりも体がぐったりしてしまって、言うことを聞いてくれない。
「なんか、まずいなぁ」
こんな時、誰もいないって、やだな。
一人で、倒れてたりしたら、誰も見つけてくれないのかな。
「レイの声、聞きたいな」
電話。
しちゃおうかな。
壁に背中を預けたまま。
電話を手に取って。
プルル、プルル、プルル……
電話、出ないな。
プルル、プルル、プルル……
『もしもし』
「もしもし、レイ……」
えへへ。
電話、出てくれた。
「なんか、風邪ひいちゃって」
でも、レイの声聞けたから。
『それは、お見舞い要請?』
心配してるより、あきれてる感じ。
「この雪だから、そうじゃないんだけど。声、聞きたかっただけ」
だって、来て?なんて言ったら、レイ、来ちゃうし。
来たらきっと、帰れないから。
そうしたら、二人っきりになれて、いいな。
『雪かき終わって、出られるようになったら向かうから。だけど、何時になっても文句言うなよ』
そういうとレイは、ブツッと電話を切って。
「レイ?そういうことじゃ、ないんだよ」
なんて。
切れた電話に行ってもね。
来てくれるのはうれしいな。
でも、寒いな。
「もう一回、お風呂、入ろうかな」
手を伸ばしたら、ちょうど壁のパネル。
ピッと、スイッチを入れて。
何分くらいかな。
10分あれば、お風呂湧くかな。
10分なら、少し眠れるかな。
フトン、戻ろうかな。
ごそごそと、這うようにして。
とりあえず、フトンに戻って。
「はぁ」
寒い。
頭痛い。
風邪かなぁ。
眠れば、治るよね。
あ、でも、やっぱりお風呂入りたい。
☆
うつらうつら。
夢を見ていた。
ガチャッと、ドアが開いて。
誰かが入ってきて。
何か、話をされた気がしたけど。
よく覚えてない。
その後。
電話で話をした気がする。
何か、悲しい話だった気がする。
叱った気もする。
電話が切れた後は。
少しだけ、笑った気がした。
☆
目を覚ましたのは、夜。
「あれ、今、何時」
カーテンの向こうはもう暗くなって。
枕元の時計は、午後8時。
「いけない、仕事……」
「仕事なら、休みの電話、入れた」
ベッドサイドで。
「あれ、レイ。何でいるの?」
「なんで、じゃない。まったく。熱出過ぎ」
そう言って、おでこを叩かれた。
ふにっとした感触。
「あれ。どうしたんだろ」
冷えピタ?
貼った覚え、無いな。
「どうしたんだろ、じゃないよ。風呂の中で行き倒れてて。電話しても出ないし。インターホン押しても何も言わないし。合鍵、持っててよかったって思ったことは、今日ほど無いよ」
そう言って、ポケットから鍵を出してくるくる回す。
え、お風呂?じゃぁ。
「風呂の中から抱えだして、ベッドまで運んで。服も着せて。重かった」
確かに、今日の昼間とは違う服。
「重かった、なんて、失礼」
「普段は。しがみついてくれるから重くないんだよ。しがみついてくれなきゃ、運べないんだから」
しがみついて、なんて。
ばかレイ。
「じゃぁ。お風呂に入ったってことは」
そしたら、服を着てなかったってことだから。
「そこは、緊急事態だってことで、気にしない。その辺は、元気になった時にまた今度、続きで」
なんだ。
なんだじゃないな。
「そか。レイ、ありがと」
何か、モヤモヤするけど。
「いいえ。マシロが風邪ひいたから休むって言ったら、マスターもよろしくって言ってたよ」
は?
「マスターも、よろしくって、あぁ、そうか。レイが、電話してくれたんだ」
今日仕事だって、レイに言ってたっけかな。
でも、なんでレイが電話して、それでO.K.なんだろう。
「あのマスター、話分かるじゃないか?」
違うと思う。
きっと、面白がってるだけだと思う。
「さて。ところで、今日はこのまま泊まっていってもいいかな」
そういうと、レイもおもむろに服を脱ぎだして。
「ちょ、レイ、何してんの」
「何って。風呂ぐらい貸してよ」
あぁ、そうか。
そうかじゃない。
「寝てなよ。とりあえず。何か食べたかったら、あーんしてあげるからさ」
ばか。
「じゃ、ゼリー食べたい」
「知ってる。買ってきてあるよ」
「あーんしてくれる?」
「この格好で?」
「お風呂、上がってからでいいよ」
「ん。じゃ、ちょっと待ってて」
そう言って、バスルームに消えていくレイ。
流れる水の音。
まだぼーっとするけど、さっきよりはましになった頭。
どうしようかな。
ベッドから起き上がって。
おもむろに、服を脱いで。
ドアを開けて。
「ねぇ、レイ」
来てくれたのが、とてもうれしいから。
「ん」
少しでも、一緒にいたいから。
「一緒に、入っていい」
少しでも、触れていたいから。
ありがとうございました。




