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アキラの場合.4

「……あの、何だよ。まさか、俺のこと」

『ごめん、それ以上、言わないで。後で、また、ちゃんと、説明、するから』

ブツッ、ツー、ツー、ツー、ツー……



ガタガタ。

揺れる窓ガラスで、ハッと気が付いた。

時刻は午後6時。

窓の向こう側は真っ暗で、電気をつけていない部屋も、同じくらい真っ暗。

BGMに流していたラジオはいつの間にかニュースになって。

今日の大雪の事を、ああだこうだ言っている。

「そんな、雪とか、どうでもいいよ」

俺の、飛んだ時間を返してくれよ。

「あいつ、結局何したいんだ」

俺は、一体どうしたいんだ。

手が痛くて。

まだ、携帯を握り締めたままだったということにようやく気が付いて。

しっとりと、手の汗で濡れた画面。

そうじゃなくて。

俺が好きなのは。

プルル、プルル、プルル……

『もしもし』

少し、くぐもった声。

「もしもし、マシロさん?俺です、アキラです」

何を、決心したのか。

自然と動いた指が、電話帳から呼び出して、発信までを、スムーズに、勝手にやって。

『あ、アキラ、どうしたの急に』

「あの、俺、マシロさんにちゃんと話、聞いてほしくて」

『話?』

「この間言おうとしていたこと。マシロさんに言えなかったから。だから、きちんと言わなきゃって』

『この間の話。先週、言いかけてた事?』

「そうです。俺、マシロさんのこと、好きです」

言っちゃった。

『……アキラ、それ、本気で行ってる?』

「マシロさん、俺、本気です。前から、マシロさんのこと好きでした」

少し、電話の向こうで。

ごそごそっと、動く音がして。

『アキラ、ごめん、それは無理』

その声は、俺が思っている以上に、冷たかった。

「なんで、ですか」

声が、振るえる。

『アキラ。それはね、好きなんじゃないよ。憧れとか、そういう名前のものだよ。それを混ぜちゃいけない』

「憧れ……」

『アキラが、好きって言ってくれたのは素直に嬉しい。そういう気持ちも、大切だと思う。当然、通る道だと思う。でもね」

マシロさんは、そこで言葉を区切り。

『憧れや、背伸びでは、好きは続かない。それは、少しの間だけの事だよ』

「背伸び、背伸びじゃないです、だって俺は」

『だったら。だったら聞くけど。どこが好きなのって、はっきり言えちゃうんじゃないの、アキラは』

どこが好き?

そんなの、決まってる。

面倒見がいい事とか。

仕事ができることとか。

それから……

『今、いろいろ、考えて、上げてみたでしょう。それは、いいな、っていう。憧れ』

マシロさんの言葉が。

「だって、好きってことは」

『好きってことは、もっと、モヤモヤってしたものだよ。ピンポイントで、ここが好き、なんて。それじゃぁ、そのピンポイントがあった人は、みんな好き?違うよ。それは、憧れいるだけ』

何も、言葉が出ない。

『きっと、今日の電話だって。何か、焦ることがあったんでしょう。そんな思い付きで、告白しようなんて。みっともないよ。格好悪いよ』

どんどん、言葉が当たってくる。

『受け止めたくないことが、あるんでしょう?今日か、明日か知らないけど。それの逃げる口実に、使われたとしたら』

したら。

『アキラ。あんた、最低だよ』

グサッという効果音でもなく。

ぐりっという抉りとるような。

アイスをこそぐ、ぎざぎざのスプーンでザクザクされるような。

「マシロさん、俺……」

『今度、シフト一緒の日に。それの結果を聞かせて。話はその後。じゃ』

ブツッ。

そうして、電話が切れた。

俺。

「俺、何をしたんだ」

あんなに、怒ったマシロさんの声。

怒っているのかな。

冷たい、マシロさんの声。

初めて、聞いた。

逃げてるのか。

逃げてるのか?

俺。

焦ってるのか。

慌ててるのか。

どうして。

知りたくないから。

言われたくないから。

あいつのこと、今までと、同じに見えなくなるから。

今までと?

今まで。

俺は。

あいつの事を。

「あいつの事。どう思ってたんだ」

学校で、前の席と、後ろの席で。

良く、話をして。

大体、一緒にいて。

つるんで。

部活も一緒で。

帰りも一緒で。

昼飯も、一緒に食べて。

互いに、電話とか、メールとかして。

それって。

フツウ?

どんな気持ちだった?

俺は。

あいつの事が。

この間から。

気になって、気になって、気になって。

あいつが、誰かと歩いているのを見て。

それが。

嫌で嫌で嫌で嫌で。

しょうがなくて。

あいつを。

誰にもとられたくなくて。

でもそれって。

あいつがいなくなるとかじゃなくて。

あいつが、俺のものになってほしいからで。

じゃぁ。

俺は。

あいつの事が。

「おれは、あいつの事が」



次の日の昼休み。

「まず、昨日はごめん」

誰もいない、後者の三階で。

「ごめんって、どれ」

「ほら、携帯にさ。何回も電話したから。気持ち悪いとか、さ。だから、ごめん」

違う。

言いたいことは、そこじゃなくて。

「別に、気にしてないよ。アキラが、珍しい、くらい思ったけど」

気にしてなかったんなら、それはそれでいいけれど。

少し、なぜかホッとして。

「オーケー。じゃ、今度は僕の番だね」

手を、ぎゅっと握ったのが見えて。

深く、深く。

落ち着け、落ち着けって、言わなくても、思っているのがわかるくらいに深呼吸して。

「息、吸い過ぎじゃね?」

そう言いながら。

俺も、合わせて、深呼吸をして。

「あぁ、もう。なんでそんな突っ込みいれるのさ。こっちは真面目に話しようとしてるのに。ばか」

ムスッとした顔。

あぁ。

マシロさん。

どこが、って、言えちゃうけれど。

俺、この顔を。

間近で、見るのが好きだ。

「わかったわかった。で、言いたいことって。つまり、俺の事が好きだって、言いたいんだろ」

決心したよ。

「あ、あの、だから、だから何で先に言っちゃうのさ。その為に、どれだけ眠れない日々を過ごしていたと思っているのさ」

パタパタと、手を振って。

「そう、そうだよ。アキラの事が好きなんだよ、どうしようもなく、気になるんだよ。だから、そう」

また、手をぎゅっと握って。

「そう?」

今までで、一番ないくらいに。

近くで、顔を、見てみたくなった。

「だから、アキラの事が。アキラの事が、好き」

言われた瞬間。

ぐっと。

視界一杯に。

顔が近づいて。

唇と。

唇が。

触れて。

静かに。

目を閉じて。

少しだけ。

下がって。

真っ赤な顔。

が。

もう一度、目に入って。

「言ったよ。僕は、言ったよ。返事、聞かせてよ」

小さな声。

「返事?」

「そうだよ、返事。アキラの返事。二人っきりになりたいって、言ったの、アキラじゃないか」

だから、返事、ちょうだいよ、なんて。

「返事は」

ため息をついて。

右を見て。

左を見て。

唇をかみしめて。

顔をあげると。

今にも泣き出しそうな顔が目に入って。

あぁ。

「……ずりーよな、そういうのって」

握っている手を。

ギュッと、その上から握って。

驚いた方を。

もう片方の手で引き寄せて。

お互いの体を、衝撃が通り抜けて。

「まだ、返事は、必要か?」

ありがとうございました。

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