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僕の場合.4

なんで、こんなこと言ったんだろう。

あぁ、アキラが、気になっていた、なんて、そんな魔法の言葉を言ったからだ。

『気付いてたって、何に?』

なのに、まだこんなことを言うんだ。

「とぼけないでよ。だって、気付いたんでしょ。だったら、気付いてよ」

『だから、何に気付けばいいんだよ』

「……僕の、気持ち……」

……言っちゃった。

『何だよ、僕の気持ちって』

電話の向こうで、アキラが動揺するのがわかる。

「僕が、アキラを見て、アキラを、見たんだよ。アキラを、見てたんだよ。だから、その、あの……」

だから、アキラがね。

アキラの事が、好きになったんだよ、って。

『……あの、何だよ。まさか、俺のこと』

はっきり言えよ、って。

わかってる。

きっと。

でも、今日は、やっぱり言えない。

「ごめん、それ以上、言わないで。後で、また、ちゃんと、説明、するから」

うん、後で。

ブツッと電話を切って。

「後で、説明するから」

自分を、追い詰めたみたいな言葉。



「俺、ちょっと出てくる」

ドアの向こうから、レイの声。

「は?」

「だから、ちょっと出てくるって」

そう言ってレイは、どったどったと階段を下りると、そそくさと出ていった。

次いで、車の音。

雪道を走るとは思えない、タイヤの音。

「何だよ、ちょっとって」

窓の外から、車の走り去った方を眺める。

なんか、怪しい。

雪が小降りになったって、どこ行くんだろ。

「誰か、会いに行くのかな」

なんか、レイ、ずるいな。

大人って、ずるいな。

「いいな、レイは。会いたい時に、会いたい人に、会いに行けて」

大声で、部屋の中で叫んでみても、どうしようもない。

「僕なんて、会いたいって言っても、会いに行けないのにな」

わかってる。

そんな勇気なんか、今日はまだない。

意気地なし。

「あーあ」

ベッドにジャンプ。

背面ロール。

「アキラに、会いたいな」

そのまま、抱き枕をぎゅっとして。

アキラに会って……

「アキラに会って?」

そうだよ、アキラに会うんだよ。

会わなきゃならないんだよ。

もやもやを、もやもやのまま。

あーあ。

「ばーか。ばーかばーかばーかばーか」

ばーかだー。

「会ったら、今度は、好きだって言わなきゃいけないのに」

早ければ、明日には言わなきゃいけないのに。

こんな、気持ちの中に小さな小さな種が落ちて。

何かの花が咲いてしまって。

それに、養分をどんどん吸い取られていくみたい。

「なんか、眠くなってきた」

少し、眠ろう。

眠れば、少しは元気が出てきて。

明日なんて、恐くなくなる。

よね。



ピリリ、ピリリ、ピリリ……

まるで、夢から覚めなさいって発車のベルが鳴っているみたい。

「うるさいなぁ」

ピリリ、ピリリ、ピリリ……

もうすぐドアが閉まりますって、車掌さんが叫んでいる感じ。

「留守ですよー、だ」

ピ。

「あ」

ベッドサイドに置いた携帯が、ようやく止まって。

薄暗い部屋に、ブルーのLEDが灯る。

「着信、誰だろ」

フトンから手を伸ばして画面を見ると。

「レイからだ……」

電話、かけ直そうかな。

いっか。

「めんどくさい」

めんどくさい。

寝たのに、時間が間違いなく過ぎていって。

さっきと同じで、少し気持ちは楽になったけど、吸い取られた養分はまだまだ足りてない感じ。

何か、する?

「何か、って、何を」

一人で、クスッと笑う。

「おかしい」

笑える。

誰かのことを考えるって、幸せだな。

こんなこと、なかったな。

体がだるいのに、なんだか少し、幸せな気分。

「はしゃぎすぎたかな」

それは、レイとの雪遊びで。

お遊戯みたいで。

楽しかったけど。

きっと、アキラへの気持ちとは違うんだな。

抱きしめられたのはうれしいけど、欲しいのは、そうじゃないんだな。

「アキラが、いいな」

言って、顔が熱くなる。

バカだな。

ほんと。



朝になっても、レイは帰ってこなかった。

「どこに行ったんだろう、レイは」

携帯も音信不通。

何かあったら、連絡がきっとあるだろうから、そこは心配していないんだけど。

一人でシャワーを浴びて。

朝食を済ませて、学校へ。

昨日降った雪はまだまだ残っているけど、電車は普通に動き始めて。

いつものように、学校へ到着。

「おっはよ」

「あれ、おはよ。今日はなんだか元気ね」

「そかな。えへへ、そかな」

昇降口で、そんな朝のアイサツ。

「おーす」

後ろから声がかかる。

「あ、アキラ。おはよ」

まるでゼンマイ仕掛けのように、ギクシャクとした動きで振り返る。

「おー。今日も朝から元気だなぁ、なぁ?」

訳の分からない言葉と共に、頭をもう、ぐわしぐわしと撫でまわされる。

「あ、ちょ、止め、せっかく洗ってきたのに」

目が回る思いをしながら。

でも、なんか、幸せ。

「昨日の話なんだけどな」

すっと。

撫でまわす手を止めたかと思うと。

「え?」

乱れた髪を抑えて。

「今日の、昼でいい?話、聞くのさ」

あー。

「うん」

おとなしく、頷く。

「わかった。じゃ、それまでに、心の整理、つけとくからさ」

そう言って、すたすたと歩いていってしまった。

何さ、心の整理って。

「なんか、ヨユーじゃん」

なんだ、その余裕。

悔しいなぁ。

悔しいなぁ。

悔しいなぁ。

……

なんて思っていたら。

「もう、昼だぞ」

時間の過ぎるのは、早い。



「まず、昨日はごめん」

アキラが、二人っきりで話をしたいからって。

昼休み。

普段は誰もいない校舎の三階へ。

「ごめんって、どれ」

いきなりの事なので、かえって話が分からない。

「ほら、携帯にさ。何回も電話したから。気持ち悪いとか、さ。だから、ごめん」

なんだ、そんなことか。

「別に、気にしてないよ。アキラが、珍しい、くらい思ったけど」

その言葉を聞いて、少しホッとした感じ。

「オーケー。じゃ、今度は僕の番だね」

そう言って、深呼吸。

息を、吸って、吸って、吸って、吐いて。

吸って、吸って、吸って、吐いて。

「息、吸い過ぎじゃね?」

「あぁ、もう。なんでそんな突っ込みいれるのさ。こっちは真面目に話しようとしてるのに。ばか」

ほんと、空気読まないんだから。

「わかったわかった。で、言いたいことって。つまり、俺の事が好きだって、言いたいんだろ」

あわわ。

アキラの口から。

言われちゃった。

「あ、あの、だから、だから何で先に言っちゃうのさ。その為に、どれだけ眠れない日々を過ごしていたと思っているのさ」

深呼吸したのが、バカみたい。

「そう、そうだよ。アキラの事が好きなんだよ、どうしようもなく、気になるんだよ。だから、そう」

「そう?」

言って、アキラが顔を覗き込む。

だから。

「だから、アキラの事が。アキラの事が、好き」

ありがとうございました。

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