僕の場合.4
なんで、こんなこと言ったんだろう。
あぁ、アキラが、気になっていた、なんて、そんな魔法の言葉を言ったからだ。
『気付いてたって、何に?』
なのに、まだこんなことを言うんだ。
「とぼけないでよ。だって、気付いたんでしょ。だったら、気付いてよ」
『だから、何に気付けばいいんだよ』
「……僕の、気持ち……」
……言っちゃった。
『何だよ、僕の気持ちって』
電話の向こうで、アキラが動揺するのがわかる。
「僕が、アキラを見て、アキラを、見たんだよ。アキラを、見てたんだよ。だから、その、あの……」
だから、アキラがね。
アキラの事が、好きになったんだよ、って。
『……あの、何だよ。まさか、俺のこと』
はっきり言えよ、って。
わかってる。
きっと。
でも、今日は、やっぱり言えない。
「ごめん、それ以上、言わないで。後で、また、ちゃんと、説明、するから」
うん、後で。
ブツッと電話を切って。
「後で、説明するから」
自分を、追い詰めたみたいな言葉。
☆
「俺、ちょっと出てくる」
ドアの向こうから、レイの声。
「は?」
「だから、ちょっと出てくるって」
そう言ってレイは、どったどったと階段を下りると、そそくさと出ていった。
次いで、車の音。
雪道を走るとは思えない、タイヤの音。
「何だよ、ちょっとって」
窓の外から、車の走り去った方を眺める。
なんか、怪しい。
雪が小降りになったって、どこ行くんだろ。
「誰か、会いに行くのかな」
なんか、レイ、ずるいな。
大人って、ずるいな。
「いいな、レイは。会いたい時に、会いたい人に、会いに行けて」
大声で、部屋の中で叫んでみても、どうしようもない。
「僕なんて、会いたいって言っても、会いに行けないのにな」
わかってる。
そんな勇気なんか、今日はまだない。
意気地なし。
「あーあ」
ベッドにジャンプ。
背面ロール。
「アキラに、会いたいな」
そのまま、抱き枕をぎゅっとして。
アキラに会って……
「アキラに会って?」
そうだよ、アキラに会うんだよ。
会わなきゃならないんだよ。
もやもやを、もやもやのまま。
あーあ。
「ばーか。ばーかばーかばーかばーか」
ばーかだー。
「会ったら、今度は、好きだって言わなきゃいけないのに」
早ければ、明日には言わなきゃいけないのに。
こんな、気持ちの中に小さな小さな種が落ちて。
何かの花が咲いてしまって。
それに、養分をどんどん吸い取られていくみたい。
「なんか、眠くなってきた」
少し、眠ろう。
眠れば、少しは元気が出てきて。
明日なんて、恐くなくなる。
よね。
☆
ピリリ、ピリリ、ピリリ……
まるで、夢から覚めなさいって発車のベルが鳴っているみたい。
「うるさいなぁ」
ピリリ、ピリリ、ピリリ……
もうすぐドアが閉まりますって、車掌さんが叫んでいる感じ。
「留守ですよー、だ」
ピ。
「あ」
ベッドサイドに置いた携帯が、ようやく止まって。
薄暗い部屋に、ブルーのLEDが灯る。
「着信、誰だろ」
フトンから手を伸ばして画面を見ると。
「レイからだ……」
電話、かけ直そうかな。
いっか。
「めんどくさい」
めんどくさい。
寝たのに、時間が間違いなく過ぎていって。
さっきと同じで、少し気持ちは楽になったけど、吸い取られた養分はまだまだ足りてない感じ。
何か、する?
「何か、って、何を」
一人で、クスッと笑う。
「おかしい」
笑える。
誰かのことを考えるって、幸せだな。
こんなこと、なかったな。
体がだるいのに、なんだか少し、幸せな気分。
「はしゃぎすぎたかな」
それは、レイとの雪遊びで。
お遊戯みたいで。
楽しかったけど。
きっと、アキラへの気持ちとは違うんだな。
抱きしめられたのはうれしいけど、欲しいのは、そうじゃないんだな。
「アキラが、いいな」
言って、顔が熱くなる。
バカだな。
ほんと。
☆
朝になっても、レイは帰ってこなかった。
「どこに行ったんだろう、レイは」
携帯も音信不通。
何かあったら、連絡がきっとあるだろうから、そこは心配していないんだけど。
一人でシャワーを浴びて。
朝食を済ませて、学校へ。
昨日降った雪はまだまだ残っているけど、電車は普通に動き始めて。
いつものように、学校へ到着。
「おっはよ」
「あれ、おはよ。今日はなんだか元気ね」
「そかな。えへへ、そかな」
昇降口で、そんな朝のアイサツ。
「おーす」
後ろから声がかかる。
「あ、アキラ。おはよ」
まるでゼンマイ仕掛けのように、ギクシャクとした動きで振り返る。
「おー。今日も朝から元気だなぁ、なぁ?」
訳の分からない言葉と共に、頭をもう、ぐわしぐわしと撫でまわされる。
「あ、ちょ、止め、せっかく洗ってきたのに」
目が回る思いをしながら。
でも、なんか、幸せ。
「昨日の話なんだけどな」
すっと。
撫でまわす手を止めたかと思うと。
「え?」
乱れた髪を抑えて。
「今日の、昼でいい?話、聞くのさ」
あー。
「うん」
おとなしく、頷く。
「わかった。じゃ、それまでに、心の整理、つけとくからさ」
そう言って、すたすたと歩いていってしまった。
何さ、心の整理って。
「なんか、ヨユーじゃん」
なんだ、その余裕。
悔しいなぁ。
悔しいなぁ。
悔しいなぁ。
……
なんて思っていたら。
「もう、昼だぞ」
時間の過ぎるのは、早い。
☆
「まず、昨日はごめん」
アキラが、二人っきりで話をしたいからって。
昼休み。
普段は誰もいない校舎の三階へ。
「ごめんって、どれ」
いきなりの事なので、かえって話が分からない。
「ほら、携帯にさ。何回も電話したから。気持ち悪いとか、さ。だから、ごめん」
なんだ、そんなことか。
「別に、気にしてないよ。アキラが、珍しい、くらい思ったけど」
その言葉を聞いて、少しホッとした感じ。
「オーケー。じゃ、今度は僕の番だね」
そう言って、深呼吸。
息を、吸って、吸って、吸って、吐いて。
吸って、吸って、吸って、吐いて。
「息、吸い過ぎじゃね?」
「あぁ、もう。なんでそんな突っ込みいれるのさ。こっちは真面目に話しようとしてるのに。ばか」
ほんと、空気読まないんだから。
「わかったわかった。で、言いたいことって。つまり、俺の事が好きだって、言いたいんだろ」
あわわ。
アキラの口から。
言われちゃった。
「あ、あの、だから、だから何で先に言っちゃうのさ。その為に、どれだけ眠れない日々を過ごしていたと思っているのさ」
深呼吸したのが、バカみたい。
「そう、そうだよ。アキラの事が好きなんだよ、どうしようもなく、気になるんだよ。だから、そう」
「そう?」
言って、アキラが顔を覗き込む。
だから。
「だから、アキラの事が。アキラの事が、好き」
ありがとうございました。




