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マシロの場合.3

さっきの電話を、思い出して。

『電車が来るね?じゃぁ、また今度だね。大好きだよ、マシロ』

一体。

どんな気持ちで、そんなこと言ったんだろう。

「……バカ……」

揺れるつり革が、まるで催眠術のように。

ふらふら、ふらふら。

「遊びのつもり、だったのにな」

なんか、そうもいかなくなっちゃった。

「何、本気にしてるんだか」

レイだって。

「そう、レイだって。保護者とか言ってたけど」

その割には、なんか不思議な関係にしか見えないし。

大体。

「はぁ。つまんないな」

ガラスに映る自分の顔も。

「なんか、つまんない」

明日は、晴れると良いな。

そうしたら、レイに会えるかな。



降りるのも、いつもの駅。

ふらふらと。

雪に、足を取られながら歩くのも、いつもの道。

うっすら明るく。

玄関先の街灯に照らされて帰るのも、いつもの家。

ただ冷たく。

誰もいないのも、いつもの事。

ガチャッと。

今日も鍵の音が空の部屋に響く。

「ただいま」

ただいまも、いつも。

電気をつけて。

靴を脱いで、濡れた靴下を脱いで。

重くなった上着と、ズボンを洗濯機に投げ捨てて。

寒いな。

「誰か、お風呂、沸かしてくれないかな」

そんなことを思うのは、最近になってから。

シャツのまま、ベッドに倒れこんで。

一人の部屋を、寂しく感じるようになってのは。

枕元のエアコンのスイッチを入れて。

レイを、知ってから。

TVのリモコンは、テーブルの上で、静かな部屋はにぎやかにならない。

「ほら、しゃんとしなさい」

どうしてもだるい体を転がして。

ベッドから起き上がって。

携帯だけ残して。

空いたドア。

冷たく濡れたバスルームの向こう。

鏡に映った元気のない顔。

「レイに、会いたいな」

頬を伝う、涙が一筋。

「あれ、なんだろ。やだな、こんな、涙なんて」

ぽたぽたと、床に落ちて。

「やだな、まただ」

そんなに、気にしてたんだって、自分でもびっくり。

体が、ブルッて震えて。

「寒いな」

誰か。



エアコンの音で目が覚めた。

「あれ、寝ちゃってたんだ」

いけないと思いつつ、行き倒れるのも最近よくあることで。

「なんか、頭がぼーっとする」

時刻は午前4時。

「寒い」

体が、とっても冷えてしまって。

「お風呂」

壁のスイッチを押して、湯船にお湯をためる。

少し。

「レイが、好きだって言ってくれた」

なのに。

「アキラも」

はっきりと言おうとするところを、からかって聞いていないけど。

「じゃぁ」

誰が、好きなのって聞かれたとしたら。

「……」

誰だって、答えよう。

「今まで、そんなに、真面目に相手してなかったな」

何人もいたけれど、続かなかったというか、はっきりしなかったというか。

むしろ、何人も同時進行ばっかり。

いいなって思ったら、大体向こうから声かけてきてくれて。

もしかしたら、自分から声をかけたことなんて、殆どなくて。

じゃぁ、誰かを好きになった事なんて、無いのかもしれないなんて。

「もしかしてそしたら、レイとの関係が、初恋?」

あ、それって、とっても笑えるかも。

でも。

「こんなにドキドキしたのは、初めてかも」

こんなに、気になったのは、初めてかも。

ピーピーと、お湯がたまったアラームが鳴って。

「お風呂、はいろ」

着替えを出して。

服を、全部洗濯機に入れて。

迷惑かな、と思ったけど、そのまま洗濯機を回して。

湯気で煙っているバスルームへ。

頭を洗って。

体を洗って。

湯船に浸かって。

「ふぅ」

半透明な、お湯の向こう側の体。

「どこが、いいのかな」

でも、それって体が目当てじゃない?

なら、今までと一緒だよね。

「レイは、どうなんだろう」

好きだって、言ってくれてるのは。

体なのかな。

それとも、そうじゃないのかな。

「アキラは、きっと、違うよね」

そんな、どこが好きっていう、以前の問題。

「あんなふうに、あこがれた時期が、どっかにあったのかな」

どっか。

ずっと、ずっと前に?

覚えてないな。

少し、ゆっくりと入ろうかな。



ピーピーピー。

目覚まし時計の音。

「もう朝?さっき寝たばっかりなのに」

エアコンはまだつけっぱなし。

カーテンの向こう側はまだ少し暗くて。

「まだ、雪、降ってるのかな」

フトンから起き出す気も起きないから、外を確かめることはしない。

「朝ご飯。めんどくさい」

今日は、一日用事もないし。

仕事も、夕方からだし。

朝くらい、ご飯食べなくてもいいかな。

その分も。

もう少し、寝ていよう。

でも。

「レイの声、聞きたいな」

電話しても、いいかな。

少しなら、いいよね。

フトンを被って、電話。

プルル、プルル、プルル……

『もしもし』

「もしもし、レイ?」

『うん。おはよ。マシロん、どうしたの朝から。珍しい』

「なんかね、レイの声、聞きたくなって」

『朝から、嬉しいこと言ってくれるね。今日は一緒にいてほしいってこと?』

「そうじゃないんだけど」

そんな話をして。

「ねぇ、レイ」

顔が熱くなって。

『ん、なーに』

「あのね。レイ、大好き」

『うん。知ってる。初めて言われたかもだけど』

そっか。

「やっぱり、言ったことなかったんだ」

『こうやって、言われたことはないからうれしいよ。何かしてる時なら、言われたことあるけど』

もう。

「レイのバカ」

『はいはい、バカですよー』

なんだ。

なんか。

「レイ」

『ん?』

「ありがと」

ありがとうございました。

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