アキラの場合.3
なんだって。
今日は、ほんと最低最悪な日だ。
「マジ、ありえないし」
カーテンを開けた外は、深々と降る雪景色。
「こん中、学校行かなきゃなんねーのか」
あー。
だりー。
……とりあえず、着替えっか。
部屋でごそごそとやっていると。
コンコン。
「なにー?」
「今、学校から連絡あって、今日は休校だって」
「えー?」
「だから、今日は休校だってさ。まったく、ほんとひどい雪」
そう言いながら、ドアから離れていく足音。
そっか。
休校か。
「ま、会いたくねーって思ってたし。丁度いいな」
したら、どうすっかな。
「どうすっかな。なんもやる事ねーな」
勉強すっかな。せっかくだし。
それとも、プロット進める方が先か。
「まぁ、いいや。時間はあるし」
☆
流してたラジオの話だと、午後には雪が止むって言っていた。
なら、明日は普通に学校があるわけで。
「あー、結局、明日は会わなきゃなんないのか。かったるいな」
シャーペンをテーブルに置いて。
その脇にある携帯の画面を見る。
時刻は午後1時。
何も思いつかなくて、そのまま携帯をいじる。
ネットを見て。
メールを見て。
電話帳を見て。
「なんだって。こんなに、あいつの事が気になるんだ」
気が付いたらここんとこ、あいつの事ばっかり考えてる気がする。
「だから、先週から、あいつが変なのが悪いんだよ」
それに、昨日だって。
「誰だよ、あいつ、ほんとに」
思い出したら、また腹が立ってきた。
でも。
「なんで、俺が、腹立つんだ」
わからない。
でも、むしゃくしゃする。
「……何、してるかな」
電話番号を呼び出して。
発信ボタン。
プルル、プルル、プルル……
「出ないな。寝てんのかな」
一度、電話を切って。
「なんか、喉乾いたな」
お茶でも、飲むかな。
立ち上がって、台所へ。
家の中はひっそりとして、TVの音も流れていない。
「あれ、誰もいない。そっか。休みは俺だけか」
どおりで、家の中が静かだと思った。
一人分のお茶を入れて。
部屋に戻って。
まず、携帯を確認。
「かかってきて、るわけ、無いか」
なんで、こんな事してるんだろう。
そう思いながら、再び、発信ボタン。
プルル、プルル、プルル……
「電話に出たって、何話すればいいのさ、俺」
そして、また電話を切って。
お茶を飲んで。
また、発信。
「何やってんだか。バカだな」
そんな事を、繰り返して。
……
「トイレ」
バカみたい。
もう一度、再確認する誰もいない家の中は静かで。
「うー、さむっ。雪が降ってるからって寒さじゃないぞ」
うちのトイレ、一際寒い気がする。
なんでかな。
一人のトイレって、心細くなるな。
「ま、トイレって、一人か」
はははっ。
「……寒いなぁ……」
どうしてるかなぁ。
「どうしてるかなぁ」
もう一回だけ。
「もう一回だけ、電話してみるか」
机に戻って。
携帯を見て。
寒いのかな。
震える手で。
発信ボタン。
プルル、プルル……
「やっぱ、出ないか」
だよな。
切りボタンを、押そうとした時。
『も、もしもし……』
出た。
「あぁ、わり、俺だけど……」
『アキラ、どうしたの』
「えっと、その……」
なんか、全然、心の準備ができてない。
「ほら、今日さ。雪で、学校休みだから。暇、してるのかな、って、思ってさ」
『なんだ、そんなことか。アキラが電話なんかしてくるの、珍しいから、ドキドキしちゃった』
なんだ、ドキドキしちゃったって。
『今、雪の中お散歩してきたとこ』
ふぅん、楽しそうだな。
「一人で?」
『えっとね……』
少しの、間。
『今日はね、レイと、一緒に』
え……?
また……
「レイって、こないだ、一緒にいた」
「うん、そう。この間、一緒にいた人」
何だ、その、意味深発言。
「それって、そいつと、どういう関係」
ドサッと、屋根の雪が落ちて。
『えっとね。今、一緒に住んでる人』
なんだ、それ。
「一緒に住んでるって、付き合ってるとか、そういうこと?」
『そうじゃないんだけど、えっと、なんて言えばいいのかな』
「なんて言えばいいのかなって。だって、変だろ、そんなの」
おかしいだろ、そんなの。
『あのね。変な関係とかじゃなくってね、だからね、上手く説明できないんだけど、だからね、そう、保護者。保護者なの』
保護者ぁ?
「何だ、保護者って」
それって、なんか、パトロン的な?何か、見返り有りマス的な?
『そんな、やましい関係じゃないよ。きちんと、法律的にも、保護者、だよ』
なんだか、よくわかんないや。
「つまり、その、レイって人とは、付き合ってるとか、そんなんじゃなくて、でも、一緒に住む関係な人ってことか」
『なんで、そこ、こだわるのかな。そうだよ。付き合ってるとか、そういうのはないよ』
「そしたら、その、一緒に住んでても、その……」
『アキラ、何か、やらしい。そういうの、一切ないから』
なんだ、そっか。
「そっか。なんか、ホッとした。良かった」
よかった。
『よかったって、アキラ、もしかして、心配してくれたの?』
心配したっていうか。
「心配したっていうか、あれから、ずっと、気になっていただけだよ。あんなに仲、良さそうにしていてさ。なんか。悔しくて」
そういうと、電話の向こうでくすくすと笑い声が聞こえた。
『なんか、アキラ、おかしい。だって、何で僕の事なんか、心配になるのさ』
そうだな。
「なんでかな。そういうお前だって、なんか、こないだから、変じゃないか。なんか、じっと見てきたり、いきなり、俺の好物買ってきてみたり。おかしかったじゃないか」
『……やっぱり、アキラ、気付いてたんだ……』
なんだか、少し、暗い声。
「気付いてたって、何に?」
『とぼけないでよ。だって、気付いたんでしょ。だったら、気付いてよ』
「だから、何に気付けばいいんだよ」
『……僕の、気持ち……』
は?
「何だよ、僕の気持ちって」
少し、声が震える。
『僕が、アキラを見て、アキラを、見たんだよ。アキラを、見てたんだよ。だから、その、あの……』
電話の向こうで、消え入りそうな声。
「……あの、何だよ。まさか、俺のこと」
『ごめん、それ以上、言わないで。後で、また、ちゃんと、説明、するから』
ブツッ、ツー、ツー、ツー、ツー……
電話が切れた。
「何だよ、急に」
話、むちゃくちゃ途中だったのに。
「……まさか、俺のこと」
俺の事……
それ以上は、触れてはいけない気がして。
今更だけど。
考え始めたら、その答えを、止められそうにないくらい、考えてしまったけど。
「説明、するのか」
俺が、説明、されるのか。
まさかな。
まさか、あいつに限って、そんなわけないよな。
外を見ると、雪はもう止んで。
ラジオのBGMは、いつの間にか、番組が変わっていた。
ありがとうございました。




