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アキラの場合.3

なんだって。

今日は、ほんと最低最悪な日だ。

「マジ、ありえないし」

カーテンを開けた外は、深々と降る雪景色。

「こん中、学校行かなきゃなんねーのか」

あー。

だりー。

……とりあえず、着替えっか。

部屋でごそごそとやっていると。

コンコン。

「なにー?」

「今、学校から連絡あって、今日は休校だって」

「えー?」

「だから、今日は休校だってさ。まったく、ほんとひどい雪」

そう言いながら、ドアから離れていく足音。

そっか。

休校か。

「ま、会いたくねーって思ってたし。丁度いいな」

したら、どうすっかな。

「どうすっかな。なんもやる事ねーな」

勉強すっかな。せっかくだし。

それとも、プロット進める方が先か。

「まぁ、いいや。時間はあるし」



流してたラジオの話だと、午後には雪が止むって言っていた。

なら、明日は普通に学校があるわけで。

「あー、結局、明日は会わなきゃなんないのか。かったるいな」

シャーペンをテーブルに置いて。

その脇にある携帯の画面を見る。

時刻は午後1時。

何も思いつかなくて、そのまま携帯をいじる。

ネットを見て。

メールを見て。

電話帳を見て。

「なんだって。こんなに、あいつの事が気になるんだ」

気が付いたらここんとこ、あいつの事ばっかり考えてる気がする。

「だから、先週から、あいつが変なのが悪いんだよ」

それに、昨日だって。

「誰だよ、あいつ、ほんとに」

思い出したら、また腹が立ってきた。

でも。

「なんで、俺が、腹立つんだ」

わからない。

でも、むしゃくしゃする。

「……何、してるかな」

電話番号を呼び出して。

発信ボタン。

プルル、プルル、プルル……

「出ないな。寝てんのかな」

一度、電話を切って。

「なんか、喉乾いたな」

お茶でも、飲むかな。

立ち上がって、台所へ。

家の中はひっそりとして、TVの音も流れていない。

「あれ、誰もいない。そっか。休みは俺だけか」

どおりで、家の中が静かだと思った。

一人分のお茶を入れて。

部屋に戻って。

まず、携帯を確認。

「かかってきて、るわけ、無いか」

なんで、こんな事してるんだろう。

そう思いながら、再び、発信ボタン。

プルル、プルル、プルル……

「電話に出たって、何話すればいいのさ、俺」

そして、また電話を切って。

お茶を飲んで。

また、発信。

「何やってんだか。バカだな」

そんな事を、繰り返して。

……

「トイレ」

バカみたい。

もう一度、再確認する誰もいない家の中は静かで。

「うー、さむっ。雪が降ってるからって寒さじゃないぞ」

うちのトイレ、一際寒い気がする。

なんでかな。

一人のトイレって、心細くなるな。

「ま、トイレって、一人か」

はははっ。

「……寒いなぁ……」

どうしてるかなぁ。

「どうしてるかなぁ」

もう一回だけ。

「もう一回だけ、電話してみるか」

机に戻って。

携帯を見て。

寒いのかな。

震える手で。

発信ボタン。

プルル、プルル……

「やっぱ、出ないか」

だよな。

切りボタンを、押そうとした時。

『も、もしもし……』

出た。

「あぁ、わり、俺だけど……」

『アキラ、どうしたの』

「えっと、その……」

なんか、全然、心の準備ができてない。

「ほら、今日さ。雪で、学校休みだから。暇、してるのかな、って、思ってさ」

『なんだ、そんなことか。アキラが電話なんかしてくるの、珍しいから、ドキドキしちゃった』

なんだ、ドキドキしちゃったって。

『今、雪の中お散歩してきたとこ』

ふぅん、楽しそうだな。

「一人で?」

『えっとね……』

少しの、間。

『今日はね、レイと、一緒に』

え……?

また……

「レイって、こないだ、一緒にいた」

「うん、そう。この間、一緒にいた人」

何だ、その、意味深発言。

「それって、そいつと、どういう関係」

ドサッと、屋根の雪が落ちて。

『えっとね。今、一緒に住んでる人』

なんだ、それ。

「一緒に住んでるって、付き合ってるとか、そういうこと?」

『そうじゃないんだけど、えっと、なんて言えばいいのかな』

「なんて言えばいいのかなって。だって、変だろ、そんなの」

おかしいだろ、そんなの。

『あのね。変な関係とかじゃなくってね、だからね、上手く説明できないんだけど、だからね、そう、保護者。保護者なの』

保護者ぁ?

「何だ、保護者って」

それって、なんか、パトロン的な?何か、見返り有りマス的な?

『そんな、やましい関係じゃないよ。きちんと、法律的にも、保護者、だよ』

なんだか、よくわかんないや。

「つまり、その、レイって人とは、付き合ってるとか、そんなんじゃなくて、でも、一緒に住む関係な人ってことか」

『なんで、そこ、こだわるのかな。そうだよ。付き合ってるとか、そういうのはないよ』

「そしたら、その、一緒に住んでても、その……」

『アキラ、何か、やらしい。そういうの、一切ないから』

なんだ、そっか。

「そっか。なんか、ホッとした。良かった」

よかった。

『よかったって、アキラ、もしかして、心配してくれたの?』

心配したっていうか。

「心配したっていうか、あれから、ずっと、気になっていただけだよ。あんなに仲、良さそうにしていてさ。なんか。悔しくて」

そういうと、電話の向こうでくすくすと笑い声が聞こえた。

『なんか、アキラ、おかしい。だって、何で僕の事なんか、心配になるのさ』

そうだな。

「なんでかな。そういうお前だって、なんか、こないだから、変じゃないか。なんか、じっと見てきたり、いきなり、俺の好物買ってきてみたり。おかしかったじゃないか」

『……やっぱり、アキラ、気付いてたんだ……』

なんだか、少し、暗い声。

「気付いてたって、何に?」

『とぼけないでよ。だって、気付いたんでしょ。だったら、気付いてよ』

「だから、何に気付けばいいんだよ」

『……僕の、気持ち……』

は?

「何だよ、僕の気持ちって」

少し、声が震える。

『僕が、アキラを見て、アキラを、見たんだよ。アキラを、見てたんだよ。だから、その、あの……』

電話の向こうで、消え入りそうな声。

「……あの、何だよ。まさか、俺のこと」

『ごめん、それ以上、言わないで。後で、また、ちゃんと、説明、するから』

ブツッ、ツー、ツー、ツー、ツー……

電話が切れた。

「何だよ、急に」

話、むちゃくちゃ途中だったのに。

「……まさか、俺のこと」

俺の事……

それ以上は、触れてはいけない気がして。

今更だけど。

考え始めたら、その答えを、止められそうにないくらい、考えてしまったけど。

「説明、するのか」

俺が、説明、されるのか。

まさかな。

まさか、あいつに限って、そんなわけないよな。

外を見ると、雪はもう止んで。

ラジオのBGMは、いつの間にか、番組が変わっていた。

ありがとうございました。

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