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僕の場合.3

晩御飯の前。

リビングで話をしたことが、まだ頭の中にぐるぐるしてる。

「また飲んでる。たまには控えたら?ビール代だってバカにならないんだから」

大きなため息がでちゃう。

ほぼ毎晩。

隙あらば晩酌、って感じがレイの日課。

「いいじゃない、ささやかな楽しみだよ」

どこに向けてか、ビールの缶を高々と掲げて。

見えない相手と乾杯してるみたい。

「そういうのって、よくわからない」

ほんと。

お酒なんて、どこがおいしいのかな。

そりゃ、料理に入れるのはわかるけど。

飲んでおいしいなんて、思わない。

「酔わなきゃ、言えないことだってあるからさ。酔いたくなる気分もあるんだよ」

まるで言い訳みたい。

「いつもじゃない。いつも酔って、わけわかんないこと言って」

だいたい、お酒が回ってくると、変に気が大きくなって。

それに、変になれなれしくなって。

変に、べったりしてきて……

「例えばどんなこと?好きだよ、とか、愛してるよ、とか?」

また始まった。

「はいはい、この酔っ払い。ちょっと待っててね、すぐに作るから」

わかったわかったってジェスチャーでして。

キッチンに逃げ込んで。

何で、レイはそんなこと言えるんだろう。

きっと、レイは。

誰にでも、そんなことが言えるんだろう。

だから、きっと僕にもそんなことを言ってくるんだろう。

僕は……どうだろう……

誰に、言えばいいんだろう。



うつぶせにベッドに倒れこんで。

「今日は、何か、疲れちゃった」

手近にあった、抱き枕を引き寄せる。

この抱き枕は、いつからいるんだろう。

「ねぇ。疲れちゃったね」

そのまま顔をうずめて。

目をこすりつけるように。

「アキラに。嫌われちゃったかな」

明日会っても。

また、話してもらえないのかな。

「そんなの、やだよ」

だって、まだアキラに、ちゃんと伝えてないんだよ。

きっと、ちゃんと伝えなきゃ。

苦しいんだよ。

もっと。

ずっと。

「でも、どうやって伝えればいいのさ」

枕元の携帯の画面に、アキラの電話番号を呼び出して。

レイみたいに?

そんな事。

できるわけないよ。

「できるわけ、ないよ」

呟いて。

起き上がって、カーテンをそっとめくる。

窓の向こうは、とても静か。

こぼれた明かりが照らす屋根の上は、真っ白。

「明日。アキラに、会えるかな」

アキラに会ったら、ちゃんと言おう。

ちゃんと言おう?

なんて言おう。

「わかんないや」

部屋の電気を消して。

今度は、外の方が明るくて。

「雪、止むかな」

止むと良いな。

そう思いながら、フトンを被った。



ピーピーピーピーピー……

目覚まし時計のアラームが鳴ってる。

時間は……えっと。

えっと、午前7時。

「7時?やば、寝過ごした」

慌ててベッドから飛び起きる。

いつもは、もっと早くアラームするのに。

「なんで今日は、もう」

二階から、階段をドタドタ。

明かりの灯っているリビングのドアを開けて。

「レイ、ごめん、遅くなっちゃった。これから朝ご飯を……って、あれ」

いつもなら、着替えているのに、今日に限ってレイはまだ部屋着のままソファーに座っている。

「あ、おはよう。今日は、雪のせいで仕事休みだってさ」

そんな事を言いながら、コーヒーを飲んで。

「仕事休みって」

「雪の中、出てきて逆になんかあっても、だってさ。外、覗いてごらん?凄い雪だよ」

促されて、カーテンを開けると。

「うわぁ」

昨日の夜から降り出した雪は、まだ降り続いていて。

何センチぐらいだろう。

「こんなに積もってるの、初めて見た」

もう、びっくりするくらい。

「さっき、学校からも連絡あったよ。休校だってさ」

TVのニュースを見ながら。

「え、そしたら、レイ、電話出てくれたの?」

思わずびっくり。

「?そうだよ。その後起こしに行ったんだけど、よく眠ってるから。ほっぺにキスして、目覚まし時計、遅らしておいた」

「だから、今朝は目覚ましの時間……って、レイ、今、何したって言った?」

何か、されたって聞いた気がする。

「ん?何が?気のせい気のせい。朝ご飯、ゆっくりでいいよ、そんなわけだから」

そう言うと、ソファーから立ち上がって。

「じゃ、とりあえず着替えてくるから。覗かないでね?」

なんて、訳の分からないことを言って、出ていった。

「まったく。レイって、ほんとによくわからない」

TVに視線を戻すと、テロップで大雪の情報。

「電車も、ストップか。確かにこれじゃ、学校いけないな」

そうしたら、今日一日、アキラに会えないんだ。

なんか、ホッとしたっていうか。

残念っていうか。

「……朝ご飯、何にしよう」



雪はその後も降り続き。

「ねぇ、ちょっと、散歩に出かけない?」

なんて、レイが訳の分からないことを言い出す始末。

「散歩?どこに。車は動かせないんだよ?」

よっぽど、この家の中が退屈なのかなって思ったら。

「散歩なんだから、車じゃ行かないよ。雪の中なんて、滅多に歩かないだろう?だから、雪の降る音を聞きに行こうよ」

ますます、訳がわからない。

「じゃ、そこのコンビニまででいい?」

どうやら、一人では行かない気だとわかって。

「うん。あったかい格好して、玄関に集合だね」

スキップをして、部屋から出ていった。

ほんと、わかんない。

部屋に戻って、コートと、手袋と、帽子と。

「あ、そうか。このコート、クリーニングに出さなきゃ」

まったく。

何で、昨日はそんなことしたのかな。

「ついてなかったな」

でも、美味しいコーヒー屋さん、見つけられたからな。

「マシロさん、今日は仕事なのかな」

だったら、大変だろうな。

そんなことを考えながら、玄関へ。

「お待たせ」

「じゃ、いこか」

そう言って、二人で玄関を出た。



「うわぁ」

本当に、初めて見る。

家の庭も、屋根の上も、道路も。

全部が真っ白で。

「全然、車の音がしない」

みんな、しんと静まり返っていて。

ところどころ、人の通った足跡が、獣道みたいに出てきて。

道路の向こうへ行ったり。

隣の家へ行ったり。

「面白い?」

レイが、そう言って覗き込んでくる。

「うん、とっても」

空から降ってくる雪の粒は、綿あめみたいに大きくて。

「この雪って、食べたらどんな味するのかな」

そう言って、空に向けて大きく口を開けて。

はくっと。

落ちてきた雪を食べて。

「どう?お味のほどは」

レイが、首をかしげながら。

「うん。なんか、新鮮な味」

僕は、にっこりと。

「そっか。よかった」

なんか、ホッとした表情。

「そうだ、写真撮りたい。写真写真。あ、家に携帯忘れてきた」

なんか、がっかり。

「家に帰ってから、庭の景色を取ればいいじゃん」

「それもそうか。そだね」

そんな事をして。

コンビニに寄って。

温かい飲み物と、ちょうど出来上がっていた中華まんを買って。

帰り道。

「ねぇ、レイ」

振り返らずに、後ろを歩いてくるレイに向かって。

「んー、何?」

「ありがとね、昨日は。今日も、心配してくれたみたいで」

そう言うと、くるっとターン。

思った通り、複雑そうな表情。

「そんなことないよ」

ビニール袋をカサカサ鳴らしながら。

なんか、今日のレイって、やさしいな。

そのまま歩いて。

もう、家につくころ。

「あのさ、レイ……」

もう一度。

レイの顔を見て。

「やってみたいことがあるんだけどさ」

そう言われた例は、不思議そうな顔。

「ほら、ドラマとかで、よくあるじゃない。あれ、やってみたい」

「あれ?あぁ、あれね。いいよ、見ててあげるから」

「なんか、それって恥ずかしい」

そう言いながら、後ろ向きに。

雪が積もっている所へ、倒れこんで。

ぼすっ。

「えへへ……」

一度、やってみたかったんだ。

「ねぇねぇ、レイ、ひとがたー」

そのまま、雪の上でパタパタと手足を動かして。

「楽しそうだなぁ。やっていい?」

そう言うと、レイもそのまま雪の上にどさっと。

「ちょ、レイ、重い」

なんで、僕のいる所に倒れてきたかな。

「んー。いいじゃん」

少しだけ、ぎゅっとされて。

「じゃ、中華まん冷めちゃうから、家に入ろう」

レイは、さっさと立ち上がると、雪を払って玄関へ。

もう。

何がしたいのさ。

「ピザまんは、僕のだからね」

後を追いかけて、家の中に入った。



帰ってきて。

コートをハンガーにかけて。

一緒に中華まんを食べて。

「なんで、ピザまんと肉まんの半分こなのさ」

「だって、両方食べたくなったから」

だったら、二個ずつでもいいじゃない。

「まったく、もう」

それでも、どっちもおいしかった。

「さて、と。雪、撮るんだろ?降ってるうちに撮った方が綺麗なんじゃないか」

「あ、そうだ。おなか一杯になったから、忘れる所だった」

パタパタと、階段を登って二階へ。

「どこに置いたかな。あ、あったあった」

枕元に置きっぱなしになっていた形態は、着信のLEDが点いた状態で。

「あれ、だれだろ」

ロックを解除して見ると、着信の相手は、アキラ。

「アキラからだ……どうしよう」

しかも、着信は一度じゃなく、何回も。

どうしよう。

何を話せばいいんだろう。

画面を見て、考えていると。

ピリリリリ、ピリリリリ……

「わ」

アキラから、また着信。

「も、もしもし……」

『あぁ、わり、俺だけど……』

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