Tea break.スワンボート
ほら、よくあるじゃない。
カップルで乗ると、必ず別れるっていう、いわくつきのスワンボート。
☆
「なんで、そんなの乗りたくなったんだ」
隣の席で、一生懸命にペダルをこぎながら文句を言うアキラ。
「だって、一人で乗ったって寂しいだけじゃない」
そんなのは、もう目いっぱいの口実。
二人っきりになりたかったから、なんて、まだ恥ずかしくて言えるわけない。
「だからって、何でスワンボートなんだよ」
周りをキョロキョロとしながら。
まるで、誰かを探しているみたい。
「いいじゃない、ボートって言ったらスワンだよ。それとも、ヘリコプターの方が良かった?」
それはそれで、狭そうだから、もっと近くに寄れていいかな、なんて。
「やだよ、そんな子供っぽい。これで十分。それで、どこまで漕げばいいんだ」
ムスッとしている表情でも、どこか、楽しそう。
なんだ、素直じゃないな。
「じゃぁねアキラ。時間の限り進める限り」
二人っきりになれるとこまで。
「はいはい、仰せのままに」
「うそ?ほんと?やた」
とっても嬉しくて、ボートの上で小躍り。
「わ、動くなよ、揺れる揺れる、勘弁してくれよ」
「ごめんごめ、あ、わ」
☆
何で、ボートなんか乗らなきゃなんないんだよ。
「じゃぁねアキラ。この湖の真ん中まで」
指さす先は、ずいぶんと先の方。
「はいはい、仰せのままに」
ま、この間の埋め合わせじゃないけど、そのくらいは付き合ってやるか。
「うそ?ほんと?やた」
よっぽど嬉しかったのか、隣で飛び跳ねてる。
「わ、動くなよ、揺れる揺れる、勘弁してくれよ」
漕いだりするのはいいけど、揺れるのは恐いんだよ。
「ごめんごめ、あ、わ」
ボートの揺れに併せてふらふらして。
「おい、そっちは外」
バランスを崩して、外にふらっとして。
「あ、わ、あ」
そのまま揺り返して、俺の方へ倒れてきた。
「わ。おい、大丈夫か」
驚いて、そのまま抱き留める形になって。
「うん、ごめん。え」
思ったよりも、顔が近くて。
『あ』
お互いの声が重なって。
視線がじっと絡んで。
何も言えなくて。
そのまま、流されるように、時間は過ぎて。
☆
「ねぇ、何やってるんだと思う、あの二人」
湖にせり出したステージの上。
「んー、まどろっこしい。そこはギュッと行くところだろ」
なんてことを言う保護者様。
「それって、応援してるの?それとも、こうやって監視してるの?」
それって、心配?それとも、嫉妬?
「今日は、マシロんとデートが主目的だよ?その途中で、たまたま見つけただけ」
どうだか。
気にあって、跡をつけてきたってのがバレバレなのに。
「素直じゃないな、レイは」
そう言って、ほっぺをつんとする。
「素直も何もないだろう?それとも、マシロんは素直なの?」
そういって、お返しとばかりにつんつんと。
「何それ、普段から素直だよ」
そう言って膨れて。
「マシロんがいつ、一番素直になるのかって、知ってるよ」
そう言いながら、後ろからぎゅっとされた。
「たまらないなぁ」
寒いけど、これだけでおなかいっぱいだ。
☆
マシロの事を抱きしめつつ。
でも、視線は流れるスワンボートをずっと追いかけて。
ま、何事もなさそうで、大丈夫かな。
「ねぇ、マシロ」
顔を耳に近づけて。
「ん、なに」
少し、身をよじって。
「もしも、さ。二人の間に、大きな子供がいきなりできたら、マシロはどうする?」
「え、何それ。それって、プロポーズ?」
くすくすと笑いながら。
「そんな風に聞こえた?なら、そうかも」
そう言って、もう一回、ギュッとする。
「んー。レイと一緒だったら、良いよ?」
抱きしめている手を、マシロの手が、握り返して。
「レイと一緒にいられるなら」
嬉しいな、そんなこと言ってくれて。
「じゃ、前向きに検討?」
抱きしめていた手をほどいて。
「んー、検討してあげてもいいよ?」
くるっと回って。
マシロと、軽いキス。
「でも、その答えは、今日じゃなきゃダメ?」
「ダメ?とは?」
そう言うと、口に指をピッとされて。
「今日は、そういうの抜きで。二人のデートの日だから」
そうだね。
「うん、行こうか」
流されていたスワンボートは、再び自力航海中。
もうそろそろ、時間切れかも。
休憩話。
ありがとうございました。




