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僕の場合.1

ちょっと、いいな、って思う。

違うな。

ちょっと、いいな、って、思ったんだ。

昨日の昼休みにね。

そう、窓際に座って、夢中でノートに書き込んでいるところ。

なんか、夢中になっている所が、格好いいなって。

不覚にも、思ったんだ。



「ねぇねぇ、何見てるのさ」

うるさいなぁ。

「何だっていいじゃないか。それよりアキラ、タマゴ落ちてるぞ」

そう言ってる間に、するするとお箸からすり抜け落ちる焼きタマゴ。

「おっと、いけないいけない」

弁当の中にリバースした卵をもう一度拾い上げ。

「いただきますっ」

ぱくっと。

「まぁ、美味しそうに食べるのだけは得意だな、アキラは」

「そう言うお前は、よく見てるよな、ほんと」

そう。

今日は特に。

そして、昨日の事を思いだしながらの昼休み。

机を繋げて、なんて、ベタな昼食風景が教室の中にちらほら。

窓際にも、そんな昼食風景。

僕も、思い出したようにコンビニで買ったサンドウィッチを。

「いただきます」

うん、レタスがシャキシャキして。ハムもタマゴもおいしい。

「今日は、弁当じゃないのか」

「今日は朝、起きられなくって。弁当作ってる時間なくてさ。ま、たまにはいいんじゃないかなって」

たまにはね。そう、たまにはたまには。

「たまには、ね。週末まではまだ一日残っているのに夜更かしか。睡眠とか、栄養バランスとか。いつもは口うるさいのにな」

「何だよ、ちゃんと別に野菜もとってるよ」

そういうと、袋の中から紙パックを一つ。

「野菜ジュースだろ、それ。カロリー高いぞ」

うるさいなぁ。

「何だよ、太るって言いたいのか?おあいにく様、太りませんよ、だ」

「ちゃんと運動もするし、バランスも考えてますから、だろ」

「そうそう。ってどこ見ながら話してるの」

言って額にチョップ。

「油断も隙もないんだから」

「油断も隙も隙だらけじゃないか」

うるさいなぁ。

「そうだ、新商品のチョコあったんだけど、アキラ食べる?」

「お、食べる食べる。マジか、このシリーズ好きなんだよなぁ」

知ってるよ、そんな事。

「何個入りだ、7個か。したら、一個余るな」

「いいよ、アキラが食べて」

「ん?だって食べるために買ってきたんだろ?」

「んー、なんか、おなか一杯になっちゃって」

今日は、もう食べられない。



時間が過ぎるのが、今日は本当に早かった。

午後の授業も終わって、もう放課後。

「なぁ、帰るけど、電車まで時間あるから、一緒に駅ビルの本屋でも行く?」

前の席で、カバンに教科書を詰めながらアキラが言う。

「んー、何かの発売日?」

同じく、僕も片付けをしながら答える。

「んにゃ。なんとなく。少し、雑誌でも見たいかな、って」

「なんとなく?じゃぁ、付き合わないわけには、いかないな」

「じゃぁ、付き合ってもらおうか」

笑いながらそう言うアキラの顔が、午後の夕日に眩しい。

「今日は部活出ないの?」

「おう、今日は帰りだ」

「今日も一緒に?仲いいね」

隣の席からかかるそんな声。

「へっへ、良いだろう、羨ましいだろう?」

二パッと笑って言うアキラの言葉が、それだけで顔を熱くさせる。

「なにバカなこと言ってんだよ、いくよ」

顔を見られまいと、カバンから取り出した筆箱でアキラの頭を叩く。

「いてっ。何だよ今日は。機嫌いいかと思ったのに」

「機嫌いいよ?だから、早く行こうよ」

でないと。

「わかったよ、行きますよ、行けばいいんでしょ」

「誘ったのはアキラでしょ」

「そうだっけ」

「そうだよ」



「お、今日は部活は不参加か」

二階から、声がかかった。

「出る時も一緒、休むときも一緒じゃ、疑われても文句は言えないな」

手すりにもたれかかってそういう教師は、これからある部活の担任だ。

まずい。

非常にまずい。

昇降口で上履きから履き替えている所で、部活の担任に見つかった事が。

「今日はデートなんで、帰りまーす」

アキラが吹き抜けの二階を見ながら大声で話す。

「おうおう、お熱いこって。あんまり路地裏とか行くなよ、お前ら」

いたずら好きな笑い顔を見せながら、ひらひらと手を振ってくる。

「ななななな、何を言ってるんですか先生、そそそ、そんなとこ行くわけわけないじゃないですか」

「なに焦ってるんだ?なんか今日、おかしいぞお前」

ジト目でアキラが見つめてくる。

まずい。

「あぁそうだ、アキラ、例のはもう出来上がるのか?」

「まだまだですよ。ようやくプロットができたんで、近いうちに相談します」

「おう、期待して待ってるよ」

そう言うとこっちにいたずらな笑みをもう一度見せて、担任は消えていった。

「むー」

ムカつく。

「顔にムカつくって書いてるぞ」

「えっ?」

視線を戻すと、思ったよりも近くにアキラの顔があって。

「ムカつくって書いてある」

そういって、ほっぺたをぶにっとつままれた。

「いたいいたいいたい」

「ムカつくよりはいいだろう」

ケラケラと笑いながらのアキラ。

人の気も知らないで。

本当に、どんな気持ちかも知らないなんて、アキラは鈍感だ。

「行こうか」

「うん、そうだね」

下校する生徒に交じって、二人で歩く駅までの道。

いつもと同じ道だし、いつもと同じ風景。

いつもと変わらず、隣にいるアキラ。

変わったのは、たぶん、僕。

「ああああああ、アキラさん?」

まずい、何か、変な事言った。

「ん?」

アキラは、気にするそぶりすらなく。

「そういえば、プロットって、何の」

良かった、今度は普通に話ができた。

「あぁ。ほら、こないだの部誌にのせた話が評判よくってさ。続きを書けって」

「あ、あれ?うん、とっても面白かった。今度はどんな話になるの?」

「続きを書くようには考えてなかったからなぁ、同じ舞台を使った別の話になるんだ。昨日の昼休みに良いアイディアが浮かんでさ。夜にそれをまとめてたんだ。その話」

「昨日の昼休みに?」

「そうそう、一緒に昼飯食べてるときに思いついて。あの後慌てて書き留めたんだ」

その時を思い出して、ドキッとした。

いつものように食べていた弁当を途中で放り投げ、一心不乱にノートに書き込んでいく姿。

いつもは背中しか見せないのに。

その時に限って、正面から見た、真面目なアキラの顔。

一生懸命なアキラの顔。

あの時の、アキラの……

「どした?」

肩を叩かれて、ハッとした。

「いや、何でもないよ」

手をパタパタと動かして。

やばい。

耳まで熱くなる。

「どうした、熱でもあるのか?」

心配そうなアキラの顔が、近くて、とっても近くて。

「なんでもないっ」

そう言う言葉は思ったよりも大きく口から出てしまって。

その言葉を聞いた自分がびっくりして。

まるで心臓が、ギュッと縮まったように。

凄くドキドキして。

「顔が赤いぞ」

くらくらして、息苦しくて。

「大丈夫か、おい、どしたよ」

アキラの顔を見られなくて。

「大丈夫だから、すぐに落ち着くから」

なんとか、手を出して。

ごめん、これ以上は近寄らないで。

「……今日は、ごめん、帰る」

いつの間にかついていた、駅の改札前。

「ん、そか」

少し、残念そうなアキラの声。

「うん、ごめん。また明日」

うつむく僕の声。

「明日は、土曜だよ」

「えっ、痛っ」

思わず顔をあげると、そこにアキラのデコピンが飛んできた。

「何かわからないけど、元気出せよ」

頭をくしゃくしゃっとして。

「気をつけて帰れよ」

そうやって、気遣ってくれる。

「うん、ごめんね。ありがとう」

ほんと、アキラは優しい。

「じゃな」

「うん」

僕を改札に送り出して、階段を下りるまで。アキラは見送ってくれた。

自動改札のゲートがガチャンと閉まる時に、少し胸が痛んだ。

階段を下りて、ホームに立って。

少し、時間があったから。

もう一度だけ、階段を登っていったけど。

改札の向こうに、アキラはいなかった。

「当たり前か」

胸が、またギュッと苦しくなった。

電車のドアが開いた時。

まるで何かが弾けたように。

涙が、つつっと、流れた。

ありがとうございました。

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