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ハム神さまとくまさん

 こんにちは私がハム神だよ。ハム神がどんなのだって、真っ白な世界に立って二人のハム神がいるのさ。耳がピンッと立って、白地に灰色のラインがアクセントの毛並み。目はクリッと丸くて、突き出た白い鼻の両側からいくつかの長い髭。二人ともほとんどそっくりだよ。地上では二匹と称されて、ジャンガリアンハムスターとして人々に愛されている。


 えっ、なぜハムスターが神さまになるかって。ハムスターのような下等ないきものが神さまになるなんて許せないだって。失敬なことだ。これでも私はいや私たちは二人とも飼い主に愛され、素晴らしい人生を歩み、神の元へと旅立ったのだ。

 だから、神さまになるのは当然だ。


 「うわー、バカだ。僕はバカだ。死んだほうがいい。死んだほうがいい。」

突然、ふたりの神さまのそばで大きく悲痛な叫び声が轟いた。

 「まただよ。たまさん。何とかしてあげなよ。」

二人の神さまのうち、少し野性的な狡猾さを感じさせる神さまが言った。

 「そうですねえ。私が行ってもいいんですが。よっくんさん、今度はよっくんさんが助けてみてはどうかしら。」

これが私、たまだ。よっくんさんが言う。

 「うん、そうか。わかったよ、行ってみるわ。だけど、うまくいくかねえ。」

 「わぁーわぁーわぁー、つらいよぉー。うわぁー。」

また聞こえてきた。よっくんさんはスタタッと走り出して、雲の中に、いや、雲のような霞の中へ消えていった。


 この泣き叫んでいるのはくまさん。私とよっくんの飼い主だった人のお兄さんだ。このくまさんは人生、失敗ばっかりで、あんまりかわいそうだから、私たち二人で天国から見守ることにしたの。

 だけど、大丈夫かしらね。よっくんて、がさつで衝動的だから、くまさんと一緒になってわたわたするだけになっちゃうかも。くまさんも頼りないし。


 「う、うーん。ここはどこだ。えーっと、そうだ。くまさんの中だ。おれが人間の中に入るなんて、一年以上前の一回きりだから、まだ慣れないな。えっと、くまさんはどこにいるんだ。」

そこは港だった。荒れた海を前にしてくまさんは魚を運んだりして働いている。波の音が轟音とともに迫ってくる。くまさんはその音に隠れるように唐突に叫びだしたりしていたのだった。静かなcafe だったりしたら、みんなびっくりして、ひっくり返っちゃうものな。


 おれは落ち着いて、くまさんの心の中に意識を集中した。天国から見守るって言っても、奇跡を起こしたりはできない。それは神さまの中でもほんの一握りの特別な者たちだけだ。普通の神さまは人の心に入って手助けするのだ。

 くまさんはどうも変なことを考えたり、いろいろ思い出したりする癖があって、今回もどうやらそのことが原因らしい。

 「うえーん。つらいよぉー。いやだよ。生きていきたくないー。」

また聞こえてきた。ちょっと思考を覗いてみるかな。いそいそいそ。おれはくまさんの思考の海を泳いでいく。ハムスターの思考と比べて人間の思考は要り組んでいて、ややこしい。ハムスターなら走って食べて、おしっこして、また走って。という感じなのに。人間だと、走りながら食べておしっこして笑って泣いて昼寝して、ってそんな感じだ。せわしない。

 

 よしっ、ここだな。これが今くまさんが考えていたことか。ふうん、えーと、電車に乗ってて、スマートフォンがスピーカーモードになってて、車内中にカラオケで録音した自分の歌声が鳴り響いたと。うーん、これは恥ずかしいのかもしれない。

 しかし、そんなにつらいのか。本当にめんどくさいお兄さんだなあ。元の飼い主の人も大変だよね。ま、ハムスターには特に関係なかったんだけどさ。元の飼い主にもお兄さんにもいろいろ遊んでもらったりして、野菜もフルーツもたくさん食べさせてもらったから、助けるのは嫌じゃないんだ。

 

 それじゃあ、さっそくはじめようか。えーと、まず、あっちのあの記憶と、そっちのその記憶を持ってきて、この記憶とこうやって混ぜて、よし、完成っと。

 どんな風になったかな。少しくまさんを見てみよう。

 

 「うーん。えーと、つらいから、妄想しよう。」

と、くまさん。

 「電車に乗ってて、スマホを出したら、突然前の席の女性がアカペラで歌い出した。僕が唖然としていると、周囲の乗客もクスクス笑ったり、指差したり、びっくりした顔をしたり、大変な状況だ。それで僕はスマホをスピーカーモードにして、彼女の歌う『世の中ゴミダラケ』って歌を同じタイミングにるように再生したんだ。

 そしたら、歌手の歌声と彼女の声がマッチして、妙なハーモニーを醸し出して、車両内の空気がクールになったんだ。みんな聞き惚れていたのさ。二人の歌声に。

 気づいたら端に座ってるレゲエミュージシャンっぽい外国人男性がトンガを叩き出した。もうそれからは車両内で手拍子やら、口笛やら、アコギをかき鳴らす音やドラムスティックやらが飛び交って、世の中ゴミダラケの歌のフルオーケストラだった。僕はその恍惚の瞬間に酔いしれたのだ。」


 くまさんはどうやら笑っている。つらい記憶が楽しい記憶に再構築されたのだ。

 「よしっ、これで今回のおれの役目は完了さ。」

ハムスター神のよっくんはそう言うと、光の玉となってくまさんの頭から抜け出して、天高く昇っていった。


 天国ではたまが待っていた。くまさんの様子をずっと見ていたたまは、よっくんを出迎えてすぐに称賛したのだった。

 「よっくん、今回はすっごく鮮やかだったね。私は感心したよ。やっぱりよっくんは行動に勢いがあっていいね。」

よっくんが少し照れて答えた。

 「ま、ざっとこんなものさ。しかし、うまくいったな。我ながらびっくりだわ。次はくまさんの人生もうまくいくんじゃないか。」

そう言って二人のハムスターの神さまは笑ったのだった。こうして、今も二人の神さまハムスターはくまさんを見守るのだった。

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