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七つ色の街 エーテフ Ⅳ

「お待たせしました」

 クレハートのいる部屋をノックした少女エルトは彼に謝った。時間はもう昼前となり昨日の約束よりかなり遅れている。

 クレハートは不機嫌であったがひとまず彼女を部屋の中に招きいれ椅子に座るよう促す。

 招かれたエルトは素直に部屋の中に入ると大きな鞄を床に起き椅子に座った。

「その荷物はどうしたの?」

 彼女は昨日そのような大きな荷物は持っていなかったこともありクレハートは気になり訊ねる。

「これは私の全所持品ですよ、ほとんど着替えばっかりですが」

 クレハートはその答えに疑問を感じた、幾らなんでも少なすぎではないかと。まるで旅行でもしているかのような。

 しかしそれを聞いたところでこれからの仕事には何の関係もない、彼は自分を納得させるとエルトの対面にある椅子に座った。

 彼は開口一番でシドがこの仕事から外れる旨を彼女に伝える。


「……そうですか、残念ですね」

 彼女はがっくりと肩を落とした。

「それで二人でもこの仕事はできる?無理ならそれまでだけど」

「大丈夫ですよ、クレハートさんがいて下さるだけで何とかなります」

 エルトは笑顔で答えたがその表情にクレハートは違和感を感じる、本来なら彼女の方から断るか別の幸福探求者を探すものだと考えていた。

「もう一度聞くけど本当に大丈夫?」

 クレハートは真剣な目で彼女を見る。

「えぇ。大丈夫です」

 彼はそう答えた彼女の顔をじっと見る、何かを隠しているのは確かだ。

 昨夜クレハートはシドの意見に賛成だった、その依頼内容には不信感しか抱けなかった。

 それでもこの依頼を受けようとしたのは彼女が手の内を見せてきたからだ、あれほどの能力を易々と人前で披露することは褒められたものではない。

 そのような特殊能力を利用とする輩がこの街に山ほどいることを彼女だって知らない訳ではないだろう。

 何より紅天グラホニックの情報を自分達に話してくれたことにクレハートは彼女に一種の尊敬をしていた。

 だからこそクレハートは今回の依頼を受けることにしたのだ。 

「そっか。じゃあ問題ないな」

 問題がまったくない訳ではない、ただあとは彼女を信じて依頼を完遂させるまでだ。

 クレハートの気持ちが固まった瞬間部屋のドアが勢いよく開く、そこに立っていたにのはシド、革靴の音をフローリングに響かせながら彼らのところまで歩いてから口を開いた。

「やっぱり俺も参加することにしたぜ、よろしくな」

 二人の前に腕を突き出すと親指を立て口角を上げた彼はいつも通りの明るいシドに戻っていた。




 エーテフの東側に位置するところに超宝石売買公認協会(通称:協会)が保持している立体駐車場がある。

 そこには協会に加入している幸福探求者の所持している車両のみが駐車することができ警備も厚い、三階建ての大きな建物で階層が高いとこほど年間納金の多い者が使用できるようになっている。

 その駐車場にクレハート、シド、エルトの三人は来ていた。

「ロッツェルさん驚いてた」

「いつもだったら帰ってきて一週間以上はのんびりするからな」

 愛用の真っ赤なシャトルバイクに荷物を積み込みながら彼らは少し前のロッツェルのことを思い出した。 


 クレハート達が荷物をまもめ階段を下りてきたのを見てロッツェルは驚いた。

「え?もうチェックアウトされるのですか?」

 彼女は率直に思ったことを質問をした。

「あぁ、急ぎの仕事ができたんでな」

 そう言いながら彼女に提示された額の宿賃をシドは支払った。

 ロッツェルは彼らの後ろにいる一人の少女を見る、昨日訪れてきたこの少女が何かしら関係しているのは確かだと推理してみせた。

「今回は三人で行かれるのですね?お気をつけて」

 彼女はそう言った後頭を下げる、シドとクレハートはまた来ることを告げるとエルトを連れて玄関を出て行く。二人が否定しなかったところを見ると自分の推理は当たっているようだ。

 三人を見送ったロッツェルは嫌な予感包まれていた。



「それにしても急に心変わりするなんて何かあったのか?」

 シャトルバイクに荷物を詰め込みいつもの指定席である後部座席に寝転がったクレハートはシドに問う。

「やっぱりおいしい話に乗らねぇとな、って思っただけ」

 シドは運転席に座ると手持ちの電子端末とシャトルバイクをケーブルで連結させ電子端末に何かを打ち込んでいた。

「それに俺がいなければどうやってその場所まで行く気だったんだ?」

「傭兵にお願いするつもりでした…」

 シドの問いにエルトが答えるとクレハートとシドは顔を見合わせる。

「いやそれは駄目だろう」

「駄目に決まってんだろ!」

 二人の意外に大きな声にエルトは驚き身を竦ませる、そんなに自分の言ったことがおかしかったのかと疑問を抱きながら。


「んじゃ行きますかね」

 シドはそう言ってから残る二人を見た。

 エルトは助手席に座り目の前にあるナビゲーションシステムの画面を興味深そうに触っている。クレハートは後部座席を一人占めし横たわっている、すぐ昼寝をするいつも通りに格好だ。

「えーと最初は南門から出てそのまま南に行ってください」

 エルトはシドに指示する、シドはそれに了解と返した。

 彼がエンジンキーを回すと目の前のディスプレイに搭乗操作注意の警告が出た後電子音が鳴る、そして機体が地面から浮き上がる。

 シドがゆっくりアクセルを踏むと車体が前に動き出しそのまま立体駐車場の出口まで動き出す。

 

 立体駐車場を出た真っ赤なシャトルバイクは小道を抜け大通りに合流すると先ほどよりスピードを上げ滑走する。

「このシャトルバイクって新しいですよね?内装とかも近代的でまだ綺麗ですし」

「型落ちの新古品だぜ、借金返済でお先まっくらだけどな」

 エルトの問いにシドが答える。

「紅天が手に入ればすぐ返せる額だ」

 クレハートは独り言のように喋った。

「それなら次この街に帰ってくる時には借金はなくなっていますね!」

 エルトはそう笑顔で言ったが隣にいたシドはそれに違和感を感じていた、昨日まではわからなかったが今朝ミミティコとの話で確証は得ている。

 そしてそれを彼女に告げるのはこの街を出てから、それと……




 真っ赤なシャトルバイクの後方、数台の車両を挟むかたちで黒いシャトルバイクが彼らの後を追っていた。



  

最近こころがぴょんぴょんしない

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