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七つ色の街 エーテフ Ⅲ

 エルトが部屋に来てから一時間、机の上に置かれていた料理の皿は引き上げられ代わりに三人分のコーヒーカップが置かれていた。

 そのうち一つをクレハートは手に取るとベッドまで行き腰掛けた。二つの椅子にはそれぞれシドとエルトが座っておりコーヒーカップに口を付ける。


 

 さきほどエルトからの申し出を受けたクレハートとシドは『紅天グラホニック』を手に入れる為彼女と共に旅立つことを約束した。

 手に入れた際の分け前はエルトが三割、クレハートとシドが合わせて七割となる。

 シドは人数面で心配をしていたが彼女の言い分では『一般人を沢山雇うより少数の強い能力者と組む方が確実』らしい、確かに間違ってはいないがたった三人では心配するなというほうが無理な話である。どちらかというと『それに紅天を持っている生物は三人でも十分相手できますから大丈夫です』と言い切った彼女のことを信用する方が難しいのだ。

 場所、紅天を持つ生物の詳細については出発してから話すとエルトは言った。恐らくこちら側を百パーセント信用しているという訳ではないらしい。

(誘っておきながら大事なとこは隠すとはねぇ)

 シドは彼女が部屋に入ってきた時と今の状態に違和感を感じていた。打ち解けたというより彼女の作戦が成功した、とでも言えばわかりやすいだろうか。


「それでは明日の朝またお邪魔します、今晩はありがとうございました。おやすみなさい」

 コーヒーご馳走様でした、そう彼女は付け加えて部屋を出ていく。ドアを閉める前に一礼するその顔は笑顔だった。



 二人残された部屋には時計の長針が動く音しかなかった。本来ならシドが一日の愚痴を言うのだが今は頭の中で彼女のこと、紅天のことについて考えを張り巡らせているようだ。

 クレハートは空になったコーヒーカップを机に置きエルトは作って見せた小さな石の鍵を手の上で遊ばせている。

 部屋を支配する規則的な長針の音を途切れさすようにシドが口を開く。

「やっぱりこの話は断らねーか?」

 彼は何度も考えた結果腑に落ちない点が多すぎること、エルトが信用できないこと、などデメリットが多すぎると考えた。

 異宝石は確かに魅力だ、今後見れることはそう何度もないであろう。それでも下手すれば今の全てを失うこともありえる、例えば彼女が他の幸福探求者と徒党を組んで自分達を嵌めようとしているかもしれないということだ。

 今日クレハートが大通りでオリュースンの手下から泥棒退治のお礼を貰った瞬間は沢山の人間が見ている、それを狙って自分達にうまい話を振ったとも考えられる。

「いや、明日彼女に会おう。たぶんこの話は嘘じゃない」

 クレハートは手に持つ小さな鍵を見つめながら返答した。

「信用できる根拠は何だ?」

「根拠はこの鍵さ、わざわざ旅に連れ出して襲おうとするとして相手に手の内を見せる必要はない」

「それが罠だとしたらどうするんだよ?手の内を見せることで信用させて油断させようって腹じゃないか?」

「そうだとしても俺達がエルトの能力と紅天の話を誰かに話す可能性だってある訳だろ?会って一時間程度喋った相手にそこまで喋るか?」

「それも罠かもしれんだろ」

 シドは全てに疑ってかかっている、クレハートはそんな彼を説得するよう考えるがどうしても決定打がでてこなかった。

 

 そんな彼はある一つの方法を思いつく、わざわざ二人で行く必要はないのだ。

「それじゃあ別行動にするのはどうだ?俺は行く、シドは残る。これなら問題ないだろ?」

 それを聞いたシドは凄く何か言いたそうに口を動かしたが視線をあちらこちらへ動かし少し時間をかけて何かを考えた後その話に賛同した。

「……その方向でいくか、お前は行く、俺は残る。いい案だ」

 今二人が考えていることはまったく別々のことであるが彼らにとってこの方法は色々な意味で最善手だと言えるようだ。

「んじゃ寝るから」

 早々にベッドに潜るクレハートを横目にシドは頭の中で考えを張り巡らせる。

 シドの脳内一人作戦会議は深夜まで続いた。

 

 

 翌朝、生憎の曇り空の中、宿屋の一室でクレハートはエルトを待っていた。

 相棒は朝早く「用ができた」とこの部屋を後にした、彼がそう言って一人であちこち行くことはよくあるのでこれといって気にはしない。

 どちらかというと今日の約束をしている相手がなかなか現れないことのほうが心配だった。

 クレハートの朝は早い、日の出とともにとはいかないが部屋に日が差し込むことで電源が入る、まるでロボットのように。

 そんな彼は朝食も済ませ今か今かとその人物を待っていた。



 朝早く宿を出たシドは活気ある市場の人ごみを右に左に避けとある場所へ向かっていた。

 宿から三十分も歩いたところで小さな路地裏へ繋がる階段を下る、さきほどまで活気ある街とはまるで別世界、暗く日も差さないその通路は紙くずや木くずなどのごみが散らばるところだった。

 そこをこれといって気にしないように彼は足早に歩いていくと赤い扉の前で止まった。

 シドはその扉を三回ノックし中の反応を待つ、すると中から二度ノックが返ってくる。それを聞いた彼はまたノックをする、今度は一度した後少し間を空けてから二度ノックした。

 すると扉の鍵を開ける音が聞こえた。一つ二つでもなく沢山開錠する音が聞こえそれからその扉は開いた。

「朝早いとこ悪いな」

 シドはそう言って扉の向こう側にいる人物に話しかける。

「俺は早起きだから気にするな、それよりお前こそこんな朝早く起きてるなんてな」

 そうシドに返答したのは髑髏のマスクを被った大柄な人物だった。



 『情報屋』とは幸福探求者と呼ばれる者たちに超宝石の在り処の情報を提供することを生業としている業者である。

 その数は不明、どこからどのようにどのような情報を手に入れるかはその業者ごとに様々でその情報を売買することで生活している。

 情報の内容によってはトラブルは頻繁に起き偽情報で儲けようとする者もいれば情報への対価を踏み倒される者もいる。

 お互いが平等になるため”信頼関係”を築こうとすること自体両者にとっては長い探りあいの中で得られるもののようだ。

 そういう面ではシドにとってこの髑髏のマスクを被った変わった情報屋『ミミティコ』との出会いはかなり恵まれたほうなのかもしれない。

 彼に催促されその建物の中に入る、その部屋にはあちこち髑髏に関する置物や絵、人形など色々な物が置かれていた。

 ミミティコは彼をソファーへ座るよう促すと髑髏が口を開けた形のマグカップを手渡す、その中の液体の匂いはコーヒーだが美味しそうとは言えない。

「こんな朝早くから情報収集とはねぇ、まだこの街に帰ってきてから二日三日した経ってないんじゃないのか?」

 シドの対面にあるソファーにも髑髏が描かれたソファーありそこに座りながら彼は尋ねた。

 シドは奇妙なマグカップに口付けしコーヒーを一口啜ってからその問いに答える、彼の目的は超宝石の情報ではなく昨晩訊ねてきた一人の少女についてだ。

 

 熱かったコーヒーが温くなりいつしか冷たくなるまでシドとミミティコの話は続いた。

 ミミティコの情報はシドにとって有益であった、想像していていた以上に”少女”は訳ありのようだ。

 昨晩から引っかかっていたことが全てではないにしろほとんど謎が解け彼の気持ちは晴れ渡った空のように清清しい。

 後はクレハートがどう動くか、そして自分が何をするべきか。今朝少女と出会う約束をしているということもありゆっくりしている暇はなさそうだ。

「コーヒーご馳走様」

 そう言うとシドは空になった髑髏のマグカップを机に置きその隣に一枚のカードも一緒に置く。

 そのカードは金色で表面には数字が書かれていた、そのカードは『タープノル』と言われる一種のプリペイドカードだ。情報屋への支払いなどはこのタープノルで行われることが多い。

「こんなにくれるのか?今日の情報にこんな価値はないと思うがなぁ」

 ミミティコの話に赤い扉の前まで歩いていたシドは頭だけ彼の方に向け答えた。

「何言ってんだよ、それはコーヒー代だ」

 じゃあな、と彼はサングラスを掛け直し外に出て行った。 

 

  

台風怖かった

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