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廃墟戦 Ⅶ

拡声器を持った老兵はまだ喋り始めたばかりなのに空を見上げたまま動きを止めた、傍に立つ二人の兵士も同じく。

 この町を覆うほどの影が一体何であるのか、たまたま見上げた結果”それ”は落ちてきた。

 急激に近づくそれに一瞬目を奪われながらも兵士達は一目散に逃げる。


 町は揺れた。

 その存在を知らない誰もが地震であると言うだろう、だが実際はそうではない。それよりもっと恐ろしいもの。

 巨体は青く鱗は輝く。

 町を覆い尽くすほど大きな翼。

 巨体を支える四脚は太く。

 その体から伸びる尾を地面に叩き付けた。

 長い首の先には誰もが恐れる化け物の頭。

 ”石を持つ者”上級生物、ドラゴン。

 体格は普段見られるものを遥かに凌駕している。

 それがこの町に降り立った。


 ドラゴンが降り立った場所には一軒の民家があったがそれはすでに瓦礫となり形は残っていない。

 民家は西側にありシド達のシャトルバイクには近いところだった。

 ドラゴンの降下による衝撃で他の家屋も軒並み崩壊していく。

 窓ガラスや外壁は衝撃波で吹き飛び地面の揺れは老朽化していた家屋をいともたやすく倒壊させる。

 宿場も民家もまるで積み木のおもちゃが倒れるように長年の埃をまき散らし潰れた。

 この町でもっとも高い三階建ての建物も同じく倒れかける、ドラゴンに向かってもたれ掛かるように一階部分が潰れながら倒れた。

 ドラゴンはそれに向かって長い尾を振るう。

 尾は風を切る音を残しながらかなりの速さで三階建ての建物をへし折った。

 その威力はへし折った建物を広場を走る道路まで投げ飛ばすほどであり破片共々道を塞いだ。

 首を伸ばし辺りの様子を見まわしてからドラゴンの咆哮が響き渡る。




 倒壊した民家の中にシドは居た。

 一瞬何が起きたのかわからなかったが時間の経過とともに記憶が蘇りそれを辿る。

 埃まみれの体を叩き自分が上手い具合に倒壊した家屋の下敷きにならなかったことに胸を撫で下ろした。

 しかし今すぐ脱出できるような状態でもなく日の光が隙間から入ってくるものの脱出はかなり困難であると考えられた。

「カーテンを元に戻して、それからすぐこれだ。それとさっきの咆哮」

(……。)

 シドは頭を抱える。

 頭を整理しようとするがこの地震と先ほどの咆哮が結びつかない。

 何が起きた?何が現れた?

 それで他の奴はどうなった?クレハートは?エルトは?あの兵士共は?

 この狭い空間も相まって彼を困惑させていく。

(ひとまずここを出てからだ)

 少しの間考えてからこの状況から脱出することにした。

 当然だが兵士に見つかっては意味がない、なるべく見つからないように細心の注意を払いながら。一つ一つ瓦礫に手をかけていく。


 


 目の前のドラゴンは自分を見ている。

 青く澄んだ瞳は自分の頭ほどの大きさでその頭は、そうそこに止まっているシャトルバイクとほぼ同じだ。

 あの衝撃で吹き飛ばされ起き上がってみればこの通りだ。生き残ったと思ったのに結局は少しの間余命が伸びた程度。

 二人の部下は見当たらないが恐らく生きてはいまい。

 吹き飛ばれた衝撃で頭から流血しその血を拭うことなく老兵は立っていた。

 まさかこれほど大きなドラゴンが舞い降りるとは。

 どことなく関心しながらそのような情報を渡してくれなかった軍を思う気持ちに忠誠心が揺らぐ。

 そう言えば今回手を貸してくれた女性の傭兵は無事であろうか、ただ川の向こう岸にある建物は確か無事だった。そう思えば恐らく彼女に危険はないだろうと納得した。

 あとはこの状況でどうするかという点だ。

 まずこのドラゴンは逃がしてくれないだろう。

 ドラゴンという種族は生態系のほぼ頂点だと言われている、目の前の巨体を見れば納得だ。

 それに引き換え自分の小ささとは情けないほど。

 脚の指一本ほどしかない。

(走って逃げても恐らく無理だ)

 衝撃波で地面を転げまわり節々の痛みに頭部からの流血、万全じゃない。

 まぁ万全でも不可能なのだろうが、老兵はふふっと笑った。

 



 ドラゴンは老兵を首を下ろし老兵を見ていたが首を持ち上げるとそのまま歩き出す。

 太い脚を進ませ地面に大きな足跡を残しながら。

 ドラゴンが歩くたびに小さな揺れが起こり倒壊した家屋は更に小さく低くなっていく。

 ドラゴンの前にいた老兵は驚きながらそれを避けるため元宿場の方へと駆ける、ドラゴンは老兵に興味などなかったのだ。

 真っ赤なシャトルバイクの前までその巨体を運ぶと後方のハッチの方へ顔を向ける。

 その中に何か入っているのを知っているようで興味深くシャトルバイクに鼻を近づけた。

 尾を振る仕草はまるで犬のよう、時折翼を広げ喜びを表しているようだ。

 次の瞬間そのシャトルバイクに噛みついた。

 大きく口を開けて規則的に並んだ鋭利な歯がシャトルバイクに、食い込まなかった。

 ガチン、ガチンと歯と鉄が当たる音が響く。

 頭の方向を変え何度もドラゴンが噛みつくが真っ赤なシャトルバイクには小さな凹みができるだけでその鋭利な歯は突き刺さることはない。

 一度頭を上げ何かを考える素振りを見せるドラゴンだがその視界に動くものを見つけた。

 右足の前にある瓦礫の山、それが少しづつ盛り上がりその中から何か現れる。

 ボサボサの髪にボロボロの服、ただしその体に傷一つなかった。

 髪についた埃と服につく瓦礫の欠片を手で簡単に彼は払った、それからその男はドラゴンの方を振り返る。

「……この前戦ったよな、お前」

 そう呟くクレハートにドラゴンの眉間にある青い超宝石”クレハート”は輝き始めた。

 

前回、佳境に入ると書いたな。

あれは嘘だ。

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