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廃墟戦 Ⅴ

 すっかり静かになった民家を裏の小屋から覗いていたエルトは未だに出てこないクレハートのことが気がかりだった。

 あの銃声の嵐は過ぎ去り今ではその屋内に誰もいるような気配は感じられない。

 それ以上に自分の傍に佇む無言のシドのことも心配で、そして彼が行動を起こさないことに疑問は大きくなっていく。

「あの、シドさん?」

 その状況にいたたまれなくなったエルトはシドに話しかける。

 できれば彼がすっかりおとなしくなってしまったことに何を考えているのか語ってほしい気持ちで一杯だ。

「もしかしたら、クレハートやられたかな」

 その返答を彼女は予測できていなかった。

 クレハートさんが負ける?そんなこと今まで考えたこともない、相手がどんな人であろうと生き物であろうと真正面から立ち向かう人物なのだ。

 勝てなくても負けることはないと思っていたのにシドはそれほど意外でもないように語る。

「さすがに遅すぎる、恐らく全員共倒れしたかアイツが負けて兵隊が去ったか。どちらかだろうな」

 そう言うとシドは立ち上がりエルトの顔を見ず指示を出した。

「今からあの民家を調べてくる、もし銃声が聞こえたり俺が殺られるところが見えたらすぐ逃げろ」

 そう言うや否やシドは物陰から飛び出し民家へと駆けて行く。

「……へ?」

 一人残されたエルトはシドが何を言ったか理解することに少しの間茫然としていた。


 物陰から飛び出したシドは足早に民家へ駆け寄り到着と同時に壁に背を当てた。

 耳を壁に当てるが室内から音は聞こえない、人の話し声も歩く音も。

(やはり生きてる奴はいないか……)

 確信ではないが室内に入るタイミングとしては悪くはない、彼は覚悟を決めエルトが飛び出してきた裏口へと歩き出す。

 伸び放題の雑草を踏み荒らしながら裏口へ、扉は開きっ放しで扉を開ける際に撃たれる危険性はなくなっている。

 その間近まで来てから一度深呼吸し身を乗り出す。銃を両手で構え目線は自分を狙ってくるであろう敵兵を探した。

(いない、いないよな?)

 自分に問いかけながら彼は一歩二歩踏み出す。


 彼の入ったところはキッチンのようで銃の打ち合いによってか壁や家具に弾痕が走り割れた食器と薬莢が床に散らばる。

 一歩進むごとに音が鳴る、蹴られた薬莢が転がり踏みつけられた食器辺が賑やかに音を発する。

 そのキッチンの先には扉がありそれにも弾痕が残っていた。

 散乱物を踏みつける賑やかな音と緊張により高鳴る心臓の音がシドを支配する、それ以上にこの先でもしクレハートが倒れていたらという不安も彼に圧し掛かっていた。

 時間をかけてゆっくりと歩きなんとか他の部屋に繋がるドアのところまでくると裏口から入ってきた時のように一度深呼吸してから身を乗り出した。

 その部屋はキッチンの三倍ほどの広さで壁には弾痕が同じように走る、違うという点では壁の至る所が赤く染まっているということだ。

 床には絨毯らしきものが引かれているが壁よりも赤く染まりその上や周りは家屋の破片や薬莢が散らばっていた。

 この赤い物は血液で間違いないのだろうがそれの元になったもの、つまり遺体はその部屋に存在していない。

 それでも血生臭い臭いはその部屋に立ち込めシドの嗅覚を刺激し続ける。

(遺体はどこに行った?まさかこれだけ血を流して生きている訳じゃないだろ)

 そう考えた直後クレハートのことが頭を過ぎりそれと同時先ほど自分が思ったことを頭からかき消す。

(アイツだったらこれだけ血を流しても大丈夫、か?)

 ひとまず最悪の状況を考えないようにしてからシドはその部屋の中心へと歩き出す。




 厚い雲に覆われた空、そろそろ雨が降り出そうとしている空のもとエルトの気持ちも同じように淀んでいた。

 シドに言われたことや彼が民家の中に消えてしまったことで彼女の心は不安で押しつぶされそうになっている。

(逃げろ、か……)

 確かに自分一人が加わったところでどうにかなるような状況ではない。

 クレハートの安否はわからずシドもいない、敵兵も一人いなくなったことはわかっているが残り五人が生きていることに変わりはない。

 そんな中で自分ができることは何か?

 考えてみればこれまで自分は彼らの行動に付き合わせてもらってきた、それは我儘。

 一国の姫という立場を捨て一人の人間として自分の人生を決めることに喜びを見出した。

 でも彼らからすれば私の存在などあってもなくても関係のないようなものだ。

 戦力になる訳ではなくだからといって超宝石に特別な知識などない、人数合わせどころか時には邪魔にすらなる。

 それが今だ。

 私は彼らにとって何の価値もない。

「私がいなければ、もっとスムーズにことが進んでいたよね」

 三角座りの彼女は深く溜息をついてから顔を伏せた。

 当然落ち込み真っ最中の彼女は”それ”が近づいてきていることなど予想すらしていなかった。


栃木の人大丈夫でしたか?

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