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廃墟戦 Ⅳ

宿場横の一軒家には裏小屋がありここがシド、エルト、クレハートの合流地点になっている。

 シドは手筈通りシャトルバイクへの妨害工作もすでに済ませてあとの二人を待つだけなのだが現れる気配がない。

 シドが使用するであろう拳銃から弾倉を引き抜き残弾を数えている時銃声が鳴った。

 驚きながらも身を引き締める、狙われているのは自分なのか?という焦りが冷や汗となって流れる。

 ただそれは思い過ごしで実際は目の前の家屋の中で銃撃戦は始まったようだ。

(作戦通りなら二人ともこっちにくるはずだろ……?)

 普段から作戦通りなんてことは少ない、石を持つ者を探す旅時だって獲物を捕らえる時だってそうだ。

 それでもこういう時くらいは上手く行ってほしい、そもそも自分達の命がかかっているのに。

 しかしその声は相棒に届きそうもない。


 少しだけ顔を出し目の前の屋内で起こっている銃撃戦を外から様子見していたシドの視界にエルトが入った、彼女は一軒家の裏口から出ると必至な表情でシドのいる小屋まで走ってくると中に入らず裏手まで回った。

 息を切らしながら逃げてきた彼女の目にシドが入るとエルトは大きく息を吐いて彼の傍に座った。

「ちょっと、作戦と違うと思うけれど?」

 少し嫌味ったらしくシドは話しかけた。

「はぁ、はぁ……宿場の、裏口から、出ようとしたら……」

 彼女は手の平をシドに向けちょっと待ってほしいというジェスチャーを交えながら息を整えて再度喋り始めた。

「……宿場にいると外で凄い光と耳を劈く音が聞こえた瞬間クレハートさんが私達を監視していた兵士の人を思い切り殴りました。

 その人はすぐ動かなくなって驚いている私の手を握ってクレハートさんはそのまま裏口へ向かったのですが扉の隅に四角い箱がありまして」

 彼女が手で表す大きさと形カラシドはある兵器だと見抜いた。

「クレイモアのことか?地雷の?」

「そうです!それです」

 彼女はジェスチャーがうまくいったことに少し得意げになりながら続きを話す。

「それで解除の方法もわからないのでそのまま二階に上がることにしました。

 いつ敵兵が入ってくるかもわからないので急いで駆け上がりまして二階の階段の窓から横の民家の屋根に降りたんです」

 その話を聞き終わってからシドは作戦通りにいかなかった理由がけっして相棒の暴走ではないとわかり大きく息を吐きながら頭を搔いた。


「その後クレハートさんの足元の屋根が抜けてしまってそのまま落ちていきました。

 それから銃撃戦になって私は何とか降りれるところを探してここまで辿りつけたということです」

「つまりアイツがあの中で暴れてるってことか?」

「そういうことですね、でももう終わったみたいですけど」

 二人の会話が終わる頃にはけたたましい銃声もしなくなっていた。クレハートが負けることはないので恐らくは勝ったのだろう。

「勝負が着いたみたいですし行きますか?」

 シドも彼女に賛成し立ち上がろうとしたがすぐに動きを止めた。

「どうしまし「静かに」

 彼女の言葉を遮りながらすでに立ち上がっている彼女の手を引き座らせた。

 妙な静かさがシドを足止めさせる、それはまるで虫の知らせとでもいうものだろうか。

 何かが動く音も話し声も聞こえない。

「……クレハートさん遅いですね」

 エルトの言葉に適当に相槌を打ちながらシドは先ほどまで騒がしかった民家を見ていた。




 この世界に猛獣と呼ばれる生き物は山のように存在する。

 特に石を持つ者と言われる生物群は人一人どことろか軍隊でないと対処できない者も存在するのだ。

 それらの生き物を殺すことは捕らえるよりも簡単である、ただし捕らえるとなればそれ相応の武器がいる。

 目の前にいる若い男は不思議な生き物だ。同じ人間という括りの中に存在はしているが明らかに自分達よりもかけ離れた生き物である。

 その証拠が彼の背中に無数に突き刺さる小さな瓶だ。

 先端には鉄すら穿つと言われるほどの硬度のある特別な合金製の針がセットされおりその後部にくっついている瓶の中には猛獣を眠らす麻酔液が入っている。

 それを特殊な銃で撃つことで相当な強度を持つ生き物でも捕らえることができるのだ、それが彼のような人間であっても。

「よく眠ってるな、効果は抜群ということか」

「しかし、捕らえることができなければこちらの被害はもっと膨らんでおりました!」

 真っ赤なシャトルバイクの傍に三人の兵士が立っている、その足元には一人の人間が鎖で巻かれた状態で倒れていた。

「わかっている、確かに三人の仲間が犠牲になったことは悔やまれることだ。

 それでも命令の完遂こそ我々の任務だ」

 老人は諭すように一人の兵士に投げかけた、その兵士は迷彩服を真っ赤に染め涙を流している。

「この任務が終われば三人を手厚く葬ってやろう、だから今は任務に集中しろ」

 涙を流す兵士の肩を叩きながら老兵は語った。

 

 老兵が宿場を裏口から出ようとした時すぐ隣の民家から銃声が聞こえた。それと同時に彼は入ってきた宿場の入り口から隣の民家に向かって走り出す。

 民家内から途切れない銃声が鳴り響き今この空間に部下の仇がいると本能が動く。

 手に持っていた拳銃を腰のホルスターに戻し背中にかけていた銃を構える。

 形は銃身のない大きなリボルバーのようであり銃の先端に六つの筒が装着されている。

 彼はそれを両手で構えると慎重に歩きだした。

 この民家に二階はないのでこの一階だけしかない、敵が逃げなければ早いうちに接触するであろう。

 家に入ってすぐ廊下があるがその先の部屋から兵士の悲鳴が聞こえた。

(!!)

 老兵は足早にその部屋まで赴く、まだ銃声が鳴っている以上生きてはいるはずだ。

 薬莢が散らばる廊下を抜け奥の部屋の前で止まる、銃はすでに安全装置が解除されいつでも発砲できる状態。

 息を飲み廊下の陰から躍り出る。


 部屋の中央に目的の鋼の男、クレハートが居た。

 それは異様な気配を持っておりこれまで出会った人間、凶悪犯や敵国の兵士とは似ても似つかない。

 クレハートは一人の部下の首を掴み持ち上げていた、部下は足が届かない高さまで持ち上げられ苦しさのため必至に抵抗しているが意味はないようだ。

「その手を離せ!」

 その声の主は更に部屋の奥にいるもう一人の部下だった。

 ライフル銃を構え必至に鋼の男に命令するが当然それに従う素振りなどクレハートにはなかった。

 老兵はほぼ悩まず引き金を引く、しかしそれは他の銃声とは違いどこか気の抜けた音だ。グレネード弾を発射するような音。

 それと同時にクレハートの背中に六本の瓶が刺さる。不思議に思ってか彼はこちらを向くが老兵は直感で危機を感じ銃を投げ捨て廊下へ飛び出す。

 廊下を駆ける老兵の後ろをクレハートが追う、掴んでいた兵士を投げ捨て部屋から逃走した老兵の後を追い廊下へと駆ける。

 目をやると目の前で老兵が廊下で転んでいた、自分を見る目は恐怖に歪んでいる。

(自分達に関わらなければ死ぬこともなかったのに)

 そう思いながらクレハートが踏み出したところで彼の視界がぼやけ始めた。

(何だ……これ)

 視界はぼやけ体中から力が抜けて行く、壁に手をつきなんとか踏ん張ろうとするものの力が抜け壁にもたれ掛かりクレハートは倒れた。

 目線の先には立ち上がり笑顔の老兵が映る。

 それからすぐクレハートは記憶を失った。

 


はたらきたくないでござる

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