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七つ色の街 エーテフ

”七つ色の街 エーテフ”


 この世界で一番大きな大陸ヌーテリオの南に位置する宝石街。

 世界の宝石の約半分がこの街にあると言われ沢山の宝石商や幸福探求者、そしてその活気を下支えする様々な業種の人々が暮らしている。

 当然その宝石を目当てに悪巧みを考える者もこの街には多く存在するのだが彼らを取り締まる組織も存在する。

 富と欲と宝石の渦巻くエーテフにクレハートとシドは昨日到着していた。




「どうすんだよシド、二百五十どころか二百にもならなかったじゃないか」

「知るかよ!まさかあのメルセブンがギリギリSサイズ認定されてしかも傷ありとまで言われたんだ! あの宝石商許さん!」

 畜生!と言いながらシドはジョッキに半分ほど残っていたビールを飲み干した。

 その机の向かい側にいるクレハートは机にうつ伏せになり先日手に入れた超宝石の買い取り額があまりにも少なかったことに意気消沈していた。

 彼らがいるのは小さな飲食店、まだ昼間だが飲まずにやってられないというシドの一言で酒盛り兼労わり会が行われている。

 先日手にいれた超宝石メルセブンの買取価格が予想よりかなり低く必要経費を差し引いた後彼らの手元には二十万ノル(noll)しか残らなかった。

 この金額ではこの街に長居はできない、すぐさま次の獲物を求めてこの街を出なければならないのだが”情報屋”から一報がないので動けないでいた。

「本当なら一人四十万ほどあったはずなのに」

 うつ伏せだったクレハートは机上にある安い料理の中から小さな揚げ物を摘むとそれを頬張る、本当ならもっと高級な食事をとることができたという気持ちが食べ物の味を濁す。

「それは俺が悪いと言いたいのかな、クレハート君?」

 宝石商の鑑定では僅かに付いていた傷が致命傷だったらしく宝石の価値を下げてしまったらしい。交渉してみたものの結果は無駄であった。

「一発で決めようとするからだ、下手糞」

「なぁにぃ!?」

 店の中で始まった口喧嘩は大きくなり店中に広まっていく。周りの客も見てみぬ振りをしながらも興味はあるようだ。

 ガタン、と大きな音を立ててシドが椅子から立ち上がる。酔いの手伝ってその勢いは迫力を増す。

「おめぇこそチンタラ走ってる暇があったらあの化け物の頭から核を取って来いよ!」

 その言葉を聞いてクレハートも立ち上がる、こちらは未成年なので酔ってはいないが負けん気は人一倍だ。

「どんな奴が石持っていようと毎回突っ込むこちらの気持ちにもなってみろよ、このクズ。お前は引き金引くだけでいいんだから宝石に傷がつかねーように撃てよ」

「上等だよお前!店の前に出ろ!」

「お前こそさっさと行け、このクズ」

「クズクズうるせーんだよ!」

 シドが先に店を出る形で二人は日中の大通りに踊り出る、口喧嘩は終わっておらず通行人達も喧嘩が始まったと思い立ち止まる者も現れる。

「そもそも誰が毎回毎回運転してやってんだと思ってんだ?あぁ?」

「運転させてやってんだよ、それとも俺が運転してあのシャトルバイク事故ってもいいと思ってんの?」

「ふざけんじゃねーよ!脅しか!」

 二人の口喧嘩は勢いを増し誰もが一食触発を予期していたが思わぬ邪魔が入った。


 遠くから聞こえるサイレンがその場に居た人々の関心を引く、それはクレハートとシドも例外ではなかった。

 そのサイレンはどんどん彼らのいるところまで近くなりそれが視界に入った。

 真っ黒なシャトルバイクが大通りの左側から彼らの方へ現れそれを追跡する警察のシャトルバイクが三台続く。

 スピードを緩めない黒いシャトルバイクは勢いを落とさずそのままこちら側へ、追跡する警察のサイレンは町並みに響き迫力が増している。

 通りの中央線をなぞるように走るシャトルバイクは行きかう他のバイクとすれ違い、一般車はそれを避けようと端へ端へとハンドルを切った。

 黒いシャトルバイクが一般者が避けてくれるのをいいことにスピードを緩めず走っている途端少し遠くに目の前に一人の男性が現れた。

「なんだあのガキは?」

「ひいちまえ!」

 車内にいる犯罪者達は彼のことを何とも思わなかった、今は後ろから追ってくる警察をいかに撒くかが重要なのだ。

 アクセルは緩められることなく踏まれ車体のスピードは更に上がる。

 それを見ていたシドは独り言を喋った、「さよならクズ共」と。


 黒いシャトルバイクの先に立っていたのはクレハートだった、彼は臆することなくその犯罪者に天罰を与える気で中央線に立つ。

 誰が見てもその男性がひかれるの明白なのだが彼の”能力”を知っている者にとっては余興とでも言えるだろうか、その瞬間を待っていた。

 どんどん近づく両者の差、それを本人達も自分の勝ちだと思い込んでいる。そしてその瞬間は訪れる。


 鳴り響く轟音、金属が一瞬にして曲がり粉砕される音。

 五メートル近くの車体が一瞬で五分の一程度まで圧縮された、まるで鉄よりも硬い柱にぶち当たってしまったかのように。

 誰も動かない、いや動けない。そんなことがある訳がないと、自分達の感性ではありえないことが目の前で起こると人間は誰しも一瞬なり思考が停止するいい例だった。

 そんな人々の中から数人の拍手が聞こえる、その拍手をし始めたのはクレハートのことを理解している人物。

 シドは勿論のことスーツの男性や小さな女の子、夜の仕事をしているような格好の女性までもが賛美の拍手を送る。

 その数少ない拍手の中元々シャトルバイクであった塊が動く、それはこの状況を作り出した本人クレハートだった。

 自分を包み込むようにぶち当たり変形したスクラップを手で押す、するとそのスクラップはまるで重機に動かされるように動きクレハートを開放した。

「いつ見ても”鋼人”はすごいな。今回も助けて貰ったな」

「あいつの自己満足だ。それより何かしら”お礼”はあってもいいと思うのだけどさ」

 シドに話しかけたのは黒いシャトルを追跡していた警察の一人だった、ふくよかなな体系は浅黒くサングラスがアクセントとして日光を浴び輝く。なんとか着ていると言えそうな警察の格好をし右胸のポケット付近には幾つかバッジが付けられていた。

「”お礼”はあるだろうな、まぁ俺達じゃないが。あの強盗共がかっぱらったのは『オリュースン』の店からだぞ」

「!!……それならちったぁ期待できそうだな」

 警官の言葉にシドは嬉しそうな声を出した、先日の仕事で今ひとつだった稼ぎに上乗せが出来ることを期待してしまう。

 彼らの目先では警官とオリュースンの手先であろう人物がスクラップになってしまったシャトルバイクから荷物を運び出していた、そこには少し前まで生きていた人間の亡骸があるのだがそんなものどうでもいいように宝石が入っているであろう袋や箱を別の車に積んでいく。

 手先の中の一人はクレハートに何度も頭を下げながら彼に厚い封筒を手渡した、それが何か中を見なくてもわかっている彼はいつも通りの無表情なまま一度お辞儀してシドの元へ向かって歩き出した。




 二人の喧嘩はシドの無条件降伏によって幕を閉じた、クレハートの持っている封筒の中身を聞いた彼は潔く土下座までした。彼にとってのプライドは必ず金以上にはならないのだ。

 厚い封筒の中身はさすがにこの街三大宝石商の一人オリュースンだけあって納得の内容だった。

 この”お礼”を知っているだけあって強盗犯などがこの街から逃れる確率はということは限りなく低い、もし今回のようにクレハートが強盗犯から宝石を奪い返せなかったとしても他にも沢山いるのだ。クレハートの働きに拍手をした数人の内ほとんどはその類である。

 クレハートも警察が追っているというだけで今回のような行動を起こしたわけではない、この街で数年住んでいることで自然と強盗犯だとわかるようになっていた。

 

 彼らは今一軒の宿の前にいる、この街に戻ってくると必ず泊まる宿。言ってみれば家のような所だ。

 宿はけっして大きくないがどことなく極東地方の風情がある、玄関上の看板には『一輝荘』と書かれていた。

「邪魔するぜー」

 そう言いながらシドが玄関のドアを開け大きめの声で言った、すると受付にいた一人の女性が返事をした。

「おかえり、シドさんにクレハート君」

「ただいま、ロッツェル」

 彼女はロッツェル、この宿の若女将だ。年は十八、黒髪をおさげにしてそれは胸の辺りまでと長い。和服の似合う人物でこの宿の雰囲気によく合う人物である。

「また邪魔するぜ、一応二泊三日で」

「はいはい、でもまた長浸りするんでしょ?」

「そこは情報屋の頑張り次第だからなぁ」

 彼女はシドの言葉に笑いながらパソコンの画面をタッチしながら受付を済ませ彼らを部屋へと案内する。

 玄関で靴を脱ぐという風習に最初クレハートもシドの慣れなかったがいつの間にかそれが当たり前のようになった、むしろ習慣とは怖いもので時折別の宿でも同じように靴を脱ぎかけ店員に変な目で見られることもある。

 二人揃って大きな旅行鞄をを担ぎながら受付奥の階段をロッツェルの後を追い上がっていく、階段を上りきったあと一番奥の部屋まで行き彼女がドアを開けた。

「久々の我が家はいいもんだな」

 シドの言葉に彼女は小さく笑う、毎回同じようなやりとりをしている二人を横目に着替えだけ持ってクレハートは部屋を出て行く。

「やっぱり彼はまっさきにお風呂に行くのね」

「ここの風呂だけはアイツ長いんだよな」

 そう言いながらシドは椅子に座りサングラスを外した。

「ご飯はすぐ支度できるけど?」

「んじゃすぐ貰おうかな、クレハートはどうせ遅いだろうし先に頂くぜ。あ!当然ビールも!」

 彼女は笑いながら部屋を後にする、いつも彼らが帰ってくると賑やかになるこの時間を彼女は嬉しく感じていた。

 



 今一輝荘の前に一人の少女が立っていた。

 彼女は昼間ある人物を見たのだ、自分と同じように一般人には持っていない”変わった力”を持った人物。

「緊張するなぁ……」

 独り言を言いながら彼女は一輝荘のドアを開けた。


 

新キャラ考えてると一日がマッハで終わる

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