廃墟戦 Ⅲ
老人はただただ悔やんでいた、シドが素直に従ったことに何故もっと疑問を抱かったのかと。
結果として目的の物を見つけることができたが取り押さえの”命令”がでていた三人の内一人が逃亡してしまった。
「クソッ!!」
視覚と聴覚が普段と同じように感覚が戻り始めたがシドの時間稼ぎは成功していた。
他の者達も座り込むほどの状態でもないようだがその場から一歩も動くことができないようだ。
(全員の調子が戻れば探し出してやる)
老人の意気込みは兵士としてのプライドも合いまって高まるがそれを打壊すことが起きた。
急ににシャトルバイクのハッチが閉じ始めた、その場にいる全員が焦るが刻々と扉は上下から動き出している。
咄嗟に一人の兵士がその扉に手をかけるが人間の腕力程度では止められるはずもない。
中にいた二人の兵士も驚いて外に飛び出しそれを老人は抑止させることなどできなかった。
ロックがかかる音がハッチの閉鎖が完了したことを告げていた、老人はすぐ様ハッチ傍のボタンを押すがまったく反応しない。
(あの男が持っていたシンカーか……!)
普通のシンカーにシャトルバイクのメイン操作まで行うことができる機能はない、しかし改造していることくらい考えれば思いついたであろう。
「……」
茫然とする老人の前で三名の兵士が懸命にハッチを開けようと奮闘しているがあの厚みがあるハッチを人間の手で開けるなど不可能だろう。
「よせ、もう開くことはない。それよりシドを捕まえろ、くれぐれも殺すなよ」
老人の命令に三名は敬礼で答え駆け出す、老人は宿場に足を向けた。
その時。
大地が轟音と共に震えた、まるで突き上げられたような震動が彼らを襲う。
その場にいた全員が驚きお互いの顔を見合わせた。
「地震か!?」
兵士の一人が言ったが誰もそれに答えれなかった、それは普段の地震のような揺れではないからだ。
「隊長!シャトルバイクの下側!」
一人の兵士が興奮しながら老人に呼びかけシャトルバイクの下側を見るように促す。老人は促されたまま指さされた先を見る。
「!!」
老人はまたまた驚く。
普段のシャトルバイクは車両のエンジンを停止させる時三から四本の脚が車体下側から現れ車両を接地させる。
目の前の真っ赤なシャトルバイクもそうなのだが明らかに脚とは違うものがあった。
それは杭、脚より太く車両の四隅から地面に向かって撃ち込まれている。
先ほどの轟音の正体は紛れもなくこれだと老人は確信した。
「移動させることができないようにか……」
まったく舐めてくれたことばかりしてくれるじゃないか、銃を持つ彼の手は怒りで震えそれは言葉にも現れる。
「殺さなければそれでいい!連れてこい!!」
老人の指示にさきほどのような甘い気持ちはこもっていなかった。
それに兵士達も同調するように三人は駆け出す、彼らは宿場横の民家へ入っていった。
老人は息を荒くしながら宿場へと向かう、シドが反抗するのであればこちらも使えるものは使わせてもらう。
それと同時に腰に装着していた無線機を取り出し独り言のように喋り始めた。
「三人の内一人が逃亡した、お前のところからも探せ。金髪に黒革の服装の奴だ」
「了解」
無線から聞こえた了承の声は女性の声であった。
無線機を腰に戻し老人は宿場の入り口に向け歩く、息は荒く右手の銃は強く握られている。
作戦通りであれば今頃卵を確保し三人とも捕らえていられるはずなのだ。
クレハートとかいう者だけは麻酔薬を利用する手筈であとの二人は問題になどならないと思っていた。
その考えが甘かったのだ。
(シド・ブロセット……まさかここまで手を焼かせてくれるとはな)
金髪サングラスの男には後々十分な礼をさせて頂こう、老人は不気味に笑った。
宿場入り口まで辿りつき彼はノックをしてからドアノブを回し中に入る。
算段としてはネルステラ国の姫君を利用するつもりである、もう一人は麻酔薬で寝てもらっておけばいい。
そんな計画を立てながら室内に入る、散乱した机や椅子に紛れ一人の人物が床に転がっていた。
「……」
咄嗟に銃を構える、気が張り詰め五感がフル稼働しその場の情報を拾い集めて行く。
カウンター、階段、壁際の戸棚、裏口へのドア、それぞれに目を配らせて犯人を捜していく。自分の部下を倒した相手を。
摺り足で歩きながら部屋の丁度中央に転がっている部下の元まで歩き屈む、喉の脈を触るがすでに息絶えていた。
それを確認してから足早にカウンターへと足を進め一度呼吸を置いてから銃を構えた体勢のまま中を覗き込んだ。
(二人は……いない)
すぐに自分が入ってきた入り口に向け体勢を振り向けさせる。
少しの間そのままでいたが人質としていた二人はこの部屋にはいないようだと確認すると部下の元へと戻る。
そこに転がる部下の遺体、その鳩尾の部分は大きく凹んでいた。
防弾チョッキを着てはいるがそれがほぼ意味がないように拳一つ分ほどクレーターのような跡が残っていた。
他に外傷はないので相当硬い物を撃ち込まれたようだ、ただし老人の脳内ではそのような兵器もこのような死に方も記憶にはない。
考えられるとすればクレハートという不思議な体質を持った男だけだ。
(鋼の体と常人を遥かに超える筋力量だったか、化け物め)
元部下の首元からドッグタグを引きちぎると老人は胸ポケットへとそれを仕舞った。
それから少し遺体の傍で黙祷した後彼は立ち上がり裏口へと足を進めた、目元に涙を浮かばせて。
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