廃墟戦
空には厚い雲がかかり今にも雨が降り出しそうな天気だ。
風はぬるく湿気を含み独特な匂いが鼻につく。
その風は使われていない生活感のない小さな村を駆け巡りそこにいる人間たちに同じような不快な気持ちを持たせた。
今この小さな村では銃撃戦が起こっている。
すでに使われていない民家の後ろ、馬小屋であったであろうその影にシドは潜んでいた。
この民家は村の南側に位置しこれの傍には同じような家が左に二件、右側には大きな宿場と思われる建物が一軒建っている。
左端の家の前に集会所らしき建物がありその前に家が一軒、更にその傍には三階建ての細長い建物がある。
この建物群の前を通るようにL字型の舗装されていたであろう道路が走っているがすでに舗装はあちこちが剥げ穴やひびができている。
建物も同じく石壁には亀裂が走りそれを期に壁は崩れている、窓ガラスはほとんど割れ植物の蔓が建物を取り巻き新たな壁のようになっていた。
村の北東から東にかけ小川が流れその向こう側には二階建ての建物が立っている。
シドは天井の藁がほぼなくなってしまった馬小屋の影から頭を少し覗かせ気配を探る、まだ荒い呼吸を整わせながら耳に集中しできる限りの情報を得るためその場で屈み続ける。
(……静かだな、あいつらの声も聞こえねぇ。無事か?)
銃声もなく何かが動く気配や音もない。つまり遠くはわからないにしろ身近には敵がいないと考えられた。
シドは腰に手を回し銃を引き抜く。
それは一丁の拳銃、普段の仕事では護身用として持っているだけで今からしようとしている戦闘でそれほど効果は得られそうにない。
本来愛用している特殊銃はシャトルバイクの中、それも今では自分達を襲ってきた敵共の手の内なのだ。
弾倉を引き抜き数えると二十発程度、呼び弾倉もなくこれと肉弾戦でなんとかしなくてはいけないようだ。
(普段はクレハートに任せっきりだからな)
今この村のどこにいるかわからない仲間のことに今更ながら感謝をする。
しかし今は一人、この状況を打破しなければならないのだ。
シドは両手で銃を握り辺りに注意を向けながら今までの状況を振り返ることにした。
まずこの街に立ち寄った理由は商品の取引を行うためだ。
先日とある卵を手に入れた、その卵は青く輝く竜の卵でシドらとしてはこれを超宝石売買公認協会(通称:協会)に届けることにした。
ただし親元の竜が超宝石を持ってはいたもののこの卵の中身がそれと同じような超宝石を持っているかはわからない。
結果として協会のルートからある金持ちに高く買って頂けることになったのだ。
彼らはその運搬中に山に囲まれたこの村に立ちより一人の老人にシャトルバイクを止められることになる。
「あのおじいさん手を上げてますよ、止まれってことでしょうか?」
助手席に座るエルトは運転席のシドに問う、シドもその老人に気付いていたようでシャトルバイクの速度を緩め老人の前で停車させた。
真っ赤なシャトルバイクが止まると古くなったコートを来た白髪の薄い老人が杖をつきながら運転手側に回ってくる。
老人は運転席側までくると窓をノックし開けるように促す、シドは怪しくも感じながら左手をホルスターの銃にかけながら窓を開けた。
「何か困ってんのか爺さん?」
シドはいつもと変わらない調子で話しかけるが目の前の老人が何物であるか注視し続ける。
「止まってくれてありがとう。
すまないがこの車の荷物、貰えないかな?」
笑顔で話す老人にシドは唖然とする、急に何を言うのだこの老人はと心の中で愚痴る。
「ちょっと意味がわからない、時間がないからとりあえずそこどけよ」
老人に付き合う暇などないのだ、そう言うとシドはアクセルを踏む。
しかし、車体は動かない。
思い切りアクセルを踏み込んでもいつものように車体は動かずその場にあり続ける。
「どうなってんだ……」
このシャトルバイクにはタイヤはついておらず圧縮された空気を排出する勢いで駆動する。
つまり動かないということは空気が排出されていないということだ。
何度もアクセルを踏む困り顔のシドに老人は再度話しかけた。
「何度やっても無理だよ、この車体の下の地面に特別な仕掛けが埋められているからね」
くくく、と笑いながら老人は説明する。それを聞いたシドは一瞬で銃を引き抜き老人に向ける。その銃口は老人の額に触れそうなところで構えられるが老人も同じように銃を引き抜きシドの顎に銃口をつきつけていた。
「死にてぇのか糞ジジィ」
「君こそ死にたいのか?私にはまだ仲間がいるのだよ」
それと同時に左側の宿場の中から武装した人間達が出てきた。迷彩服に身を包み銃や手榴弾で武装している、ヘルメットも被りゴーグルをつけていた。
人数は五名ほどだが体格がよくよく訓練された軍人か傭兵のようだ。
「シド、お前はそいつを何とかしろ。外の奴は俺が潰す」
後部座席で寝ていたクレハートが体を起こしながらシドに話しかけた。
クレハートの能力の前では銃火器で武装した人間であろうと関係ない、しかし今から暴れようとする彼を老人は止める。
「クレハート君、君が暴れるならこの二人には死んでもらうことになるけれどいいかな?」
老人の方を睨むクレハートは彼が手に手榴弾を持っていることに気付くと息を吐き面白くなさそうに席に座り直す。
「懸命だね、君が幾ら強かろうと人質があればどうとでもなる」
得意げに話す老人を見ながら助手席のエルトはふと思った、何故クレハートの能力を知っているのかということに。
「……よくクレハートさんのことを知っておられますね、まるで調べてきたみたいです」
彼女の一言に老人は笑顔で返す。
「彼は有名だからね、当然君達のことも今回の作戦の前に調べさせてもらったよ」
「でしたら私に危害を加えるということはどういうことかわかっているのですか?」
「ですから大人しくしてほしいのです姫様、荷物さえ頂ければ命の保証はしましょう。
ただし歯向かうのであれば”事故”として処分することもできるのですよ?」
エルトは舌戦で勝てないということに気付き口を閉じ俯いた。
「さてシド君、荷物を頂けませんか?」
老人の要求にシドは肯定するしかできなかった。
予定では三話くらいで




