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カフェテラスであなたと Ⅲ

「観光でもしてて、夕方には戻る」

 ベニロンに着きシャトルバイクを下りた途端クレハートはそう言った。

 それを聞いたエルトは自分も墓参りに付いていく気だったのだが「わかりました」とだけ答え彼を見送る。

 二人のやりとりを見ていたシドはエルトに合わせ「ばあさんに宜しくな」とだけクレハートに言った。

 普段とは違い早歩きで去っていくクレハートはあっという間に人混みに消えていった。



 この街に着いたのが昼前だったのでシドとエルトの二人は観光がてら昼食をとれるところを探す、名物が近海でとれる大きな海老だということもありそれを狙って飲食店を品定めする。

 しかしどこもかしこも人が多く結局昼をとっくに過ぎた頃彼らは一件の喫茶店に入った。

「こんなことなら最初の店でよかったじゃねーか」

「嫌ですよ、あんなに汚いお店は。三軒目なら私は良かったと思いましたけど」

「あそこはダメだ、デカい海老のメニューなんてなかったろ」

 二人の意見はなかなか一致せずこのような喫茶店に決まったのは妥協に妥協を重ねた結果だった、

 本来ならクレハートが適当に店を決めてしまうので迷うことは少ないのだがその本人がいないとバランスは取れないらしい。


 注文を聞きに来た店員にシドは名物の海老を使った料理を聞き『当店お勧め』を説明されるとすぐさまそれに注文する。

 エルトもメニュー表を見ながら考えたが結局同じものを注文することにした。

 運ばれてきた料理に舌鼓を打たせ空腹も相まって無言で食べ続ける二人、食後はコーヒーを注文しこの店で休憩していくことにした。

 客としては彼らしかなく店員もカウンターの向こうで夜に向けての仕込みを行っているようだ。

 ここで話は戻る。



「クレハートさんがお墓参りできてよかったなーと思いまして」

 確かにそうだとシドも思う、何より驚いたのはクレハート本人が自ら行きたいと言ったことだ。

 コンビを組んで数年になるがこれまで一度もそんなことを口に出さなかった、だからこの街は好きというより嫌いなものだとシドは思い込んでいた。

 先日エルトとの会話が発端になった今回の墓参りだが彼女が後押ししたからこその結果だと言える。

 墓参りということよりクレハートが昔の自分に向き合うきっかけになったことをシドは嬉しく思った。

(生まれた故郷を嫌いになるなんて寂しいだけだもんな)

 あの日、クレハートと一緒にこの街を出たシドは思い出していた。



 

 

 

 五年ほど前、シドが十五、六の頃。彼は運び屋をしていた。

 運送業などは他にもあるがそういうところでは運べない”規格外”のものを運ぶ仕事だ。

 運び屋はその特性上すんなりと仕事がうまくいくことは少なく銃や情報といったものは必須だった。

 彼がある仕事で立ち寄ったのがこの街、ベニロンだった。


 なんとかタイヤつきの車が走ることができる程度に舗装された道を一台の黒い車が走っている。

 箱型をした大きな車はほとんど窓がなく変わりに鉄板があちこちに貼られそのどれもに弾痕がつけられていた。

 洗車も長い間されていないのかそれともこの道中汚れてしまったのか、黒い車体の下半分は茶色く汚れ木の葉のようなものがへばりついている。

 社内もけっして綺麗ではなくゴミが溢れ脱ぎすてられた衣服が座席を占領している、床にはそれら以外に弾薬や薬莢も少なからず転がっていた。

 運転席に座るシドは今とほとんど変わらないが灰皿に詰め込まれている吸い終わった煙草が彼が喫煙者だということを証明している。

 けっして平坦ではない道を走る黒い車がベニロンに到着したのは日が昇り始めた早朝のことだった。



「ようこそベニロンへ!」

 早朝から元気がありふれている検問所の役員に促されシドはベニロンに入る。

 遠くからでもわかる大きな闘技場を横目に車を走らせ市街地には入らず川沿いの駐車場に駐車する。

 車内の時計に目をやると七時を回った頃、ベニロン闘技場での約束は十三時からなので時間には余裕ができる。 

 彼は電子端末シンカーを取り出すと慣れた手つきで操作を始める。

 まず車内のロックが一斉にかかり窓全体に天井からせり出した鉄板に覆われていく、その後も幾つか機械が動作する音が聞こえてから彼はシンカーを助手席に放った。

 両手と上体を伸ばし大きな欠伸をする、関節か骨かが音を鳴らし彼の体から力が抜けていく。

「……寝るか」

 シドはそう言いサングラスを外し運転席の椅子を倒す、すると即席のベッドになり彼はすぐに夢の中に入って行った。



 十一時頃シドは目を覚ました、約束まではまだ時間があるがここからベニロン闘技場までの距離や朝食兼昼食などを考えるとあまりゆっくりもしていられない。

 助手席のシンカーを操作し車外の状況を確認しながら口に咥えた煙草に火をつける、問題がないことを確認してから彼は車を走らせた。

 闘技場に近づくにつれ渋滞が酷くなっていく、この街はそれほど混むことはないと思っていたが道路傍のポスターを見ると納得した。

 そのポスターからベニロン舞闘会が始まっていることが記載されていた、今日は大会が始まって七日目であり大会終了まではあと三日あるようだ。

「仕事が終わったら覗いてみるかな」

 車内でポツりと喋りながら渋滞を進んでいく、灰皿からタバコが溢れ床に二つ三つ落ち始めた頃ベニロン闘技場に到着した。

 


 時間はすでに十二時半を周り約束に間に合わない可能性が出てきた、運び屋である以上荷物の受け渡しに失敗すると命の危険は高くなる。

 敵対組織から狙われ請負元からも狙われるのだ、それだけは何とか阻止しなければならない。

 地下駐車場から階段を駆け上がり闘技場観客席の指定席へと急ぐ、途中缶に入ったビールを買い観客席へと踏み込む。

 そこは最上階、見晴らしはいいが舞闘会自体はほとんど見えない、双眼鏡でもないと楽しめないだろう。

 シドはそう思いながらも会場の熱気の中指定席まで走る。

 通路にいる立ち見客をすり抜け指定席のところまで行くとその席の傍に一人の女性が立っているのが見えた、こんなに熱気に包まれているのに顔色一つ変えず闘技場のステージを見下ろしている

 格好は派手ではないがやたら露出が多い、シドは夜の仕事をしているようだなと勝手に推理しながら指定席に座った。

 買ってきた缶ビールの蓋を開け喉を鳴らし飲む、階段を駆け上がってきたこともあり喉を流れる炭酸に何とも言えない満足感を得る。

 それからステージ上に目をやり戦っている参加者の勝負を見る振りをしながら実際は闘技場に備え付けられた時計に目をやる。

 腕時計をしてはいるが今ここで見ることはできない、自分から『運び屋ですよ』と言う訳にもいかないからだ。

 時間は十三時まであと一分をきるというところ、約束の時間に間に合わなかったことを考えるとあの渋滞が全て悪いとシドは思った。

 二口目のビールに喉を鳴らした頃隣の席に誰かが座る、顔は見れないが横目で見た感じ黒いスーツを着た男性のようだ。

「あなたも大会を見にこられたのですか?」

「えぇ、根っからのファンなんスよ」

 突然隣のスーツを来た男性がシドに話けてきた、シドは内心驚きつつ嘘で返す。

「そうですか、私は別にファンって訳でもないのですがちょっと用事がありまして。

 何と言ったかなぁ、『亀と踊る』『赤い熊』見かけませんでしたか?」

「……私が見たのは、『亀は青い熊』と踊ってました」

「……見間違えでしたね、すいません。『よくわかりました』

 どこで見たか教えて頂けますか?」

 シドとスーツを来た男の不思議な会話はシドが街中にあるとあるロッカーの場所を伝えたことで終わった。

 男は立ち上がるとそのまま去って行く、シドを挟むように隣に立っていた露出の高い女性も男を追うように去って行く。

「俺が偽物だったらどうなってたことやら」

 独り事を言いながら残ったビールをシドは飲み干した。

 

早稲田負けたぬん…

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