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カフェテラスであなたと Ⅱ

『ベニロン』

 ヌーテリオ大陸の東側に位置する街、大きな円形の闘技場が街の中心部にあり腕に自信のある者達が集う場所。

 そんな彼らをスカウトするために様々な傭兵組織が街のあちこちに支部を持つ傭兵のメッカである。

 街には宿泊施設、飲食店が多い代わりに子供の養育面を補助する施設は必要最低限しかない。

 ある意味大人の街でありながらも心は子供な人間が集まるとも言われる変わった成長をした街だ。

 


 ベニロン闘技場の傍にある喫茶店にシドとエルトは来ていた。

 いつも通り金髪のオールバックで黒革の服に身を包み椅子に座るシド、彼の足元には愛用の特殊改造銃スクリームが机の脚にもたれかけてある。

 机を挟んだ反対側にはエルトが座る、服装はいつも通りだが黄色のカーディガンは脱ぎ膝の上に置いている。

 店内は二人きり、傍から見ればデート中だがそこのもう一人の仲間の姿はない。

「さっきから何ニヤニヤしてんだ?」

 サングラス奥の瞳に映る対面の女性がさきほどからずっと笑顔であることに少し疑問を持ちながら尋ねる。

 聞かなくてもなんとなく理由はわかるのだがそれでもコーヒーの啜る音しか聞こえないこの空間に嫌気がさしていたこともシドを後押しした。

「クレハートさんがお墓参りできてよかったなーと思いまして」

 心底嬉しそうに話す彼女の表情に心の中では同意しながら何故か表情を変えないシドだった。

 彼らが、いや、正確にはシドがこの街に来ることになったのはクレハートとエルトに頼まれたからだ。



 エーテフにて買い物帰りの二人を喫茶店で待たせていたシドが予定時間に大きく遅れて到着したあの日である。

 情報屋ミミティコとの情報交換に時間を経つのを忘れていたシドが彼の元を発ったのがすでに約束した時間をとうに過ぎていた。

 急いで愛車の真っ赤なシャトルバイクを走らせ仕事に必要なものを買っていてくれた二人の待つ喫茶店に着いた時シドは驚くことになる。

 日もすっかり沈んでしまった頃、道路交通法に引っかかりそうなスピードで待ち合わせ予定の喫茶店に着くと二人は外にあるカフェテラスに居た。

 彼らの周りには買い物したであろう品々が無造作に置かれておりシドは自分があまりにも遅いので怒っているのかと感じた。

 道路傍でシャトルバイクを停車し降りる、日も沈んだこともあり日中より幾分涼しく感じた。

 道路と歩道を遮る背の低いポールにかかるチェーンを跨ぎ二人に近づく、悪いのは自分なのだからと口角を上げできるだけ笑顔で話しかけた。

「いやー悪いね、遅れた遅れた」

 あははは、と付けたしながら二人の反応を見る。

(……無反応か)

 こちらをちらりとも見ようとしない二人に次の対応を考える。

(平謝りか?土下座か?……いや、遅れたくらいで土下座はやりすだろ)

 頭の中で対応を考えていると急にクレハートが勢いよく立ち上がる。

「シド、お願いがある」

 こちらを向いて真剣な目でクレハートは喋る。

「はい!」

 それにシドは敬語で答えたがこれは本人の意思と関係なく体が勝手に動いた。

「……ばあちゃんの墓参りがしたい」

「……」

 一気に声のトーンが落ちた彼の言葉と出会って以来聞いたことのないお願いに思考が一瞬止まる。

 それにつられ返事も出なかったがシドの対応にエルトが怒った。

「おばあさんの墓参りに行っちゃダメなんですか!?」

「いや、そういう訳じゃないよ!?」

「クレハートさんの大事なおばあさんの墓参りなんです!」

「待って待って!」

 鼻息荒くまくし立て荒れ狂う闘牛のような彼女を落ち着かせる、たぶん角があれば一突きされているかもしれない。

「お墓参り大事だからね、俺もそれは行ったほうがいいよ。ただなんでそんな話になったのか教えて欲しいかな……?」

 すぐにエルトから猛追されそうな気がしたがどうやら大丈夫なようだ、彼女が喋る前にクレハートが口を開いてくれたからだ。

「エルトに俺とシドがどうやって出会ったか聞かれたんだけど、それがばあちゃんの話になって……」

 クレハートの説明に時折エルトが合いの手をいれながら今までの状況を説明した。

 シドもその老婆のことは知っているようで快く承諾する、しかし一つ疑問があった。

「よくわかった、俺もお前を引き留めたりしねぇよ。

 ただ俺も着いていくのか?」

 シドの言葉に二人は不思議な顔した、その表情はシドが何を言っているのかわかっていないようだ。

「当たり前じゃないですか、誰が運転するのですか?」

 エルトの隣で頷くクレハートを見ながらシドは自分の価値を改めるのだった。

(あぁ、俺は運転手として必要なのね)


 

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