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あちこちで呻き声や悲鳴のような、もはや動物の言葉のようなものが響いていた。そして、それが途切れると笑い声が聞こえてくる。人を見下すような、人を不愉快にするような笑い声だ。そして、呻き声が、悲鳴がさらに大きくなる。それの繰り返しだった。
どれだけの時間が流れたのかも分からなくなり、さらに意識が遠くなった時、ふいに笑い声が止んだ。
――急げ。
そして、唐突にそんな言葉が耳を打った。どこから聞こえているのかも、よく分からない声は急かすことを止めなかった。
行け、と高圧的に呟かれる言葉は、けれど、決して不快な気持ちにはならなかった。
気付くと身体が動いていた。勝手にどこかへ向かって走り出す。体中に走る痛みに呻きながら、それでも足は動き続けていた。
そして、どこかに辿り着いた時、意識を失っていた。そして、再び目を覚ました時、またもやどこか分からない景色の中にいた。
やがて時は流れ、過去を考える余裕ができて、そこでやっと、家族を失ったことに気が付いた。その瞬間、心に芽生えたのは悲しみでも痛みでもなかった。それは、怒りだった。その怒りは復讐心へと変わっていった。
そして、その矛先はあの時の声の主に向かった。命の恩人だろうと、あの家に関係する者と見なし、ひたすらに求めた。存在するかも分からないものを、当てもなく探し回った。決して心内は見せず、信頼を寄せているわけでもない仲間たちとともに、各地を動き回った。
そして、ついにそれらしき場所を発見したのだ。
こんな機会を逃すはずもない。もとより、目的はそれだったのだから。だが、まだ動くわけにはいかない。逃げられたら終わりなのだ。それに、紅家が出てくればそれは確実となる。
里の近くを根城にした後は動く時を待って、思惑を巡らせた。そして、すべてが終わった後のことを思って、ひとりほくそ笑んだ。
やっと、望みが叶う。
男は闇に浮かぶ月を見ながら、手にしていた盃を傾け、笑った。かつての同胞たちのように、聞く者も見る者も不愉快にさせるそれで。そして、心から愉快そうに呟いた。
「――やっと、見つけた」