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「……俺が思うにそういうとこの方が危ないと思うんですけど。どっかの犯罪者が混ざってたらどうすんですか」
「あそこの里長は、そんな輩を置いておくような人ではない。信用できる者しか受け入れないからな。だからこそ、あの里の人々の絆は強い」
「でしたら余計、外部から手を出したらまずいのではないのですか?」
「ああ、余計なことはするなと警告された」
不敵に笑った梨淑の言葉に、李絳と李遊は絶句した。まさか、紅家の当主に真正面からそんなことを言う人間がいるとは思わなかった。これには二人とも同意見だが、込められた感情はそれぞれ違っていた。李遊は呆れ、李絳は逆に感心している。
ふと、疑問に思って、李絳は父を見る。
「でも、なんで警告されんの?」
「そこの人々の警戒心は強いんだ。紅家の人間だからと簡単に受け入れる人間はいないだろうな。――それより、話を元に戻すぞ」
李絳はなんだかはぐらかされた気もしたが、とりあえずは口を閉じた。
「――二月前、異変に気付いた彼らが里周辺を調べた時、里の北西にあたるところで奴らを見つけたらしい。以降、彼らは里の出入りを禁じ、警備を強めているそうだ」
「何を目的に奴らはそこへ? それこそ金目のものなんて……まさか――」
「藍家の生き残りが目当て……?」
李遊が訝しげに眉間にしわを寄せると、李絳が堪えられずに続きを口にした。
「さあな。ただ、一年ぶりだ。今度事を起こしたらどこまで被害が出るか分からん。しかも今回は、奴らに奪われてはならない方がいる」
その言葉に李絳と李遊は顔を合わせた。口に出したのは李絳だ。
「仮に藍家の生き残りが目当てだとして、なんで生き残りがいることを知ってるんです?」
父たちが隠しているなら、知る術はないに等しいはず。
思いもよらない事態に、李絳がうろたえていると梨淑が溜息をついた。
「五十年前、藍の里から命からがら逃げてきた者がいただろう。藍家に仕えていた人間だ。我らに藍家の異常を知らせた後、その男は姿を消した。あの方の存在を知っている可能性もある」
「……他に知っている者は?」
「私と晴燕、それに雅楽を始めとした信頼の置ける数人だけだ」
この父が信頼の言葉を強調するからには、本当に信頼できる者たちだ。
「これ以上、犠牲を出さないためにも奴らをここで押さえる必要がある。間違っても、藍家の人間を渡すわけにはいかない」
「……ですが、色家にはどう説明するつもりですか?」
確かに、一度問題になっては隠し続けることは難しい。だが、この紅家に連れてくることに、彼らは納得するだろうか。
「もう既に使いを向かわせた。数日中に彼らの耳に入るだろう」
ーーーまぁ、大した動揺もないだろうがな。
梨淑は小さく笑みを浮かべつつ、その言葉は伝えない。
「……分かりました。ですが、俺はまだ納得してません。危険だと判断したら、迷わず手を下します。――ということで、李絳が行きます」
最後に溜息をついて、顔を上げた兄の言葉に、李絳は一拍置いて情けない声を上げた。
「――はぁ!? なんだよそれ! 二人で行けってことじゃないのかよ!?」
「お前、俺には仕事があるんだぞ。普段、お前がやり残してる仕事が。それにお前が言ったんだぞ。相手がどんな人間か知らないまま殺すなと。俺にはその判断を出す時間なんてない。だからお前が見極めてこい」
それとも俺の代わりに仕事するか、と睨まれると言葉が出なかった。顔をしかめて父をみると、こちらも面白そうに笑っている。
「そうか。――では、李絳。二、三日中にここを発て。蘇芳と、そうだな。お前の仲間を連れて行け。それと近くの里に人を置いといてやる。終わった後のことは、彼らに任せろ」
あっという間に話をつけられていくおかげで、李絳はそれ以上口出しできなかった。