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6-7


「ねね、話しかけてみてよっ」

「……お前が話しかければいいだろ」

「えー、だってあの子のことは李絳が任されてるんでしょー?」

「好きで任されてるんじゃねぇし……」


 李絳たちの視線の先で、先日のように子供たちを見送っていた少女のところに総悟たちが走り寄っていく。そして、その総悟たちも少女に手を振って家へと帰っていく。


「……彩蘭っていうのは偽名か?」

「姓は藍だとすればそうだろうね。ーーーおっと、李絳」

「わかってる」


 秀の言葉に蘇芳は頷いて李絳を見る。李絳は言わずとも分かっていたようで立ち上がると少女の元へ向かう。

 少女の後ろーーー小刀が飛来してきた方を警戒したまま、少女の元まで行くと李絳は少女を見た。

 眉を寄せて見下ろしたまま何も言わない李絳に少女も何も言わない。そして、少しすると興味が失せたように李絳から視線を外したのだった。


「李絳ってば、女の子にそれは失礼でしょー? もっとにこやかにしなきゃー」

「てゆーか、今それどころじゃないし」

「あちらさん一人みたいだな」

「……こっちに来るみたいだぞ」


 晶が嗜めるように李絳に言う横で、蘇芳が溜め息をついている。

 歴と秀は木々の向こうを警戒していた。

 李絳は渋々といったように、一人帰ろうとした少女の腕を掴んで止めると歴たちの示す方を見た。

 少女に手を払われるがその場に残るようなので背に庇うように前に出る。その前に歴たちが守りを固めるように身を構えている。

 やがて、彼らの前に一人の男が現れる。


「…………」


 明らかな悪意と殺気に李絳は顔をしかめた。

 その男は李絳たちを一瞥した後、一番後ろに庇われている少女に目を向けた。


「やっと……やっと、見つけた」


 呟かれた言葉には愉悦が混ざっている。


「忌々しいあの一族の血を引く人間を」


 少女だけを見据えて告げる男に、少女は特に何か反応をするでもなく無表情に男を見つめている。

 李絳が、男の視線から庇うように少女の前を塞ぐ。


「……一人で何をしに来た」

「俺の家族を、友を、仲間を殺したのはお前だろう」


 李絳の質問も無視して、男はただ少女に向かって言葉を投げる。男にとっての目的は少女のみだった。

 李絳は男の言葉の意味を一瞬考える。しかし、意味することはその言葉通りのことで、李絳は内心で驚愕した。蘇芳たちも困惑しているようだった。


「あの時、俺が紅家に行くように仕向けた声は女のものだった。里にいた人間は誰一人生きてはいなかったのに、やっと紅家が一人匿っていることを知った。それも、女をーーー」


 男の顔には狂気じみた喜色が満ちていた。


「忌々しいあの一族の生き残りをずっと探していた。奴らのありとあらゆる暴力に何も、何の抵抗もできずに俺の大切な家族も仲間も殺された。あの日の事を何度も思い返す中で、最後は必ずお前の存在に行き着いた。俺たちを虐げていら奴らを殺したのはお前で、あの場にはまともに動ける人間はお前だけだった。ーーー答えろ、女。何故、助けてくれとすがる仲間たちを殺した?」


 男の言葉に、狂気に、李絳は顔をしかめる。男の言葉はとても重要なことなのに、どこかがおかしく思えて仕方がない。まともに話をしているのだろうが何故かどこかがおかしく聞こえてしまう。

 あの狂気を宿す瞳のせいだろうか。

 李絳が嫌悪感を男に抱いたその時、興味が無さそうにその場に立っていただけの少女が溜め息を吐いた。

 李絳は訝しげに少女を振り返って、少女の口から出てきた言葉に絶句する。


「忌々しいあの一族、ね。私からすれば“忌々しいあの一族の血”とやらを引いているのはお前の方だと思うがな」


 男が、その言葉に怒りをにじませる。


「……俺たちは末端も末端だ。あの里に住んでいただけで、一族の名を持っていたわけではない」

「だからこそ、お前たちは出来損ないだったのだろう? 私から見れば、正当な血を継ぎもしないお前たちの方が、お前の言う“忌々しいあの一族”とやらによっぽど相応しいと思うが」

「お前は正当な血を継いでいるとでも言うのか」

「だいたい、感謝してほしいものだな。私はお前たちを苦しみから解放してやっただけだ。助けてとすがるからもう二度と苦しまずにすむようにしてやったのに」

「……っ貴様」

「それにその家族や仲間を見捨てたお前に、とやかく言われる筋合いはないな」


 少女は男の問いに答えるでもなく一方的にそう告げると、男に背を向けた。


「おい、待てーーー」

「俺はお前を許さない! お前を匿うこの里も! 今度は俺がお前の周りのものを奪ってやる!」


 李絳が少女を止めようと手を伸ばすが、後ろからの怒りの声にその動きを止める。

 少女は歩みを止め振り返ると、その顔に笑みを浮かべた。


「勝手にすればいいさ。私はこの里の人間などどうでもいいからな。ーーーお前のかつての仲間たちのように」


 男は少女の不遜な言葉に舌打ちすると、李絳たちに背を向けた。


「ーーーーー」


 李絳たちは男の姿が見えなくなるまで警戒を続けていたが、李絳はその中で少女が小さく呟いた言葉に振り返った。

 しかし、少女は既に踵を返していて、李絳は慌ててその腕を掴んだ。


「おい! お前……」

「私に触れるな」


 思わず怒鳴りかけた李絳が少女の手のひらから流れる血に気付くと同時に、少女によって再び手を払われる。


「私にとって忌々しい血を引くのはお前たちも同じだ。色家の人間も、それに連なる人間も見るだけで吐き気がする」

「……お前はやっぱり、藍家の」

「本当に何も聞かされていないのだな。お前も出来損ないのようだし、紅家はお前を生け贄にでもするつもりか。ーーーまぁ何にしろ色家は潰す。あれが終われば、次はお前たちだ」


 無表情の少女はまるで人形のようでーーーしかしその言葉が、彼女の中の激情を物語っている。

 李絳は結局なんの会話もできないまま彼女の背を見送ったのだった。



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