00
その夜の月は、やけに冴えていた。
物音ひとつなく、遮るもののない月明かりをその身に浴びて、影を作る少女はひとり、そこに立ち尽くす――――。
『……て…、…すけ、て……』
『………て…れ……』
幾人もの叫びが、その場に広がっていた。しかしそのどれもが、耳を澄ませていなければはっきり聞き取ることはできない。彼らの叫びはそれほど弱々しく、だがそれでいてとても強い願いを滲ませている。
季節はまだ春――もうすぐ夏が来る、そんな夜。だがこの場においては、しんしんと空気が冴え込む冬の夜のようだった。
冬に吐く息が白くなるような錯覚を受けながら、少女は小さく息を吐く。
『も……なん…だ…』
『だれか……、…の…む』
『たの、む、から……』
どれだけの時間が経っただろう。目の前に広がる景色は先程からほとんど変わりがない。どれだけ語りかけても、彼らからの反応は乏しい。そして結局、少女の声は、誰一人にも届かなかった。
しかし、そのかわり彼女の元に届いたのは、どこまでも無情な叫び―――。
『―――――!』
―――やがて、少女は堪えきれずに一筋の涙を流す。そしてそれは、一粒の滴となって、こぼれ落ちるのだった。