煙とその効能
私は煙を浴びるのが嫌いだ。風で靡いた煙草の煙が顔に体に纏わり付くのが嫌だ。だから私は煙草を吸う度に風の流れを気にしなければならない。
秋に入り始めたこの季節だが、今日は日差しが強い。図書館前の公園の更に手前、そこに喫煙所がある。ここまで歩く道すがら、私は太陽の光を存分に浴びた。家から公衆の喫煙所までは数分であるが、私は早くも長袖を着て来た事を後悔し始めていた。
暑い。三角柱の形をした灰皿の前に置かれているベンチに座り、ライターを灯し、煙草に火をつける。風下は太陽の方角。煙を受けない為には太陽と向き合うしかない。心の中で軽く舌打ちをする。
大きく煙草の煙を吸い込み、太陽に向かって俯く様に吐き出す。ベンチに背中を預けて空を見やる。やはり日差しが強い。BBクリームが家にあった事を思い出す。今更そのようなことを思い出しても仕方がない。仮にこの日差しを想定していたとしても、歩いて数分の距離の為に準備することはなかっただろう。
1cmほど手前に伸びた灰を、三角柱に備えられた灰皿に落とす。三角柱の高さは地面から一メートル三十センチ程。モニュメントとして設計されたものかもしれない。地面と先端の中間、うろのように開いた空洞に吸い殻を捨てられるようになっている。果たしてこの三角柱は皿と呼べるのだろうか。
煙草を口に近付けてもう一呼吸。今日はどこへ行こうか、などと考えている自分を見つける。こんな良い天気の日は今までどうしていたのだろう、と考えている自分も居た。ようやく外に向かう思考のエンジンが掛り始めたらしい。
まだ残る内向きの思考が「何をしても変わりはしないよ。家に籠ろう」と告げてくる。最後の煙を吸い込む。
私はどちらに従うべきなのだろうか。私は手元まで伸びた灰をフィルターと一緒に灰皿の中へ放り投げた。




