第一話
「今、あなたの隣には幽霊がいます」
そう言って、はいそうですかと信じるやつは何人いるだろうか。
おそらくは0人だろう。いや、間違いなくと言ってもいい。
なぜなら人々には、幽霊なんてものは見えていないのだから。
逸話として語られ、非科学として植え付けられ、不可視として教えられた。
だから、幽霊は見えない。その存在も、認識できない。
こんな風に語れば、まるで「僕が実は幽霊が見えていて、他のやつらとは異質の存在である」みたいな痛々しいことを言っているように聞こえるかもしれない。
安心してほしい。僕はただの平凡な学生だ。違うところと言えば、生徒会長なんてある種特殊で、多く面倒な肩書きを持っていることくらいだろう。
僕が言いたいのは、幽霊は存在するか否かという話ではない。
ただ、見てもいないものは信用できない、と。
ただ、聞いただけのことは疑うしかない、と。
とどのつまり、この学園に纏わる摩訶不思議な事件を、学園長ならびに元生徒会長様に事細かに説明されたところで、僕は到底、そんな話を信じる気にはならなかったということである。
* * * * * *
僕の回想は、約二時間前――放課後の開始時刻にまで遡る。
……放課後になった。
僕は机の中の教科書や参考書の類を鞄に詰め込み、早々に教室を後にした。
本日、生徒会の業務はなし。
僕が生徒会長になってから三ヶ月弱。生徒会は役員同士の顔見せを兼ねた第一回目の会議を含め、未だに五回しか集まっていない。
生徒会顧問である涙条教諭曰く、
「まあまだ一学期だからね。夏休みにでもやるべきことを見つけて、二学期から頑張ればいいよ。それまで生徒会はなしってことで」
というわけで、生徒会長と言っても、暇人同然なのであった。
自慢じゃないが、僕は友達とよべる人間が非常にすくない。別にそれで同情を買おうというわけではない。それは僕の対人能力の低さが招いた当然の結果なのだ。
そしてその当然の結果の結果、僕は部活をやっていないし、こんな暇人な僕と放課後を共にしようなどと言ってくれるような輩もいないわけで。
今日も寂しく、一人で家路につくのであった。
そう。本来、そうあるべきはずだったのだ。
『あ~、ん、んんっ。ん? なんだ、もう入ってるのか?』
不意に、天からそんな声が降ってきた。
天井に設置されたスピーカーに赤いランプが点灯している。校内放送である。
『全校生徒の諸君、久しぶりだな。昨年度生徒会長を務めていた蘭針伊駒だ。先刻、一部の生徒に至急通達すべき事柄ができた。よって次の生徒は生徒会室に集合してくれ。まず、科学部部長。剣道部部長。空手部部長。写真部部長。風紀委員長。そして、生徒会役員四名。以上だ』