目が覚めたなら
短編どころか、それよりも短い話しとなっております。
しかし、楽しんでいただければ嬉しいです。
*訂正*
申し訳ありません、誤字がありました。
できる限りは訂正したのですが、他にもあれば教えていただきたいです。
おはようと、優しく囁く声が、離れていく。まだ、聞いていたいのに。
*** *** *** *** *** ***
「………おはよう」
「君は…?」
目が覚めると、僕は真っ暗な部屋に閉じ込められていた。上も下も右も左も。完全なる闇。その中にぼうっと輝く、光があった。
目を凝らして見てみると、それは少女だった。真っ白なワンピースに、黒い長髪。愛くるしい表情で笑っていた。
「お兄ちゃん、初めまして。わたしはね、メイって言うんだよ。ねえ、遊ぼう?」
「あ、僕は…」
僕が名乗ろうとすると、少女はこちらへ歩み寄り、小さな手で僕の口に手を当てた。ひんやりと、いや、生身の人間としては異常に冷たい手だった。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんのことは分かってるから」
僕は知らぬ間に、メイの誘いに頷いていた。
すると、メイはパッと顔を輝かせ、また愛らしい笑顔を見せてくれた。
「ありがとう、あのね、メイね。遊ぶ人がいなくて、とーっても寂しかったんだ…。だからお兄ちゃんみたいな優しい友達が出来て嬉
しいな!」
「何して遊ぶんだい?ここは暗い。どこかも分からないし…」
メイはうーん、と考えるように腕を組んだ。僕は小さな女の子がこんなポーズをとるのかと思ったが、そのポーズが僕の癖だと気付いた。つまり、メイは僕の真似をしたと言うことだ。
ふっ、と思わず吹いてしまった僕に、メイは微笑んだ。
「あ、お兄ちゃん笑った」
どうやら僕は子供相手に厳しい顔をしていたらしい。僕はメイに近付き、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。そして、少女の頭
を優しく撫でる。
メイは子供らしくにへーっと笑った。
「ね、お兄ちゃん。メイね、お外に出られないの。だから、ここからお外を眺めて遊ぼう?」
「でも、ここは窓が無い」
「ふふ、お兄ちゃんは心配性だね」
「そうかい?」
「うん」
メイはニコニコと笑い続ける。そしておもむろに右手を真っ暗な部屋の壁にかざした。
刹那、まばゆい光が溢れ出す。
*** *** *** *** *** ***
気付けば僕とメイは手を繋いでいた。メイの手は、やはり氷のように冷たかった。
「誰かと手を繋ぐのは久しぶりだなあ」
メイは満足気に言葉を紡ぎ出した。
もうあの真っ暗な部屋ではなかった。僕は何が起きたか、分からなかったが、周囲を見
回すとそこはどこかの草原だと分かった。
「あ、見て見て!お兄ちゃん、あそこに動物の群れがいるよ!」
「お、どれどれ。本当だ。よく見つけられたな」
「えへへー」
しかしこの少女は本当に楽しそうに笑う。
「もう、時間だ…」
「え?」
「別の場所に行こう」
突然何を言い出すかと思う間もなく、次の瞬間、またあの真っ暗な部屋に戻った。
メイは、今度は左手を部屋の壁へと突き出した。
再びまばゆい光………ではなく、こちらを呑み込むかの勢いで流れ出てくる、闇だった。
そこは魔界、という表現が正しかった。二つ頭の化け物が野を駆け、龍が火炎を吐く。
それでもメイは笑っていた。
「………ここに、ここに来るのかな…」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、お兄ちゃん。気にしないで!」
「……………?」
僕は訝った。その笑顔が、メイが初めて見せる、暗い翳りを持つものだったからだ。
「あ、もう帰らなきゃ」
「また、あの部屋に?」
「ううん、違うよ」
その時ばかりは、メイに笑顔は見られなかった。
*** *** *** *** *** ***
僕たちの身体は透けていた。足は宙に浮かび、下を見下ろしている。
見下ろした先にはベッドに横たわる幼い少女の姿があった。
「これね、メイなんだ。ほら、もう酸素マスクも外しちゃって、家族が皆集まって、後は……死んじゃうのを、待つだけなんだ」
僕は言葉を失った。メイは俯き、涙を滲ませている。
「メイ、ずっとここで、独りで、寂しかったから。だからお兄ちゃんにちょっと相手させ
ちゃった、ごめんね」
「そんな………」
……あぁ。
もう、お別れか。
今気付いた。しばらく居ただけなのに、僕
の中のメイは、大切な妹のように 、存在が大きくなっていた。
僕にも涙が滲んでくる。
「ありがとう!お兄ちゃん、大好きだった。まだ少ししか喋ってないけど…」
「………ひっく」
僕は耐えきれず、とうとう涙を零した。メイも泣きながら、僕の頭を背伸びで一生懸命撫で、もう泣き虫さんなんだから、と言った。
「もう行かなきゃ!いつまでもこの状態で居る訳にはいかないから…」
「待っ……」
『ありがとう、また、遊べたらいいね』
ーーーーーさようなら
僕は深い眠りに落ちていく…。
*** *** *** *** *** ***
目が覚めると、そこはどこかの病室だった。
「あぁ、良かった!あなたがこのまま目覚めなかったら……」
「母さん………?」
「あなたはね、2ヶ月も眠っていたのよ」
「え?」
「隣の女の子が亡くなったのと同時に、目を覚まして……」
隣のベッドを見ると、慟哭する数人の人と、空になったベッド。
「夢を……見ていたんだ」
いや、あれは確かにあった、夢じゃない。
僕は枕元に手を伸ばす。
ーーだって……
それを胸に抱き、涙を一粒零す。
ーー温もりがあるじゃないか、冷たい手の、″温もり″が。
ーー記憶があるじゃないか、2人で様々な空間を旅したという″記憶″が。
ーー感情があるじゃないか、悲しみ、そして優しさという″感情″が。
それは、かけがえのない、証。
ーーさようなら、またどこかで。
僕の手の中にあるのは、目覚めた時に枕にあった、「ありがとう」のメッセージが書かれた、一枚の絵はがき。
読んでいただけて、嬉しいです。
はじめてこういった話しを書きました。
しかし、なかなか難しいものですね、人の心というのは(´・_・`)