表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

砂場のミニカー

作者: 舞茸 満
掲載日:2026/03/22

 公園の砂場は、今日も子供達のオアシスになっている。山を作り、トンネルを通す大工事。泥団子を作っては並べる銘菓店。ダンプカーに砂を載せては降ろす建設現場。


 ここはさながら「プレ社会」だ。将来を支える英雄が顔を揃えている。


 私の息子も、そんな英雄たちの一人だ。採掘の名人か、はたまた歴史研究家か。何かを掘り出して、私のもとへ持って来た。


 それは、一台のミニカーだった。


 塗装は剥がれ、下地も傷だらけ。長い間砂の下に眠っていたのだろう。私はそのミニカーを掌の上でしばし眺めていた。


「大切な物は持っていかないほうが良いんじゃないの?」


「大丈夫!これ持っていく!」


 母と公園に行く幼児は、砂場での遊び道具にスコップとバケツ、そしてお気に入りのミニカーを持って行った。


 母に手を繋がれ、公園はもうすぐだ。


 時間が早かった為、誰もいない。砂場は貸し切り状態だ。バケツから取り出したスコップで、早速砂山を作る。同時に深い穴を掘る。 


 どこまでも、どこまでも。


「ママ、これ掘ったら地球に着くかな」


 本気でそう信じていた。20センチも掘れば、幼児には地底といえる深さだ。手はすっかり届かない。


「深いよー」


 母はそんな幼児に微笑みながら、ベンチで編み物をしている。間もなく産まれる新しい命を迎えるために、毛糸で何やら編んでいる。


 幼児はさらに別の穴を掘り始めた。掘り出した砂は、山へと変わっていく。


 バケツに水を汲み、穴へ一気に流す。


「海を作るよ!」


 しかし、水は砂に吸収されていく。どんなに水を流しても、溜まることはない。


 飽きてしまった幼児は、お気に入りのミニカーを取り出し、砂山の周りに作った道路に走らせる。ミニカーの細い車輪は、砂の上では上手く走らない。


「ブーンブーン」


「ちょっと水分補給よ」


 幼児は母の呼びかけに、駆け出して行った。水筒から小さなカップに注がれた麦茶は、よく冷えていた。


 一気に飲み干した。そしてまた、駆け出して砂場へ戻る。 

 

 また砂山を作り、穴を掘り、水を流し…そんな事を繰り返して、正午を迎えた。


「お昼よ。ご飯食べに帰りましょう」


「イヤだ、もっと遊ぶ」


「ほら、お片付けして。お昼はカレーよ」


 母の手作りカレーは、幼児の何よりの大好物だった。


「やったー!お片付けする!」


 バケツに遊び道具を入れていく。


「あれ?ミニカー…ママ、知らない?」


 あたりを見回しても、お気に入りのミニカーは見当たらない。


「僕のお友達なんだよ!ママ探して!」


「だから言ったじゃない、お気に入りは無くなったら大変よって」


 砂場で踏んだか、山の中に隠れてしまったか、砂場ではなぜかミニカーが消える。


 まるで、神隠しにでもあったように。


 大切な物が急に消えてしまった喪失感に、幼児は泣き出してしまった。母も一緒に探すが、見つからない。


「諦めましょう。また買ってあげるから。その代わり、もう大切な物は外に持ち出したら駄目よ」


 泣いている幼児に、その言葉がどこまで伝わっただろう。大声で泣いた。幼児にとっては、どんなにボロボロであろうと、大切な仲間であったのだ。


 そうして、幾度もの切なく辛い思いを「経験」にして、人は大人になっていく。


 息子が砂場で発掘したミニカーをしばし眺め、ひっくり返して裏を見る。名前が書かれている。薄くなったペンが、しかし判別できる程度に残っている。


 「たいき」


 私の名前は「泰樹」だ。


 「お兄ちゃん!来てたのね」


 妹も、子供を連れてやってきた。毛糸の帽子をかぶった男の子だ。


 終


 

 



お読みいただき、ありがとうございました。

幼き日の思い出から創作しました。

お楽しみいただけたら幸いです。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ