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孝子(三) 烏合の衆

朝日が細く差し込んできた。外では炊煙が上がっている。男が粥と豆乳を持ってきた。


「水っ腹になりそうだな。他にもいろいろあるんだが、固形物はやめといたほうがいいだろう」


四児は二つの碗を奪うようにして飲み干した。


「俺らがなんの集まりか話すって言ったけど、見たほうが早いから市場へ行こう。()の刻からだ」


男に連れられて外へ出る。道ゆく人は誰も彼も頭に黄色い布をつけ、市場に向かっている。四児が軟禁されていた場所にいた人数よりもはるかに多い。年格好も雑多だ。城壁の近くで見たひげの長い老人がいた。街の住人が動員されているのだろうか。


市の広場の中心に絹の寝衣をつけた老若男女が集められている。彼らは黄色い布をつけていない。時を告げる太鼓が鳴ると、黄色い布の一人が絹の寝衣の一団の前に立ち、口上を述べ始めた。


「諸君は仁を忘れ、万民困窮のおりに無策であったこと、大変罪深い。しかし我々は諸君に機会を与える。太平(たいへい)(どう)に帰依するか、協力者になるか」


黄色い布の連中が裕福な家の人たちを捕まえて取り囲んで、みんなが貧乏している時に諸君が無策であったことは罪深い、って責めているのか。帰依とか協力とか言うが、銭をよこせということだろう。


「ゆすりじゃないか」


四児は思わずつぶやいた。そしてゆっくりと男を見上げた。


「この黄色い集まりが太平道とかいうやつなのか」


「太平道の信徒だ」


「昨日までふつうだったのに、どこから湧いたんだ?」


「どこにでもふつうにいるんだよ、信徒はね。一声かければこうなる」


「取り囲んで帰依か協力かを迫るなんて、まるで強盗じゃないか」


「あの人たちとはさっき話をつけた。今やってるのは参加者のための見世物だ」


「放火して脅したんだろ」


「誰も殺してないぜ。穏便に済ませるために苦労した」


男はあからさまに悪党のような表情をしてへらへらと笑った。


「どこが穏便だよ。殺さなければそれでいいっていう考え方がおかしい」


「で、どうする? 俺と一緒に世界を変えるか、家に帰って孝行するか」


「こんな烏合の衆で世界なんか変わらないだろ」


「烏合の衆は怖いぜ。手のつけられないくらい太平道が広まってしまえば、誰だってこちらのお願いを聞かざるを得ない」


「やっぱり強盗じゃないか。帰る」


男はふっと微笑んだ。


「それがいい」


帰ると言わせたかったのだろうか。


「家まで送ろう。村には何人くらい住んでる?」


「何人だろう……」


「家は何軒?」


「二十……八、じゃない七」


「わかった。これから準備する。半時待ってくれ」


半時も経たないうちに帯刀をした一団と数台の荷車が用意された。四児はおそるおそる男にたずねた。


「略奪か戦争でもするの」


「布教だ。荷物は食料その他。一般人には無理強いはしないぜ。村人がついてこないならこれを置いていくだけだ」


「けさの人たちも一般人だろ」


「税を盗んで私腹を肥やしているやつらが一般人なわけないだろ。諸悪の根源だ」


税を盗むとはなんのことなのか。四児には分からない話だった。


荷車をともない街の中を通り抜けて行く。この一団を含め、街ではもう誰も黄色い布をつけていない。ごく普通の日常に見える。不審なところがあるとすれば、広い屋敷の立ち並ぶ一角で何軒かの塀にすすが付いていることだけである。


塀の中からはがやがやと何か作業をしているような人の声が聞こえるが、とりたてて悲愴感はない。城壁の手前では埃まみれの頭をして襤褸(ぼろ)をまとった子供や老人たちが物乞いをしている。けさ市場で見たひげの長い老人も杖を横に置いてむしろに座っている。四児は後ろにたずねた。


「どうなってるの?」


「この街は掌握した。何も起こってないことになる」

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