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忠臣(八) 長社の戦い

「やっかいなのは、こちらの軍にも黄巾が紛れ込んでいることです。軍中で黄巾を着用することはなく、見分けるすべもありませんが、ここぞという時に攪乱をしかけてきます。兵が恐慌に陥り敗北してしまいました」


「太平道は軍中にも浸透しているようですね。洛陽で預かった軍勢は重要な場所には使わないこととしましょう。(かい)(けい)では太平道は広がっていましたか?」


朱儁は会稽から子飼いの軍勢を連れてきている。眉をひそめて、そこを親指でぐりぐりともみながら朱儁は言った。


「太平道らしき活動はよく見ました」


朱儁の連れてきた兵も使い物にならないかもしれない。皇甫嵩も涼州から自分の軍勢を連れて来ている。涼州には太平道は入ってきていない。


長社城はほどなく黄巾の大軍に囲まれた。涼州の騎兵を使えばいつでも突破できるが、そんなことをしても意味がない。敵の大軍を粉砕して優勢を見せつけなければこちらの軍勢が散ってしまうだろう。籠城しながら好機を待つ。


軍中にも太平道の信者がいるという前提でさりげなく警戒しておく。各地から来た兵士が互いに馴染んだほうがいいという名目で生活班を分け、涼州兵の目が全体に行き渡るようにした。名目通り互いに仲良くなることも大事なので両得である。


城内に潜んでいる黄巾が外部と連絡を取れないよう、断続的に矢を放って敵軍を城に近づけないようにする。もし城内に太平道の指導者層がいるのであれば、外部からの指示がなくても何か城内の撹乱工作をしてくるだろう。


しばらく様子を見ていたが何も起こらない。城内には末端の信者しかいないようだ。朱儁が野戦で内部の太平道信者による攪乱で敗れた時は、戦場で敵の黄巾からなんらかの合図を受けて動いたのだろう。


通常の籠城であれば、大軍に囲まれた場合は敵の方が先に疲れ、兵糧が尽きるのも早い。この展開が望める場合はただ籠城しているだけでよい。しかし長社城を囲んでいる黄巾は地域を面で掌握しており、兵員の交代も兵糧の輸送も思うがままである。彼らの後方の(なん)(よう)(じょ)(なん)はすでに黄巾の拠点となっている。


()(げん)()が洛陽を攻略するために荊州(けいしゅう)揚州(ようしゅう)で動員した信者を(ぎょう)に移動させていたという話を聞いた時、最初は意味が分からなかった。洛陽を攻めるなら黄河の南岸からがよく、それなら荊州揚州から直接攻め上ればいいのである。なぜ人員を北岸に移動させたのか。なんのことはない、彼らは黄河以南をとっくに掌中に収めていたのだ。鄴に送ったのは余剰の人員だ。


いま皇甫嵩の籠もる長社は孤城であり、ここが落ちれば黄河の南には丸裸の洛陽が残ることになる。


都から援軍を送るという連絡がきた。援軍と協調して敵を挟撃しろという趣旨だ。援軍の到着を漫然と待ってから挟撃しても再び黄巾に攪乱されて敗れるだけだろう。だが援軍を活用する手はある。援軍は急いでもらわなくても大丈夫だが到着予定日だけは知らせてくれるようにと伝えた。


援軍が到着する前夜に涼州の兵士を城外に出した。敵の滞陣する八方から一斉に火を放ち、騎兵を走りまわらせ、城でも篝火を焚いて喊声を上げる。敵が浮き足立ったところで城内の歩兵に軍歌を歌わせ、隊列を組み、歌に合わせた歩調で出撃させた。このやり方なら攪乱工作を無効化できるからだ。援軍は夜空に火の手が見えれば急行してくれるはずだが、念のために早馬を飛ばした。それを待つまでもなく援軍は現れた。混乱する敵を挟撃して大破した。


援軍を率いてきたのは曹操(そうそう)という人である。機敏に動いてくれて大変ありがたかったがあいさつもそこそこに追撃に移る。敵が混乱しているうちに叩かなければならない。皇甫嵩と()(ぐん)()()()(しょう)が騎兵で先行し、曹操には歩兵の強行軍で、朱儁には通常行軍で追従してもらう。長社に急行した曹操にこのまま強行軍を率いさせるのは酷だが一昼夜で終わる。曹操を最も早く休ませる方法がこれだ。


黄巾は西を目指して敗走する。夜が明けると強い日差しが照りつけた。もう夏である。陽光に背を炙られながら追う。五十里ほど追撃を続けると敵の指揮は崩壊した。(えい)(すい)に行き当たり、東南に方向を変えて逃げ惑う。騎兵は交互に休憩を取りながら追う。歩兵に伝令を飛ばし、騎兵を追わずに(りん)(えい)へ向かうよう指示を出す。潁水に沿って東南に進めば(よく)(すい)にぶつかる。そこが臨潁だ。


日没まで追い、臨潁に至る。歩兵はまだ到着していない。敵は踏み倒し合い溺れながら潩水を渡って行く。皇甫嵩は再び歩兵に伝令を飛ばす。目的地を西(せい)()に変更した。西華は潁水と()(すい)の合流する袋小路である。


織女星が中天に輝いている。敵を西華に追い詰めた。曹操の歩兵が合流し、殲滅する。敵と言うようなものではない。歩くこともままならない疲れた群衆だ。軍隊同士の戦いならこんなことはしない。兵士はいやいや動員されているだけだから、指揮が崩壊すれば勝手に家に帰るだけだ。黄巾賊はこれとは違う。彼らには帰る場所がない。だから宗教にすがったのだ。


戦果は斬首数万ということになった。数は数えていない。

 

長社の戦いの地図はこちらに掲載しております↓

https://shumide.hatenablog.com/entry/shiryou

「小説中で使用した地図(カクヨム/小説家になろう読者様向けページ)」

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