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うまくいく

作者: 大自然の暁
掲載日:2026/01/01

ハッピーニューイヤー!

 うわっ、今年はなんかうまく行きそう。

 午年だけに。


「すぅーーーーー……、はぁーーーーー……。いい朝だなぁ!」


 俺は初日の出を見るために近くの山に登った。

 山とはいっても、小さな山だ。

 人も少なく、心置きなく初日の出を拝める。

 お、そろそろ初日の出が昇ってきたな!?


「おー……、すげぇ。昇ってる、昇ってる。案外速いんだな」


 初日の出を見るのは初めてだ。

 初、初日の出だ。

 意外と初日の出は速く昇るらしい。

 とても速い。

 太陽は一瞬にして俺の真上にまで昇った。


「あれ、これ初日の出じゃなくね?」


 なんと!

 それは!

 UFOだった!

 アブダクション!


「うーん……。これが走馬灯か……。午年だけに」


 宙に浮いている俺は、生存本能からか走馬灯を見ていた。

 そうしていると、ついにUFO内部に辿り着いた。


「うおぉっと……、ここは……?」


 あ、目の前に宇宙人がいる。

 やはり宇宙人内部のようだ。

 浮いているにしては快適な部屋だ。

 どんな技術力だよ。


「☆☆☆☆☆☆☆」


「なんて?」


 俺は馬鹿だから宇宙人語なんて分からない。

 午年だけに。

 なんか怒ってそう?

 なんでだろ。

 さっきツチノコ食ったからかな。

 美味かった。

 午年だけに。


「☆☆☆☆☆☆☆」


「もしや俺を誘拐したのはツチノコを食ったからでは? ってことはこれ説教かなにかか? ごめんね。馬の耳に念仏なんだ。午年だけに」


 そうしていると、仲間の宇宙人がやってきた。

 なにか話している。

 そうすると俺に向き直った。

 彼らは俺の目の前に見たこともないような食事が並べた。

 みるみる内に腹が減った俺は、牛飲馬食のごとくそれを食べ始めた。

 午年だけに。

 普通に下剤が盛られていた。


「う、うんこが!!」


 こいつら、ケツからツチノコを掘り出す気だ!

 腹を掻っ捌かれないだけましか……?


「う、うおおおおお!! ケツから! ケツからUMAが! 午年だけに!」


 俺の尻からツチノコが出てきた。

 ニョロニョロと。

 ニョロニョロニョロニョロニョロニョロと。


「長いなぁ」


 ツチノコはそのままとぐろを巻いた。

 うんこみたいに。

 うんこみたいに!


「☆☆☆☆☆☆☆」


 宇宙人がこちらへ近付いてきた。

 ツチノコを手に入れるらしい。


 今の俺には不思議な実感があった。

 ツチノコの加護がある。

 常に選択を間違わない、幸運の加護だ。


「俺はツチノコを食い、ツチノコは俺から出てきた。つまり脱皮だ。ツチノコの脱皮した皮には幸運が宿るという」


 俺は今、幸運の御守を身に着けているどころか、幸運の御守そのものだ。

 その勘が俺に囁く。


「てめぇらのことはよく分からんが、ツチノコを渡すのはまずそうだな」


 だが、今の選択によって身体から運値が減った。

 恐らくはあと3回ほどしか選択をできない。

 おそらく、俺が敵対すると理解しているのだろう。

 宇宙人が二人、俺に向かってきた。


「だが、戦うものか!」


 戦闘は選択の連続だ。

 運値が一瞬で溶けてしまう。


 俺は近くの部屋へツチノコを持って逃げ出した。

 宇宙人が光線銃を撃ってきた。

 正確に、足を狙って。


 しかし運悪くその宇宙人は足を滑らした。

 履いていた靴が壊れたようだ。

 狙いを外した宇宙人は、床を撃ち抜いた。


 もう一人の宇宙人が、またも俺の足を狙った。

 だが撃つことはせず、そのまま俺を追いかけてきた。

 俺は扉に逃げ込むという選択をし、その目的を妨げなければ幸運は発動しない。

 彼は恐らく俺が扉の先に行ってから攻撃をするつもりだ。


 だが、今さら選択を変えるわけにもいけない。


 俺は急いで部屋に入った。

 その瞬間、扉ごしに俺の足が撃ち抜かれた。

 足に穴が空き、断面が焼ける。


「ぐぅ……! だが、動けないほどでは……」


 運値が一つ減った。

 しかし宇宙人は追ってこない。

 偶然扉がロックでもされたのだろうか。


「運がいい……!」


 だがこのままではジリ貧だ

 ツチノコの運値はあくまで選択にのみ働く幸運。

 その選択は上手くいくだろうが、その先まで上手くいく保証はない。

 だからこそ、ある程度は自身で行うことが重要だ。

 まあ運値は自動で消費されるが。


「なにかないか……?」


 この部屋はなにかの機械が置いてある部屋だ。

 一つの機械だけが置いてあり、他にはなにもない。

 これを扱うのは上手くいくだろうが、その先に俺の命やツチノコの保全があるとは思えない。


「そういえば宇宙人どもはなにをやってるんだ?」


 俺は先ほど宇宙人が光線銃で空けた穴を覗いた。

 そこに宇宙人はおらず、不気味な静寂のみが場を支配していた。


「まてよ? まさか……! それはまずい! そうなったらおしまいだ!」


 俺は扉から外に出た。

 やはり宇宙人はいない。


「宇宙人どもはこのまま母星に帰るつもりだ! そうなってしまえば俺は終わりだ!」


 足は痛いが、母星に帰られる前に方を付けないといけない。


「そうなる前に宇宙船から逃げなくては!」


 俺は宇宙船から出るための脱出口を探した。

 つまり、適当に扉を開けた。

 それが近道だ。

 扉の開け方は知らないが、運良く開き、その先に進んだ。


 そこには宇宙人がいた。

 俺に光線銃を向けている。

 待ち伏せされていたらしい。

 だが一人だ。

 俺も運値を使い果たしている。

 脱出口を見つける事はできても無事に済むだろうか。


「☆☆☆☆☆☆☆……、あーあー、こんな感じか」


「!」


「ようやく解析が終わったよ」


 その宇宙人は俺に喋りかけた。

 完全に日本語を理解している。


「日本語? って言うらしいな。やけに難しい言語だ。解析に☆☆☆も掛かってしまった」


「猿真似しやがって」


「猿に近いのは君たちだろう?」


「うるせぇ比喩だよ」


「こちらは皮肉だが」


「ちっ」


 俺は話しながらそいつの後ろを見た。

 俺には幸運が付いている。

 だから分かった。


「てめぇ、脱出口をぶち壊しやがったな?」


「……くふっ、くはははは! ☆☆☆☆☆☆☆」


「なにがおかしい」


 宇宙人は笑っていたかと思えば急に落ち着いた。


「ツチノコの力に驚いていたのだよ」


「へぇ?」


「幸運、とは。科学では説明できないものが実際にあるのだから本当に驚きだよ」


 宇宙人の声は淡々としている。

 しかしその喜びは隠せていない。

 どうやらもう勝ったのでいるらしい。


「私たちが属する集団――まあ国連の宇宙版とでも思ってくれ――は未知の知的生命体が属する星を見つけた際に、侵略することを禁じている。いやね、本来は私も侵略するつもりはないのだよ」


「ふーん」


「君を殺さないのも侵略が禁じられているからだ。しかし、しかしだよ。そのツチノコは看過できない。それだけは回収させてもらう」


「俺は?」


「私たちの星へ招待しよう。君が私たちの星で住民登録をすれば殺しても侵略ではないからね」


「かー、クズがよぉ」


「さて……」


 宇宙人は俺を見た。

 と、思う。

 多分。

 どれが目か分からないけど。


「そろそろ成層圏かな? それとも既に大気圏は抜けているかな? どうやら人間は私たちほど賢くないらしいな」


「どうしてそう思うんだ?」


「私が時間稼ぎしている事に気が付かなかったのか? 時間は私たちの味方だというのに、わざわざ貴重な時間を使って私の話に耳を貸すとはな。つまり君は馬鹿だと言っているのだよ」


 やはり勝っている気でいるらしい。

 時間は宇宙人は味方をしているだと?

 笑わせる。


「時間は俺の味方だよ、宇宙人」


「は?」


 俺はツチノコを床に落とした。

 それは床に触れた瞬間、崩れ去った。


「! お前、なにを!」


「これはツチノコじゃない。ツチノコの抜け殻だ。本物はここにいない」


「……! ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆、仲間と連絡が取れない。お前、なにをした……!?」


「お前が俺に攻撃しなかったのは俺があと一つだけ運値を残していると考えたからだな?」


「……攻撃しようが運値によって防がれる」


「そう、それが普通だ。だから攻撃するのではなく対話を選んだ。だが俺にはもう運値は残っていない。先ほど使用した。ツチノコに対してな」


「まさか……!」


「ツチノコが操縦主を倒してくれる事に期待してどこかへ逃がした。俺はそういう選択をした。その時に運値を使い果たし、俺は抜け殻としての機能を失った。それにより新たな抜け殻が生じたのだ」


「それが、これか……!」


「どうやら、上手くいきそうだな。けほっ……」


 俺は体内の毒素を除こうとし、咳をした。


「けほっ、こほっ、ゲホッゲホッ……。ごぽっ」


「毒……、宇宙人にも効くほどの毒ガスが蔓延している……!? いつの間に!」


「俺との……、ゲホッ、会話に夢中で……、『運悪く』、ゴホッ、気が付かなかった……、ようだな……」


 ツチノコは毒を吐ける。

 それはツチノコの特性だ。

 宇宙人は知らなかったらしい。


「脱出口を自分で潰すとはなぁ!! どうやら馬鹿はてめぇの方だったらしいぜぇ!! そんな猿以下の知性でよく星間飛行なんてできたなぁ!!」


「そんな、ことが……」


「快適すぎる技術も考えものだなぁ? 今の俺たちは上に向かって飛んでいるんじゃあないぜ? 落ちているんだよ!! 地面に向かってなぁ!!」


「そんなことがあり得て言いわけがないだろがああ!!」


 宇宙人が俺に向かってくる。

 しかし、俺の目的は達成された。


「脱出口、そこにあったか」


 床が割れる。

 そこからは羽が覗いていた。

 バードストライク。

 それが落下する宇宙船に直撃したのだろう。

 鳥は床を貫き、そのまま天井を抜けていった。

 この宇宙船は自由落下よりも速く落ちている。

 言うなれば、下向きに飛んでいる。

 つまり俺は慣性により上空へと投げ出された。


「あ、やばい」


 これは死ぬ。

 流石に死ぬ。

 もう運値はないし、あっても今から選択できることはない。

 風の音が耳をつんざき、呼吸すらままならない。

 死んだか。

 そんな俺の目に映るものがあった。


「初日の出、か」


 落下しながら見る初日の出も風情なものだと思わないか。

 人生最後に見る初日の出。

 太陽をもっとも美しく感じられるシチュエーションだ。


「ここに酒でもあれば……、ん?」


 よく見ると、近くに俺以外のものが落ちている。

 バラバラな物体だ。

 俺はそれを見たことがある。

 知っている。


「ツチノコの抜け殻だあああ!!!」


 先ほどこれを触っても運値の上昇は感じなかった。

 しかし、その時俺は脱出口を探すということに運値を使っている最中だった。

 だからこそ運値がたまらなかったのだろう。

 ってかなんでさっき床に落とした?

 馬鹿なんじゃねぇの?

 宇宙人を煽るために命を犠牲にするな!


「くそったれ! ああああ! 届けえええ!!」


 そうして俺は落ちていったのだった。




 気が付くと、太陽は既に南中にあった。


「生きてる……? 生きてる……」


 俺は仰向けになった。

 痛い。

 体中が痛い。

 右腕は痛くない。


「あ、右腕が吹き飛んでる」


 俺は先ほど、右腕で木の枝を掴んだりクッションにしながら生き残った。

 それでも衝撃を殺しきれずに全身を打ち付けてしまった。

 しかし、生きている。


「ははっ、上手くいったな」


 巳年から午年への丁度いい繋ぎになっただろう。

 これから2026年の幕開けである。

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