朝食
夜が明け、窓から差し込む朝陽が廃病院内を照らし出す。だが。外はますます吹雪が猛威を振るい、依然としてここを離れられない。
何か食べられそうな物を探しに全ての部屋を見て回った。食堂の調理場に残された食べ物があったが、元の原型を留めておらず、異臭を放っていて食べられそうにない。
食堂のホールには辛うじて食べられそうな物が入った菓子自販機があったが、電気が止まってる為、手に入れられそうにない。金を入れて手に入れる方法以外に何か無いか。自販機の前に椅子を持ってきて、中からどう取ろうか思考を巡らせてみた。
そうして考えている内に、別な事に気が付いた。この廃病院は片付けが中途半端だ。五階建てとはいえ、この病院は他の病院と比べて部屋数が少ない。手術室と思わしき場所もあったが、施錠された扉の向こうから異臭が漂っていた。何かしらの事故や事件が起き、その後それが原因で奇妙な出来事が続く。所謂曰くつきの病院なのだろうか。
どうせ今日もこの廃病院から出れないんだ。後で調べ回ってみるか。
「ん?」
ふと、左に視線を動かすと、いつの間にかアメリアが近くに来ていた。僕が穴から落とした毛布を身に纏っている。そういえば、化け物になった所為で着ていた服が破れているのか。毛布を落とした甲斐があったわけだ。
「おはよう」
挨拶をしたが、やはりアメリアは声が出せないのか、代わりに右手を上げようとした。しかし両手で毛布を抑えている為、はだけそうになった毛布を抑える為にすぐに上げるのをやめた。肌が見えそうになって恥ずかしかったのか、アメリアの顔は瞬く間に紅潮していった。
この廃病院の事も気になるが、まず知らなければいけない事は彼女の事だろう。今見た感じ、昨晩見た化け物の姿が悪夢の産物のように思える。
物は試し。今のアメリアで少し試してやろう。
「なぁ。あの自販機のガラスを壊せるか? 中の菓子が食べたいんだ」
「……!」
アメリアは自販機を横目で見ると、僕に「任せて!」と言わんばかりに頷いた。
自販機の前に立ったアメリア。これで簡単に自販機のガラスを壊せれば、化け物なのか、化け物になってしまうのかが分かる。
アメリアは大きく体を後ろに逸らすと、勢いよく自販機のガラスに頭突きを放った。
ドンッ。
窓を叩いたような音。当然、自販機のガラスは割れていない。僕の方に振り返ったアメリアの額は赤くなっており、泣きそうな表情をしていた。手加減したとは思えないし、アメリアは化け物になってしまうのが正しいのだろう。
「出来ないのにどうしてやるのさ」
「……!」
「ちょ、ちょっと! もう……!」
アメリアに抱き着かれてしまった。痛くて抱き着いてくる様は、まるで母親に甘える子供のようだ。依然と比べて精神が幼くなっている。なるほど、それで言葉を発せなくなっているのか。
抱き着くアメリアを支えながら位置を交換し、僕が座っていた椅子にアメリアを座らせた。
「ここに座ってて。手持ち無沙汰なら、手拍子で僕を応援してくれ」
「……!」
「いや、今やらなくていいから。毛布ずれて見えかけてるし。僕があっちの方を向いてから手拍子してくれ」
「……!」
「だから……あー、もういいや」
椅子は既に試した後だから別な物で試そう。調理場で道具を探していると、料理をする場に似つかわしくないハンマーがあった。ハンマーの近くには患者服と思われる物が三着捨てられていて、調理場のゴミ箱からはみ出ている布と同じ色だった。
ハンマーを持って自販機の前に戻り、始めに軽く試してみた。椅子でやった時よりもガラスの揺れが激しく、割れそうな予感がした。
「アメリ―――んん! もう耳塞いでて偉いね……」
ガラスの端に狙いを定め、叩き続けた。数回叩ていくとヒビが入り、次で割れそうだったので、自販機から距離を空けて叩いた。弾力感のあったガラスだったが、割れる音とその様はガラスらしい。
中から適当な菓子を二つ取り、一つをアメリアに投げ渡した。早速菓子の封を開けて食べてみると、サクサクともフワフワとも違うグニョグニョ食感。袋に表記された塩味は無いに等しい。賞味期限を見てみると二年過ぎていた。おそらく消費期限も過ぎているだろう。
我慢しながら食べていると、アメリアは菓子の袋に苦戦していた。袋を開ける力さえ無いのか。
「貸して」
見かねてアメリアから菓子を受け取り、封を開けてから返してあげた。アメリアは嬉しそうに笑うと、菓子を一口食べて渋い表情を浮かべた。見ると、アメリアが食べた菓子は海鮮味。僕が食べてる物よりも味が酷くなってるのが容易に分かる。
「……交換するか?」
僕がそう言うと、アメリアは早速菓子を交換し、僕が食べていた無味の菓子を困惑した表情で食べ進めていった。せっかく善意で交換したんだから、嘘でも美味しそうに食べてほしいものだ。
毛布のはだけた部分から見えるアメリアの肌から目を背け、海鮮味を食べた。食感はさっきのと似たようなものだが、味は……生ゴミに漬けたカニの殻だ……。




