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連れ去られた先で

 化け物の懐から吹き飛ばされ、コンクリートの壁に背中がぶつかった。久しぶりの鈍い痛みに幸福感のような気持ちが胸の内をジワリと濡らす。


 ここは何処だろうか。壁がコンクリートで、年季が経ったベッドがいくつか置いてある。ホテルにしてはベッドの数が多過ぎるし、病院だろうか。天井の電気が外されている所からして、もう使われていない廃病院だろう。


 部屋を見渡していくと、窓際のベッドにもたれる化け物を見た。


「アァ、アグ、ンギィィィ……フフゥ……フぅ……はぁ……はぁぁ」


 化け物は徐々に人間の姿に戻っていった。昔あった球状の入浴剤の中から玩具が出てくるような感じだったが、その過程は生々しい音もあって痛々しいものであった。


 化け物の正体はやはりアメリア。金色の髪は血で汚れて赤黒くなっていて、巨大化した所為か全身のほとんどの皮膚が破れていた。


 正直言って、今のアメリアの姿は酷い状態だ。以前までのアメリアの面影はほとんど失われている。今のアメリアを見ても、彼女だと分かる人間はいないだろう。


「アメリア」


 ベッドにもたれる彼女に近付くと、破れた皮膚や肉が再生されていた。しかし、クロが切った右腕は断面が塞がれただけで、生える兆しは見えなかった。


 僕はアメリアの背中側に回り、あの巨大な両翼を確かめようとした。だが、あの両翼は何処にも無い。背中にあるのは、そこから両翼が生えていたと思われる痕跡の傷があるだけ。あれだけの巨大な翼を身に戻したとは思えない。かといって、外れたわけでもなさそうだ。


「アメリア。大丈夫?」


 声を掛けてみたが、アメリアは返事をしない。顔を見ようと髪に触れると、まるでボンドかノリで固められたかのように傷んでいた。ゆっくりと慎重に髪を退かすと、髪で覆い隠されていたアメリアの顔が見えた。


 気絶しているようだ。変異した体を元に戻すのは相当疲弊するのだろう。そして体と同様、顔の皮膚も破れていた。 


 さて、どうしたものか。僕は一応連れ去られた身なのだから、ここから逃げるべきなのだろう。幸いにもアメリアは気絶していて、しばらく目覚めない。逃げるなら今がチャンス。


 ただ、窓の外から見えるように、外は物凄い吹雪だ。おそらくまだ街から離れていないだろうが、この猛吹雪の中、なんの防寒着も無く歩いていくのは厳しい。建物の中の今でさえ凍え死にそうだ。吹雪が弱まるまでは、ここから離れられそうにない。


 部屋を出ると、明かり一つ無い廊下に出た。天井に薄っすらと見える緑色の非常口案内板にも明かりが点いていない。壁に手を当てて廊下を歩き、適当な所にあった部屋に入った。


 部屋の中はさっきと同様、いくつかのベッドがある部屋だった。やはりここは廃病院なのだろう。少し埃っぽいが、毛布が残されている。一度埃を払い、毛布にくるまると若干寒さが収まった。それでも寒い事に変わりない。


 毛布にくるまってベッドに寄りかかりながら、クロの事を思い出す。身を挺して僕を守ってくれたクロは大丈夫だろうか。多分、クロは鶴のような人に化けられる動物なのだろう。


「……そうか。クロは清水さんか」


 確証は無いが、確信出来る。あの日、いつの間にかいなくなっていた清水さんの代わりにクロが部屋にいた。普通に考えればすぐに正体が分かった事だ。


 でも、どうしてだろう。清水さんはどうして僕にそこまで献身的になれるのだろう。


 なにか、忘れているような気がする。

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