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天使が迎えに来た

 窓を叩く音で目が覚めた。体を起こしてベランダの窓を見ると、猛吹雪が窓を叩き続けていた。予報では明日の金曜が荒れるはず。予報が外れたのか、あるいは明日は今日以上に酷いのか。


「今日明日、何処にも行けないな」


 傍で寝ていたクロに語り掛けながら、荒れる外の様子を眺めていた。


 巨人が口笛を鳴らしてるかのような風。音を鳴らして降り続ける雪は肌を貫通せずとも傷をつける事は出来そうだ。こんな天気に外を出た暁には、無事では済まない。そう思わせる天気だ。


 時刻は午前九時。それでこの暗さと荒れ様だ。よっぽどの事が無い限り、今日は誰も外には出ないだろう。連日騒がれる惨殺事件の犯人だって、今日は大人しくするはずだ。大人しくしてほしい。


 外に出られないから、今日はいつも以上にクロを撫でてやった。芸を仕込もうとしたが、僕が仕込もうとした動きは既に会得済みであり「舐められたものだ」と言わんばかりの呆れ顔を向けられてしまった。賢過ぎるのも考えものだ。


 昼食を軽く取り、軽く筋トレをしたりクロと遊んでいたりしていると、時刻はあっという間に午後の五時過ぎとなった。依然として外の悪天候は変わらない。むしろ悪化している。ただでさえ暗かった外が、夜になった事でより暗闇と化し、吹雪はまるでテレビに映る砂嵐のようだ。


 テレビを点けると、ニュース番組でこの街の天候が報じられていた。やはり予報よりも荒れているらしく、明日は更に酷くなるとの事。この天候はこの街だけのようで、他は信じられないくらい晴れているとの事。一ヵ所に集中的に荒れるこの天候は異常気象であり、超常現象とさえ言われている。専門家が不可思議と匙を投げるほどなので、本当に超常現象なのかもしれない。 


 テレビを消し、風呂の湯を沸かしに向かった。水は溜めたままにしている為、電源を押すだけだ。


 ピッと電源が入る音の後。


 ドガーン!!


 何か大きな物が倒れたような音が響いた。急いでリビングに向かうも、特に異常は無かった。


 すると、今度は割れた音が聞こえてきた。一つ二つどころではなく、食器棚にある全ての食器が割れたような音。その音が聞こえたのは僕の部屋ではなく、隣室からであった。


 アメリアだ。彼女が帰ってきたんだ。


 クロは隣室の方の壁へ唸り、心なしか大きくなっていた。


 クロを落ち着かせようとした瞬間、ピタリと音が止んだ。うるさい吹雪の音は徐々に無音になっていき、部屋の中が静まり返っていく度に、胸の奥底から嫌な予感が沸き上がっていく。これから何が起きるか、不思議と分かってしまった。


 次の瞬間。発泡スチロールのように壁が壊れ、隣室から巨大な両翼を生やした人間のような何かが部屋に侵入してきた。人間のような姿形をしつつも、およそ三メートルくらいの背丈と、長過ぎる手足や不可解な関節での四足歩行。真っ赤に染まった全身からは、血と思わしき泥が絶えず滴り落ちている。特筆すべき両翼には、肉片がこびりついている。


 鶴のような人に化けた動物ではない。これはまさしく化け物だ。


「アギャギャアギャギャギャガギギャガ!!!」


 訳も分からぬ言葉で悲鳴を上げている。痛いのだろうか。


「アメリア……」


 僕が彼女の名前を呟くと、赤い髪で隠されていた化け物の顔が露わになった。青い瞳はそのままだが、それ以外は痛々しく崩れている。何があって彼女はこうなってしまったのだろう。


 すると、化け物はその長い右腕を僕に伸ばしてきた。掴まれる寸前、その右腕は切られ、天井にぶつかって床に転がっていった。信じ難いが、クロがやったようだ。クロは既に猫と呼ぶには大き過ぎる体になっており、人間と同等の大きさになっていた。


「ギャァァァァァァッ!!!」


 化け物は甲高い悲鳴を上げながら、切られた右腕から血を噴出させている。クロは僕を突き飛ばし、僕に掛かるはずだった血の雨を身代わりになって受けてしまった。その血は泥のように粘度が高く、血が付着した物や場所が音を立てて融けていた。クロの体はそれらよりも丈夫なのか、焼けるような音がするだけで融けはしていない。それでも、壁に体をぶつけるほどに痛がっていた。


 どうすればいいというのだ。僕では二人のどちらも助ける事は出来ない。この場から逃げ出す気も無い。映画館で映画を観るように、この状況を傍観する事しか出来ない。


 そうこうしている内に、僕は化け物の左手に掴まれ、懐に抱えられると両翼に包まれた。窓が割れる音がすると、吹雪の中で壁や硬い何かにぶつかる音が聞こえてくる。   

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