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黒猫

 一時間ほど経った後。部屋から出ると、清水さんは帰っていた。


 代わりに、リビングに黒い猫がいた。細身で尻尾が長く、艶のある黒い毛並みは高級なオーラがある。鋭い緑色の目は真っ直ぐと僕を捉えており、しかし自分から動く気配はなく、僕が近付くのを待っているようだ。


 この黒猫は清水さんが置いていったのだろうか? 一人でいる僕の寂しさを案じてか。頼んでもいない事ばかりする人だ。


 黒猫の鼻先に人差し指を構えると、黒猫は僕の人差し指の臭いを嗅ぎ、頬で擦ってきた。耳の裏や顎周りを人差し指で撫でてあげると、黒猫は目を細めながら喉を鳴らした。人間の僕が動物の気持ちなど分かるはずもないが、その中でも猫という生き物は分かり易い。


 しばらく黒猫を撫でた後、清水さんが作ってくれたシチューを食べた。具の野菜や鶏肉は小さく切られていて、顎の力がまだ弱い僕にとってはありがたい気遣いだ。マカロニもかなり柔らかくなっていて、舌で押し潰せる。


 あっという間に一杯目を食べ終え、二杯目のシチューを持ってテーブルに戻ってくると、隣の席に黒猫が座って待っていた。


「お前は腹減ってないか?」 


 人間の言葉を理解しているのか、黒猫は首を横に振った。その動きは猫にしては不自然極まりなかったが、人間の言葉を理解し、それを伝える動きが出来る猫や犬というのは稀にいる。だから、この黒猫もそういう類の猫なのだろう。 


 結局、僕は鍋にあったシチューを一人で食べ尽くしてしまった。悔しいが、清水さんが作ってくれたシチューは美味しかった。桃姉さんも料理は出来たが、味に関しては清水さんの方が上だ。


 洗い物を終え、風呂に入る前にテレビを見た。床に座ってテレビを見ていると、膝の上に黒猫が身を丸めて乗ってきた。頭や腹を撫でてやると、喉を鳴らしながら頬を僕の膝に擦りつけていた。こうしているだけで、なんだか幸せな気分になる。


「せっかくだし、名前をつけてやるか。黒い猫だから……クロ。クロでいいか?」


 クロは短く鳴き声を発した。おそらく了承してくれたのだろう。


 テレビに映るニュース番組では、これから一週間の天気予報が報道されていた。ほぼ毎日雪が降り、中でも金曜日の雪は大雪で風もかなり荒れるらしい。金曜日は外に出ない方が良さそうだ。


 天気予報が終わると、速報が入った。一時間程前、また惨殺事件が起きたようだ。


 今回の惨殺事件は路地裏で起きた。殺された人間の数は三人。五十代男性と、二十代女性二人。事件現場の様子と殺害された人間の様子からして、昨日の惨殺事件の犯人と同一の人間の仕業との事。警察は犯人が犯行時刻に拘りがあるとして、午後六時から午後八時までの間、パトロールを強化すると宣言した。


 なんとも奇妙な事件の連続だ。まるでホラー映画やミステリードラマのようだ。


「僕達も食われないようにしないとな」


 僕はクロに呟きながら、腹を撫でてあげた。


「……食事か」


 何気なく呟いた自分の言葉に、僕はハッとした。昨日の惨殺事件の報道を見て疑っていた事に、不思議と確信づいた。


 この惨殺事件の犯人は人に化けた者の仕業だ。殺しているのではなく、食事をしているだけなんだ。人間に化け続けた影響で人間の食事を好むようになったと女将は言っていたが、そうなるとこの犯人は最近人に化け始めた新参者だろう。


 であれば、犯人はおかしな行動をするはずだ。まだ化け始めたばかりなら、元の習性をして潜んでいるはず。


「なら―――痛ッ!?」


 クロに指を噛まれてしまった。見ると、クロは明らかに怒りを露わにしており、その怒りが撫で方に対してではなく、僕の好奇心に対してだと分かった。  


「……大丈夫だよ。ちょっと思っただけだから」


 僕がそう言うと、クロは噛んだ僕の指を舐めた。どうやらこの子は賢いだけじゃなく、人の心を読む力まであるようだ。

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