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再会

 降る雪の冷たさに、人は何を思うのだろうか。冬の季節の来訪。温かい食べ物。誰かの温もり。遠い先で待つ春の季節。


 四季の中で冬は他の季節全てと対照的だ。華やかな春とは裏腹に灰と白に包まれ、日照りの夏とは裏腹に極寒で、実りの秋とは裏腹に死にゆく。春夏秋の季節は芽生えや実りなど生を意味する季節であり、冬の季節は死そのものだ。


 今、僕は冬の季節を生きている。途切れそうになる命を繋ぎ留め、いずれ戻るはずの春を待ち続けている。通り過ぎていく不自由なく日常を過ごす人々の背を眺めながら、決して追いつけぬ足取りで歩いていく。


 道中、冬休み間近だと騒ぐ同年代の学生を見かけた。彼ら彼女らは何の恐れも危惧もなく、明日からも良い日が続くと謎の自信に満ち溢れている。それが普通なんだろう。明日死ぬかもしれない不安を抱きながら今を生きる僕は、言ってしまえば病院で入院している人間よりも危うい。鬱なんだろうか。


 雪が積もった橋の歩道を踵まで沈みながら歩いていく。今日も誰も通っていないのか、先には足を沈ませた跡が無い。なんだか少し優越感を感じる。断崖絶壁の山を最初に踏破したかのような気分だ。あぁ、虚しいな。


 自虐で口が緩んだその時、妙な臭いが鼻を刺激した。風に乗った臭いではなく、漂う異臭。正体は分からないが、その臭いに気付いた途端、臭いは一層強まった。どうやらその臭いは、この橋の下から発生しているようだ。


 来た道を引き返し、坂に積もった雪で段を作りながら降りていった。下まで降りると、臭いは更に酷くなった。肉屋の独特な臭いと生ゴミが合わさったような異臭。


 なるべく音を立てないように橋の下へ近付いていくと、風で僅かに雪が撒かれた橋の下には、奇妙にも立派なかまくらがあった。ホームレスが作ったのだろうか。さっきから鼻を曲がらせる異臭はあそこからだ。 


 好奇心か、あるいは何も考えずに、僕はそのかまくらに近付いた。目の前に立つと、鼻と口を手で抑えていないと耐えられない。息苦しさを覚えながら、暗闇に包まれた穴の中を覗いた。その暗闇は単に明かりが無いからというよりも、電気を点けて明かりを灯すように、何らかの力で暗くしているようだった。


 暗闇を眺め続けていると、何かが蠢いた。虫にしては巨大で、人にしては形が違い過ぎる。


 尚もジッと眺め続けていると、二つの小さな青い光を見た。何処か生物的に見えるその青い光は、暗闇の中では一層綺麗に見えた。


 その時、強い突風が迷い込んできた。その突風で積もっていた雪が吹き荒れ、一瞬だけ吹雪のようになった。僕は思わず瞼を閉じ、両腕で顔を覆った。


 視界が塞がれている間に、すぐ目の前から轟音が鳴った。雪が崩れる音に紛れて、とても大きな翼が羽ばたく音も混じっていた。


 目を開けた時には、かまくらは崩れ去っていた。残骸を手で掘ってみたが、何かが見つかる事も無く、鼻を刺激していた異臭は風に乗って消え去った。


「木田君」


 懐かしい声がした。声がした方へ振り向くと、橋の下を出た先で清水さんが僕をジッと見つめていた。 冬だというのに防寒着を着ておらず、長袖の制服姿で平然としている。


「元気になったみたいですね。そこに居ては寒いでしょう。さぁ、私と温かい場所へ行きましょう」


 清水さんは微笑を浮かべながら、その場から動かずに僕に手を差し伸べた。僕がその手を掴むまで、動かないつもりらしい。


 僕は清水さんの横を通り過ぎ、降りてきた時に作った段を上っていった。


「木田君? どうしたんですか?」


 清水さんが坂の下から声を掛けてきた。やはりあの場から動いておらず、体の向きを今の僕がいる方へ向けただけ。


「さぁ、行きましょう。寂しいんですよね?」


 清水さんのその言い方は、どこか上から目線なように感じた。何も伝えず長い間連絡が途絶えていたというのに、表情には不安や怒りが一切無い。怖いくらいに、ただ僕をジッと見ているだけ。


 僕は清水さんを無視してその場から去った。桃姉さんが言っていたように、清水さんは元のままだ。それなのに、僕は清水さんに対して苦手意識が生まれている。どうして僕は彼女と仲良くなれたのだろうか。自分の事だというのに、疑問が浮かぶばかりだった。

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