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丑三つ時

 夜も更け、眠る時間となった。真面目さんとアメリアは一緒の部屋で。僕は二人の隣の部屋で寝る事になった。


 部屋にあるクローゼットに入り、就寝前に家に電話を掛けた。時刻は午後十時だが、まだ鶴は起きているだろうか。


『何の御用でございましょう』


 電話に出た鶴の声は不機嫌なものだった。


「もしもし、鶴? 僕だけどさ」


『あら! 貴方様でいらっしゃいましたか!』


 さっきまでの不機嫌さは何処へやら、声が跳ね上がっていた。他人には基本的に不愛想な感じで接しているのだろうか。


「宿題今日で終わっちゃったから、明日朝ご飯を食べたら帰るよ」


『そうですか。気を付けて帰ってきてくださいね?』


「うん。それでさ、宿題が終わったから、鶴の休みに合わせて何処かへ出掛けようよ。鶴が行きたい場所でいいよ」


『まぁ! ワタクシに夜更かしをさせようと企んでますね!』


「夜更かししてまで考えなくていいから。ちゃんと寝てね。それじゃあ、僕は寝るよ。おやすみ」


『おやすみなさい、貴方様。チュッ』


 最後、送話口にキスしたのか? 帰ったらすぐ除菌しないと。  


 しかし、不安だ。僕は他人の家で寝た経験が一度も無い。クローゼットがあるから同じような寝方は出来るけど、環境の違いはどうにも出来ない。僕の部屋にあるクローゼットよりも一回り大きいから、いつもより足を延ばせる点が吉と出るか凶と出るか。


 ……。


 結果は凶だった。目を瞑って睡魔に身を任せてみても、一向に瞼を閉じてる感覚が無くならない。眠いのに寝れない辛さに、ストレスが溜まる一方だ。


 携帯電話を点けて現在時刻を確かめてみると、午前の二時。クローゼットに入ってから四時間が経っている。四時間も目を瞑って寝れずにいる。もうこの際、寝るのを諦めて朝を待とうか。いや、このまま寝る努力をしようが、寝るのを諦めて朝を待つのは同じ事だ。


 カチャッ……パタン。


 誰かが部屋に入ってきた。多分、アメリアだ。部屋を間違えたのだろうか。


「……いない? ううん。この部屋の何処かにまだいる気配がする」


 アメリアの声だ。独り言からして、どうやら間違って入ってきたわけじゃなさそう。


「シンジ君。起きてるのかな? それとも寝てるのかな?」


 声が近い。クローゼットの前にいる。


「明日で、お開きになっちゃったね。本当はもっと三人でお泊りしたかったのに……ねぇ、シンジ君。シンジ君は家に帰りたくないでしょ? だって、家に帰ったらあの人がいるもんね。シンジ君を怖がらせる悪い人が」  


 鶴の事を言っているのだろうか? アメリアには鶴がそういう風に見えているのか。最近は前ほど敵意を出していないはずなんだけど。


「シンジ君。私があの女を追い払ってあげようか? そうして今度は私と一緒に暮らすの。私はシンジ君に怒鳴ったりしないし、酷い事だってしないよ。ご飯も美味しい料理を毎日作ってあげるし、欲しい物だって買ってあげる。シンジ君が望むなら、私の体を好きにしていい。でも、シンジ君はまだ中学一年生だもんね。そういうのに興味はあっても、知識はゼロに等しいか。でも安心して。最初は私が教えてあげる。私も経験無いけど、年上としてちゃんとリードしないとだもんね。きっと今まで経験したどんな事よりも素晴らしい体験が出来るよ。私も、君も。だから、ね? 一言だけでいいの。アメリアが良いって言って。それだけでいいんだよ? それだけでシンジ君は幸せになれるし、私も幸せになれるんだよ? ねぇ、シンジ君。起きてるんでしょ? そこにいるんでしょ? 何も考えなくていいの。ただ私の名前を呟くだけでもいいの。言って。言って。言って言って言って言って言って言って―――」


 僕は悪夢にいるのか? アメリアの様子がおかしい。気が狂ったなんてものじゃない。まるで別人みたいだ。こんなの聞かされてクローゼットを開けるわけも、声を出すわけもない。


 寝よう。寝るんだ。これは悪夢で、寝たら朝になってる。でも、僕は今起きてる。じゃあ、これは現実なのか? 今クローゼットの前に立ってるアメリアは僕の悪夢の産物ではなく、本物なのか? 


 アメリアの狂気にあてられたのか。僕はクローゼットの外が気になってしまった。扉を開けた先に良い事など無いと分かっていながら、開けてしまう。


 ゆっくりとクローゼットの扉を開けていき、扉が全開になって見えたのは、空っぽの部屋。クローゼットから出てアメリアを探してみたが、何処にいなかった。


 真面目さんの部屋を訪れてみると、アメリアはベッドで静かに寝息を立てていた。


 部屋に戻る廊下の途中、真面目さんと遭遇した。


「こんな夜遅くにどうしましたか」


「……いや、ちょっと怖い夢でも見てたみたい」


「そうですか。ですが、もう大丈夫ですよ」


 そう告げた真面目さんの瞳は、暗闇の中でもハッキリと見えた。

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