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男の夢と現実

 中学の夏休みの宿題は、小学生の頃からあまり変わっていない。複雑化された問題集が十数ページに渡って展開されているが、別冊にはそれらの答えが全て載ってある。答え合わせ用に用意されている物だと思うが、ほとんどの人は答えを写す為に使う。僕も例外ではない。


 二人はというと、答えを見ずに自力で解き続けている。アメリアは時折答えを見ようとするが、ギリギリの所で堪える。真面目さんに至っては、問題を解くのと同時に採点作業までやってる。


 朝の九時から始めた勉強会。僅か三十分の間で、三者三葉がテーブルに現れていた。


「二人共、なんで真面目にやってんの?」


「だって、答えを見ながらやるのはズルじゃない。カンニングは身にならないよ」 


「さっきから答えを見ようとしてたんじゃん」 


「グッ!?」


「……まぁ、木田君のように答えを見ながら解くのはズルですね。ですが、そういったズル賢さは必要なものです。要領学の夏休みの宿題は、小学生の頃からあまり変わっていない。複雑化された問題集が十数ページに渡って展開されているが、別冊にはそれらの答えが全て載ってある。答え合わせ用に用意されている物だと思うが、ほとんどの人は答えを写す為に使う。僕も例外ではない。


 二人はというと、答えを見ずに自力で解き続けている。アメリアは時折答えを見ようとするが、ギリギリの所で堪える。真面目さんに至っては、問題を解くのと同時に採点作業までやってる。


 朝の九時から始めた勉強会。僅か三十分の間で、三者三葉がテーブルに現れていた。


「二人共、なんで真面目にやってんの?」


「だって、答えを見ながらやるのはズルじゃない。カンニングは身にならないよ」 


「さっきから答えを見ようとしてたんじゃん」 


「グッ!?」


「……まぁ、木田君のように答えを見ながら解くのはズルですね。ですが、そういったズル賢さは必要なものです。要領の良い人間は、真面目なだけの人間より優れていますから」


「おぉ。真面目さんが言う言葉とは思えない」


「清水です。それと木田君。問題集を少しは間違えておいてください。全問正解するほどアナタの頭は良くありませんから。課題を早く終わらせる能力があっても、ズルを気付かせない能力が無ければ意味がありません」


 真面目さんは新品の消しゴムを僕に投げ渡すと、僕の問題集のページを最初に戻した。将来、何かの仕事に就いた時は、真面目さんのような人が上司にいない環境を願う。


 時計の針が十二時を指す前に、僕達は問題集を終わらせた。残るは読書感想文と日記だけ。ほぼ終わったようなものだ。


「お昼前に終われましたね。下からお昼ご飯を持ってきますので、お二人はここでしばらく待っていてください」


 そう言って、真面目さんは部屋から出ていった。


 真面目さんの部屋に取り残された僕とアメリアは、改めて真面目さんの部屋を見渡した。趣味を思わせる類の物は無く、置かれているベッドやクローゼットなどはシンプルな造り。何色にも染められていない所はホテルみたいだ。 


「清水ちゃんって、趣味とか無いのかな? せっかくお部屋に誘ってくれたんだし、仲良くなる為に知りたかったのに」


「本とかじゃないですか? ほら、あの棚に並べられた本」


「これ? ……文字が一杯だ。どのページにも絵が無い。眩暈がしてくるよ……あぁ」


「え、ちょ―――」


 眩暈を起こしたアメリアが僕の方へと倒れてきた。咄嗟に受け止めにいこうとしたものの、僕よりも背が高いアメリアとの体格差からして、受け止めきれるものではなかった。


「うぅ……あ、ごめん!」


 床に激突した後頭部は痛いものの、アメリアの体と衝突した前面は、アメリアの柔らかさで痛みは無かった。鶴の体は化けたものだったが、アメリアのこれは正真正銘の本物。そう考えると、まだ中学三年の時点でこうも成長しているアメリアのポテンシャルは恐ろしいものだ。


「あの、シンジ君? 本当に大丈夫?」


 顔に胸を押し付けられた状態で何か喋れるはずもない。しかし無言のままでは心配をかけさせてしまうので、アメリアの背中をポンポンと叩いた。


「良かった……シンジ君に怪我させたんじゃないかって心配になっちゃった」


 なら早く退いてほしい。僕だって男なんだ。心では平静を保っていても、体はそうとは限らない。


「……フフ」


 さっきより苦しくなった。息がしにくい。僕を潰しにかかってる。もう生理現象とか気にしてる場合じゃない。普通に死ぬ。


「シ、シンジ君も、こういう事に興味あるよね? 私なら、してあげられるよ?」


 苦しい。僕の顔に当たってる部分が湿ってきている所為で、辛うじて出来ていた呼吸が完全に出来なくなってる。鼻と喉に蓋を被せられた気分だ。腕を動かそうにも、何処に力を入れてどう動かせばいいのか分からない。


 科学の実験で、瓶の中にあるロウソクの火が、密閉状態によって消えるように。僕の命も風前の灯火だ。


 コンコン。


「ッ!? 清水ちゃん戻ってきた!」


「―――カハァッ!?」


 ノック音をキッカケに、アメリアはようやく俺から離れてくれた。解放された後の呼吸は、僕に安堵と幸福をもたらした。


「残念。また今度二人っきりの時に―――って、大丈夫!? 顔色悪いよ!?」


「……大丈夫……多分……!」   


 宇宙空間では呼吸が出来ない。その恐怖がどれ程のものかを思い知った。

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