夏休みの予定
僕は人間じゃないかもしれない。
鶴と暮らして三ヵ月が経ち、一学期の終業式を終えた後に悟った。常識的に考えて、人に化けた妖怪の類と三ヵ月も無事に同居出来ているのは、向こうも僕の事を人間として捉えていないからでは?
「真面目さん」
「清水です。明日から夏休みですね。木田君は何か予定はありますか?」
「僕って人間じゃないのかな?」
「……一考の余地はありますね」
やはりそうなのか。真面目さんが言うのだから間違いないはずだ。
「ちなみに、どうしてそのような考えを?」
「だって、人に化けた鶴、謂わば妖怪と一緒に暮らしていながら、今日まで無傷で生きてこれたんだよ?」
「無傷というわけでは―――いえ、なんでもありません。人は常識に囚われた生き物です。その常識には無い存在が現れたとなれば、基本的に不安や恐れを覚えます。ですが、木田君の場合は良くも悪くも能天気なので、時間が経った今、その感情を覚えているのでしょう」
「つまり?」
「気にする必要はありません。木田君は人間ですから」
「そっか……じゃあ、なんで一考の余地はあるって言ったの?」
「今更過ぎる悩みを聞かされたので」
「そっか……」
それからアメリアを加えた三人での下校中、今度は別の悩みが生まれた。
「夏休み。何の予定も無いな」
「今答えてくれるんですね」
「え? シンジ君、何の予定も無いの?」
一ヵ月間の長期休みとはいえ、何の予定も無いのはつまらない。鶴と何処かへ出掛けたとしても、土日の休みしか誘えない。予定の無い空白が五日もある。最初の週は夏休みの宿題で潰せるが、後は本当に何もやる事が無い。
「予定が無いのでしたら、一緒に宿題を片付けませんか? 明日からでも」
「いいね! どうせなら、宿題が終わるまで泊まり込みにしない?」
「それは……いいかもしれませんね」
「オッケー! じゃあ明日からね! あぁ、楽しみだな~! 二人と夏休みの間、一緒に暮らせる~!」
いつの間にか泊まりが決まってる。別にいいけど、一応は僕も参加者なわけで、僕の意見を聞いたりしてほしい。
「宿題が終わったら、色んな場所へ遊びに行きましょう。山でも海でも」
「私、海行きたーい!」
「木田君は何処か行きたい場所はありますか?」
「……そもそもさ。誰の家で泊まり込みで宿題を片付けるの? あ、僕は無理だよ。ついでにアメリアも無理」
「そうだね。部屋の数も足りないし」
必然的に真面目さんに視線が集まる。
「……親に聞いてみますね」
「やった! 清水ちゃんの家にお泊まりだ! 明日が楽しみだね、シンジ君!」
「そうですね」
そんなわけで、明日から真面目さんの家で泊まり込みの勉強会だ。真面目さんを家まで送った事はあったけど、中に入るのは初めてだな。というか、誰かの家に泊まる事自体、僕にとっては初めてだ。手土産とか持ってけばいいのかな。
しかし、勉強会が確定したわけではない。真面目さんの両親が駄目だと言えば白紙。そして我が家の場合、鶴の許可が下りなければ僕は不参加。
「―――というわけで、真面目さんの家に泊まるかもしれないんだけど……いいかな?」
晩ご飯の後、鶴に聞いてみた。鶴は湯呑に入ったお茶を一口飲むと、ホッと息を漏らした。
「えぇ。構いませんよ」
「おぉ。意外とすんなり許すんだね」
「共に暮らし始めた時は、貴方様が他の小娘に現を抜かす心配をしておりました。ですが、今は違います。ワタクシがいる場所こそが、貴方様の帰る場所になれたのですから」
「お互いにそうだけど、本当に慣れたよね。この生活」
「そうですね。既に熟年夫婦の域に達しているかと」
「熟年って。それは鶴だけじゃん」
「あら、確かに! フフフ! フフッ……フハハ……ハハ……お風呂掃除、今日は貴方様がしてくださいね」
意外と年齢を気にしてるんだな。なんか段々と人間らしい一面を見れるようになって、ちょっと嬉しいかも。
それにしても、まさか真面目さんから誘われるとは思わなかった。基本的に、僕かアメリアが提案した事に巻き込まれるタイプだと思ってたから意外だ。このまま人付き合いに積極的になれば、学校でも僕とアメリア以外に友達を増やせるだろう。
風呂掃除を終えてリビングに戻ると、鶴が椅子に座って雑誌を読んでいた。後ろから見ているページの内容を覗くと、おすすめデートスポット特集が載っていた。
「それ、遠い所ばかりだから行けないよ?」
「あら、貴方様。遠出はお嫌いですか?」
「うん。だって面倒だし」
「ワタクシが飛んで運べば、どんな公共機関よりも早く辿り着けますよ!」
「万が一に見られたらマズいじゃん。こんな遠くまで行かなくても、近くにも色々あるよ。滝が凄い山とか」
「山ですか……良いですね。それでは、土日にお出掛けしましょうか。楽しみですね、貴方様」
白紙だらけの夏休みになると危惧していたが、どうやら杞憂だったようだ。楽しい思い出を沢山作れたらいいな。




