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私の翼(アメリア視点)

 私には気になる子がいる。私よりも小さくて、私よりも可愛い男の子。


 その子とは、転校初日の校門前で出会った。一歩踏み出す勇気が湧かなかった私は、横を通り過ぎていく知らない人達に声を掛けられるのを待っていた。みんな私の姿を見ては頬を赤らめていたけど、私のもとへ近付いてはくれなかった。通り過ぎていく人がいなくなり、一人佇んでいると、私の背中に翼が生えた感覚があった。


 振り返ると、天使のような可愛い男の子が立っていた。一目見た瞬間、覚えたのは運命の予感。この子は私が困っているのを見かねて、私の為に空から降り立ったのだと。


 天使の名前はシンジ。可愛くて、意外と口が悪い男の子。けれども、私が迫っても逃げたりせず、私と向き合ってくれる。私を見る瞳には一切の感情が無く、まるで死んだ人間のよう。けれども、そこがまた可愛らしい。   


 運命の予感は的中していた。同じ学校に通ってるだけでなく、これから住むマンションの隣に住んでいた。あの子は必ず私のすぐ傍にいる。いずれ本当に私の翼となって、いつか私を空に運ぶ。


 ただ、私達の運命を邪魔するの人間がいる。


 シンジ君の隣の席の清水さん。


 そして、シンジ君の家に居るあの女。


 清水さんについては、私とシンジ君の運命を邪魔するような人ではない。ただ、不思議と介入してくる。あの物静かな雰囲気に、策略が秘められている。


 あの女。シンジ君の家にいるあの女は、邪魔だ。ヒステリックで自分勝手で、シンジ君をよくない目で見ている。時折、壁からあの女の声が聞こえてくる時があると、私は途端に不安になってしまう。


 暴力。


 性的搾取。


 洗脳。


 シンジ君と二人っきりになれる時、さり気なくあの女について聞いてみるけど「気にしなくていい」とばかり言う。


 私の故郷は日本じゃない。母からの推薦で日本に留学してきた。いつ向こうに戻るかは分からない。高校を卒業したら。もしかしたら、中学を卒業したらかもしれない。どちらにせよ、私には不確定なタイムリミットがある。


 時間切れのその時までに、私はシンジ君を助けないといけない。シンジ君に私との運命を知ってもらわないといけない。シンジ君に私の翼になってもらわないといけない。


「……雨」


 空が泣いている。もう何日も泣き続けてる。私とシンジ君の運命が滞っている事が悲しくて仕方ないんだ。


 けども、私はどうすればいいのだろう。やらなければいけないのは分かってるけど、どうすればいいのかは分からない。今も呑気にドーナツ屋さんで一人では食べきれない量を買って後悔する程、私には計画性が無い。


 結局私は、一人では何も―――


「あ、アメリアだ」


 お店を出た先で、シンジ君がいた。身の丈に合わない大きめの傘をさして。 


「シンジ君……君こそ、こんな雨の中、わざわざ外に出てどうしたの?」


「雨でも外に出るでしょ。ちょうどアメリアが出てきたドーナツ屋に用があって。テレビでやってたから買いに来た」


「そうなんだ。あ、じゃあさ! 私が買ったやつを一緒に食べようよ! 一人で食べ切るには、多く買い過ぎちゃって」


「あぁ、なんか分かる。買う前はいけると思っても、実際買ったら多いってなるの。じゃあ、せっかくだし貰っちゃおうかな」


 そう言うと、シンジ君は差していた傘を傾けた。


「他に寄る所が無いなら、このまま一緒に帰りましょう。見たところ、傘無さそうですし」


 あぁ、この子はなんて優しい心の持ち主なのだろうか。自然と傘に入れてくれる所から、この子には私に対する下心が何もない。同じ帰り道だからという単純な動機しかないのだ。


 シンジ君の傘に入った。頭の先がちょっとだけ傘に触れてしまう。そんな私に気を使って、わざわざいつもより少しだけ高く傘を掲げてくれた。


「すみません。同じ傘に入るには、流石に身長差がありましたね」 


「ううん。嬉しいよ」


「……もうちょっとすれば、多分僕の背もアメリアと同じくらいになりますから」


 きっとこの言葉も、特に深い意味は無いのだろう。


 それでも私には、同じ背丈になるまで傍にいると聞こえてしまう。


「あれ? 雨、止みましたね?」


「一時的にじゃないかしら? きっとまたすぐに降ってきちゃうよ。だから、家までこうして行こうね」


 私が困っている時、この子はいつも私の傍に現れてくれる。その度に、私とこの子は近付いていく。今はこの子の歩幅に合わせているけれど、いずれは同じ歩幅で、そして私と共に―――


「そういえば、ドーナツは何買いました?」


「えっとね、色々! チョコとか、ストロベリーとか。あとね、穴の開いてないドーナツも買ったよ!」


「それドーナツと呼べるんですか? まぁ、それだけ種類があるなら、鶴が食べたいのもあるでしょうね」 


「―――へ?」


 シンジ君の口から、あの女の名前が。


「昨日からずっとゴネてるんですよ。どんなのか食べてみたいって。子供じゃあるまいし、みっともないですよね」


 どうして嬉しそうにあの女の話をするんだろう?


 どうしてシンジ君があの女の為に動いているの?


 どうして、傍にいる私を見てくれないの?


「うわっ!? 急に降り出した! 本当にすぐまた降ってきましたね。しかもさっきより強い気がする」


「……そうだね」 

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